85.死より重い罰
「な、何をする気だ……!?」
マッドはいよいよ腰を抜かし、後ろに倒れた。
「何だっていいでしょ?どんなことをされても構わないって……そういう覚悟があったんだよね?」
私は杖の先に炎を灯す。
ただし、これはいつものような赤い炎ではない。青色の見えづらい炎だ。
「これは普通の炎じゃない。『マインパルス』、精神を燃やす魔法。肉体には一切傷をつけずに苦痛を与えることができる」
杖をマッチのように上に向けたまま、彼に近づく。
「本来は子供のしつけとかに使われる魔法なんだけど、性質上拷問や虐待に使われることもある。もちろん、いじめにも使われるね」
「……正気か!?それじゃ、お前は昔の俺と同じことをすることになるぞ!」
「それはそうかもね。でも、そもそも最初にやってきたのはそっちでしょ?先に私をいじめた以上、同じようなことをされても文句は言えないはずよ」
自分でもわかるくらい、冷酷な声が出ていた。
杖の先に灯る炎は小さいが、私の中に燃える炎は大きい。
わずかに美沙たちが私の名前を呼んだ気がしたが、もはや関係のないこと。
今はただ、こいつへの復讐を完遂するだけだ。
炎を放った途端、マッドは低い唸り声を上げた。
それ以外の音は一切聞こえず、外見には何も変化がない──だがそれこそ、この魔法の真価であり恐ろしさだ。
「精神を燃やす魔法」の名前の通り、精神……正確には、魂そのものに炎で焼かれるような苦痛を与える。
そして魂は肉体とは別物のため、肉体へのダメージは一切なく、死ぬこともない。
結果として、本人は間違いなく痛いし苦しいが、その体には一切傷がつかず、健康なままということになる。
こんなものが子供のしつけに使われる……なんて恐ろしい話だが、幸いにも私はやられたことはない。
ただ、確かに罰にはなるだろう。
実際に体を焼かれるわけではないにせよ、本人の意識が味わう苦痛はそれと何ら変わりないものであるから。
「ああっ……!あ……っ!ううっ……!」
マッドは床に倒れ、胸や腹を押さえてはすぐに別の場所を押さえた。
全身にくまなく苦痛を感じているのだろう。
見ていられないと思ったのか、ノエルは目を覆っている。
一方でリーネとユエは、それぞれ浮かべている表情は違えど、苦しむ彼をしかと見ていた。
やがて彼は地面を這い、私に手を伸ばし、かすれた声で懇願してきた。
「も……もう、やめ……じゃなきゃ、殺し……」
あまりの苦痛に、「いっそ殺してくれ」と言ってきたか。
だが、私はそんなつもりはない。
「殺してくれ、って言いたいの?ならあいにくだけど、私はそんなことはしない」
彼は、絶望的な表情をした。
「でも……これ以上いたぶるのもかわいそうだしね。わかった、やめてあげる」
魔法を解除すると、悠人は力尽きたように床に伏し、動かなくなった。
無論、死んではいないだろうが。
「これでわかったでしょ?あの時、私がどれだけ苦しい思いをしてたか。誰かをいじめた代償が、どれだけ重いものか」
私はしゃがみこみ、顔を上げようともしない彼を見つめて言った。
「私と芽依は、お前たちに命を奪われた。でもそれについては、同じことをしようとは思わない……反省してるって言ってたし」
そこで彼は顔を上げた。
苦しんでいるようで、悲しげに笑っているようで……何とも言えない表情だった。
「お前も奈々と同じだ。死ぬんじゃなくて、生きろ。生きて、一生かけて償いをしろ。私達を支え、隣に立つ存在として……生き続けろ」
悠人は涙をこぼした。
それが殺されずに済んだという喜びか、どうして生かすんだという悲しい笑いか、はたまた味わった苦痛から出た目の反応か、私にはわからなかった。




