92.未来を選べる幸せ
結局、課題には「マージとして冒険者になるのが目標」と書いた。
みんなの前で発表したりする必要はなく、他の生徒がなんと書いたのかも知らされなかったが、まあ大半の生徒は私と同じようなことを書いたに違いない。
ちなみに今回の課題は、どうも四年生から始まる進路関連の科目の内容を決めるものだったらしい。
現時点では、冒険者を希望したことでどういう影響があるのかは聞かされなかったが、四年生になればおのずと明らかになるだろう。
今回の課題が終わってすぐに修了式を迎え、春休みが始まった。
今年からは春休みの宿題がなくなるらしく、これで楽ができると多くの生徒が喜んでいた。
無論私も嬉しかったが、その理由は別に遊びたいからではない。
魔法の練習をしたり、独学の勉強をしたりしたかったからだ。
というのは、この前の課題で出す原稿を書いていた時に母に言われたのだ……「マージを目指すのなら、今のうちからそれに備えて訓練と勉強をしておいた方がいい」と。
なので、春休みは母と共にいろいろやることにしていた。
宿題があるとちょっと厄介だったのだが、ないなら一安心だ。
ちなみに母はこのことを知っていた……というか見当がついていたらしく、「私が通っていた頃も、四年生からは春休みの宿題がなかった」と言っていた。
もっとも、母の頃は別の問題があったそうだが。
「私の頃は、戦争の真っ只中だったから……宿題がなくても、空襲とかで死傷する生徒が少なくなかったから、むしろこっちの方が問題だったのよ」
今から二百年前……母が私と同い年だった頃は、大陸中の国々が東西に分かれて戦う戦争が起きていた。
それは母が十歳、つまり入学した年から五年間に渡って続いた。
当初は影響は小さかったが、母が四年生になる頃からは戦争が激化し、この辺りにも敵国が攻撃をしてくるようになった。
そのため、母もいつ自分が死ぬかわからないという環境で生活していたという。
私たちのいる国である「レフェ」は西側に属していたのだが、戦争の後半では物資も人員も足りない状態に陥っていた。
そのため、学院を卒業したら戦地に赴く兵士になるか、負傷した者の治療に回るか、あるいは戦地で使う道具や武器の製作に回るか、いずれにせよ戦争の役に立つ仕事をするのが当たり前とされ、学校は事実上戦争に役立つ人間や魔法使いを育てる場所となっていた。
「今にして思えば、それも良くないことだったわ。学校ってのは、兵士を育てる場所ではないはずだからね」と母は語った。
ちなみにレフェ属する西側は、結果的には戦争に負ける形で終戦を迎えた。
その後東側の国々に占領され、一時は統合されるという話も出たが、人々の抗議運動によってそれは免れたという。
「アリアは幸せなのよ。当たり前に学校に通って、勉強ができて、友達と遊べているんだもの。私の頃は、そんなことをしてられる余裕はなかった……こんなことを言うのもなんだけどね」
戦争のことはわからないが、今の生活が幸せなものであることはよくわかる。
何なら、ここまでいじめられずに生きてこられただけでも十分幸せである……無論、この世界に転生でき、母の娘として暮らせていることもまた奇跡的な幸運だが。




