86.いつか、同じパーティで
今回の私の復讐について、リーネは「彼の苦しみはよくわかる」としつつ、同時に私の気持ちも否定はしないと言った。
彼女に……奈々にしたのは精神的、肉体的な復讐だったし、どちらをされた側の気持ちもわかるのだろう。
ノエルは、「少しやりすぎなような気もするけど、私達が昔したことを思えば当然」と言っていた。
こちらはかつて直接肉体を燃やしてやった相手だが、その時の苦痛は今回のマッドとさして変わりはないものだったはず……こちらも彼の気持ちがわかるだろう。
でも、残念ながら彼の受けるべき復讐はまだあった。
ユエ、つまり芽依もまた彼らにいじめられた人物であり、私と同様に彼への復讐心を抱いていたのである。
しかも、ついさっきまで露骨に怒りを向けていた。
何なら以前のリーネへの復讐でも、私と同等かそれ以上に強烈な復讐をしていた。
そんな彼女が、マッドこと悠人に対し実際にする復讐はどんなものなのかというと……
顔面に、蹴りを一発。
それだけで、済んだ。
「……?」
マッドは頬を手で押さえつつも、何があったのかわからないというような顔をした。
そんな彼に、ユエはこう語った。
「私は、お前のことは絶対に忘れないし、許さない。でも……今すぐの復讐は、これだけにしとく。三春じゃないけど、お前も奈々と同じだ。生きたまま償いをしてもらう」
彼女に何をされるのかと怯えていたのだろう、その言葉を聞いて悠人はほーっと息をつき、前に倒れ込んだ。
そこにはユエしかいなかったので、ユエがそれをとっさに押さえた。
「ちょっと、倒れないでよ。お前には、まだしてもらうことがあるんだから……勝手にくたばったりしたら、それこそ怒るからね!」
そんなことを言うユエの目は、先ほどまでとは別人のようだった。
それからしばらく、ユエはマッドに対してわだかまりはまだあるのだろうが、それでもだいぶ打ち解けた感じではいた。
少なくとも私の見ているところでは、口を聞かなかったり、あからさまに敵意を向けたりはしていない。
決定的な事実として、週末に私はユエと遊んだのだが、その際にマッドも来ていた。
相変わらずユエには「お前」呼ばわりされているが、これはリーネも同じだし、以前のような憎しみや怒りを含んだ言葉とは意味合いが違うだろう。
「しかし、マッドも冒険者も目指してたなんてね」
それとなく話題になった将来のことについて、マッドは冒険者になりたいと語った。
だが、それは私やユエ、リーネとまったく同じ夢だったのである。
「せっかく魔法やらダンジョンやらがある世界に転生したんだからな。そういうことしないともったいないだろ?」
前の世界では、大して面白くもないレストランでのバイトくらいしかしたことがなかったし、大学に入ったはいいが卒業する前に事故で命を落とした。それ故、今度こそ楽しい職業について生きていきたい、と彼は語った。
「ジョブは何を目指してるの?」
「マージだな。攻撃魔法メインのアタッカーとして、最前列に立つ。ヒーラーと並ぶ、チーム内の重要な立ち位置。そんな存在に、俺はなりたい」
それだけ聞くとご立派な理想だが、残念ながら実際のパーティではファイターこと物理攻撃職や、タンクこと物理防御職が最前列に立つことが多く、マージはその2番手となるのが普通だ。
「マージは最前列にはなれないよ?わかってる?」
「それはわかってるよ。でも、前列の方の立場なのは間違いないだろ」
「それで、表立って攻撃をするわけか……昔のお前とは真逆だね」
ユエが皮肉じみたことを言い、彼は言葉を詰まらせた。
「文句言うな!お前はヒーラーやるんだろ?だったら、俺みたいな前列がいなきゃダメだろうが!」
「誰がお前と組むなんて言った?いや……むしろ都合がいいかもね。私の代わりにたっぷり傷ついてもらって、前世の恨みを晴らせるもの」
「それは勘弁してくれ。お前のためだけに生きてるわけじゃないからな」
みんなで笑い飛ばしたが、何となくただの会話では済まないような気がした。
いつか、本当に彼とユエが……いや、何なら私も二人と一緒に冒険することになるかもしれない。




