87.ゼギタリス収穫
それから数日後の魔法植物学の授業で、ゼギタリスの収穫を行った。
ついこの前まで真っ赤な花を咲かせていたそれは、今となっては花はほとんど枯れ、代わりに茶色の実をつけていた。
その見た目はさながらアサガオのようだが、中の種は真っ白で、大豆のような丸い形をしている。
この種には毒はないが、それ以外の部位は果実を含めて有毒なので、手袋をつけて作業する。
種は来年蒔くので、果実を割って取る。
これまたアサガオのように手で簡単に壊せるので、特別な道具は必要ない。
一つの果実の中には、必ず二つの種が入っている。
そして、一つの株には必ず十個の果実がつくので、一株あたり二十個の種が取れる。
「しかし、なんというか……できる実は意外と少ないんだね。花はあんなに咲いてたのに」
「ゼギタリスは花をたくさん咲かせるけど、実をつけるのはそのうちの半分だけなの。詳しい理由はわからないけど、栄養を集中させるためなんじゃないかって言われてる」
ノエルはそう語りつつ、自分の目の前にある草を根元から引き抜いた。
種を取った後の草は魔法薬の材料になるので、引き抜いて規定の容器に入れる。
別の容器に入れている種共々、後で集めることになっているのだ。
「これの花、きれいだったよね……真っ赤で大きくて。温室の窓越しにしか見れなかったのが残念」
「仕方ないよ。香りにも毒があるから」
先生によると、今回収穫した株は「ゼギタリス薬」という魔法薬の材料にされるらしい。
これはその名の通りゼギタリスをふんだんに使った魔法薬で、飲めば体のあらゆる毒を中和し、無効化できる。
毒ヘビや毒グモに噛まれた時なんかはもちろん、毒のあるものを食べて食中毒を起こした時にも使えるという。
いつぞやのキノコで中毒を起こした時に、これがあれば……と思ってしまった。
ちなみに六月に喧嘩をし、七月のこれを植え替える授業の時に仲直りしていたルークとジェイルは、今となってはすっかり仲良しである。
何というか……雨降って地固まるというべきだろうか。
何気に私達にも通ずるものがあると思う。
もっとも私達の場合は喧嘩ではなく、いじめの復讐と対峙を経て互いの関係が改善しているのだが。
授業が終わった後、ノエルとユエがゼギタリスを素材とした魔法薬のことについて話していた。
ゼギタリスは意外にも解毒や状態異常回復、解呪の魔法薬に使われることが多く、ヒーラーを目指しているユエはそれなりに調べているらしい。
一方ノエルはサポーター、味方の状態異常を治したり相手にデバフをかけたりするジョブの冒険者になることを夢見ており、こちらも魔法薬のことはある程度学んでいるという。
「サポーターか。ちょっとニッチというか、変わり種のジョブね」
「必須とはされないからね。少なくとも、ヒーラーとかよりは採用率は下がる。けど、基本的に仲間の援助を得意としつつ、回復や攻撃もある程度できる……っていう立ち位置、なんか好きなんだよね」
「へえー。ま、そういう人いるからね。それに、ブレスとか魔法封印とかは、サポーターでないと対処が難しいことがあるし、いれば間違いなく助かるよ」
「そうでしょ?私、そういう存在になりたいの。……あ、もちろんあなたの手助けをするつもりだけどね?」
「あんたと組むなんて言ってないよ?嫌だとは言わないけど」
そんな会話をしている二人を見ていると、かつていじめの加害者と被害者の間柄だったとは思えない。
仲良くやれるのなら、それが一番だが。




