96.サンドバッグくんの試練
翌日の授業では、さっそく自分の適性のある武器を使ってみることになった。
といっても、さすがにほかの生徒や魔物と戦わされたりはせず、用意された的に攻撃することになった。
しかし……その的の見た目が衝撃的だった。
まず、形は高さ一メートル、横幅三十センチほどの灰色をした円柱形。
わかりやすく言えば、布団や体育マットを巻いたような見た目だ。
で、正面に顔がついているのだが、その表情がなんというか……つぶらな丸い瞳に微笑んだような口という、シンプルにかわいさを覚えるようなものなのだ。
当然、多くの生徒から「これを的にするんですか!?」という反応があった。
しかし、メジェラ先生は至って冷淡に「そうだ」と答えた。
「この人形には名前があってな……『サンドバッグくん』という。そこまで執拗に攻撃する者もいないとは思うが、いくら攻撃しても壊れない的だ」
いや、私達が聞きたいのはそこじゃない。
でも、この先生にそんなことを言う方が野暮だ。
とりあえずこの人形(人形……なのか?)は、どんなに攻撃しても絶対壊れない最強の的であるらしいので、遠慮なく武器のお試しができる。
で、この人形は各生徒に一つずつ配られた。
これを目の前に立て、短剣で切ったり弓で撃ったりするのか……。
ちなみにブーメランについては、弓と同様に離れて攻撃してよいそうだ。
的なのはいいのだが、どうしてこんなかわいらしい顔をつけたのだろう。
そのせいでためらいそうになる、というか実際にためらっている生徒もちらほらいた。
ただ、それでも結局はやらなければならないことなので、この愛くるしい人形を攻撃することにはなる。
私はまず短剣を振るったが、顔の少し上……眉毛より五センチほど上のあたりを斬った。
ザクッという音が出たが、削れている様子はない。
次に距離を取り、ブーメランを投げつけた。
こちらも人形にザクッと音を立てて刺さったが、それがなんと左目のところに刺さった。
抜いた時には穴が塞がっており、何事もなかったかのようになっていたが、それでも痛々しく見えてしまう。
次こそは、顔を撃たないように……と弓を引き、顔の下を狙う。
すると、矢は少しだけ上に飛び、人形の口のすぐ下に刺さった。
ただの的であるし、さっきよりはマシなはずなのに、ものすごく痛々しい、申し訳ない……という気持ちになった。
その後もしばらく適当に短剣を振るったり、弓とブーメランで攻撃したりしていたが、やはり心が痛む。
無抵抗で、しかもかわいらしい顔をしたものを切り刻んだり、的にするなんて……。
ただ、先生によればこれは意図的なデザインであるらしい。
魔物の中には愛らしい見た目のものもいるし、そうでなくても見た目で攻撃をためらわせてくる敵がいるため、そのようなものを前にしても立ち向かえるようにするための訓練を兼ねている、とのことだ。
まあ、おかしいことは言っていないのだが……それにしても、なかなか精神的に厳しい授業スタイルだと思う。
この人は元より厳しい先生だが、ここまでだったとは。
ちなみに、今回は初めてなので棒立ちしている的でやったが、そのうち動く的でも同じ授業をやるらしい。
その時もこんな感じの表情の的なんだとしたら、教室に生徒達の心の悲鳴が響き渡りそうだ。




