91.自分らしい未来へ
その後は特にこれといったこともなく、月日が過ぎていった。
そして、気がつけば三月になっていて……あと少しで春休み、さらにその先は四年生進級という時期が来ていた。
修了式に先駆けて、「十五の日の希望」という課題をクラス全員で行った。
これは、要は「卒業した後、何をしたいか」ということを表現する、総合の授業のような課題だ。
この学院は五年制で、十歳で入学する。
なので、卒業する頃はもう間もなく十五歳を迎えることになる。
私の場合は、それがほぼ一年先になるのだが……というのはさておき、卒業した後のことは、実ははっきりとは決めていない。
何となく冒険者になりたいという希望はあるが、その場合も自分のジョブ、つまり役職を決めなければならない。
そのジョブはやたらと種類があるが、どれにも属さないということはまずない。
私は回復より攻撃が得意なので、攻撃魔法をメインとするマージのジョブがいいかな……とは思うが、どうなのだろうか。
無論実際に決まるわけではないにしても、将来に関わることなので母に意見を聞いた。
やはり母も、私はマージになるのが向いているのではないかと言っていた。
ちなみに、母もかつてマージとして冒険者のパーティに参加していたらしい。
「そういえば、実際冒険者って生活していけるの?」
「実力次第ね。優れた実力を持っていれば、強い魔物と戦うような危険な依頼も引き受けられて、相応の報酬をもらえるから、十分に稼げる」
「まあ、危険な職業ではあるよね。下手すれば、ケガでは済まないこともあるわけだし」
「ええ。だから、特に実力の低い冒険者は他に仕事をしていることもよくあるのよ」
それを聞いて、確かにそうかと思った。
実際に冒険者になったところで、私にどれだけの実力があるのかはわからない。
場合によっては、他の仕事をして稼ぐことも考えなければならないだろう。
その場合、どんな職に就くかだ。
「何なら、私と同じように魔導書を書くという手もあるのよ?」
「でも、それでちゃんと稼げるかな?」
「最初は全然稼げないけど、続けていればそのうち売れるようになって、稼ぎになるわ。私みたいに、特定の個人の名前にブランドがつけばもっと稼げるしね」
母は世界に一人だけの「炎の大魔女」であり、別名を『灼炎の女皇』とも呼ばれている。その知名度も当然高い。
だからこそ、母が書いた魔導書には文字通りプレミアの値段がつく。
私もそのようになれるのだろうか。
「母さんは、どうして冒険者をやめたの?」
「外を出歩いてると、行く先々で騒がれて……照れくさいからよ」
そういうことか。だとすれば、近隣にまともな家がないこの場所に家を構えているのもわかるし、世間にここに住んでいることを公表していないのも納得がいく。
「私もそうなるかも。学院でさえ、何かにつけて『灼炎の女皇』の娘だから……って言われるし、町でもそうだもん」
「それは仕方ないわね。でもいいじゃない。周りに期待されるのは、見下されるよりずっとマシよ」
それは確かにそうだ。少なくともなめられて、いじめられたりする心配はないわけだから。
「アリアには、自分の未来は自分で決めてほしいと思ってる。私のように魔導書書きになるのもいいだろうし、冒険者になるのもいいだろうし……自分らしく、後悔しない生き方ができるならなんでもいいし、応援したいと思ってる」
母にそう言われて、胸の奥が温かくなった。




