83.向き合う時
ニールとマッドの悶着を目撃してからわずか二日後、その時は来た。
この日は休日で、特に予定はなかったのだが、なぜか家から出たくなった。
その際、母には「友人の家に行ってくる」と伝えたが……当初、どこに行くかは決めていなかった。
ただしその後、何かに導かれるようにユエの家を訪ねたので、結果として嘘にはならなかった。
ユエは今日は一人だったらしく、両親はいなかったのだが……。
家に上がってすぐに違和感──というか、もはやそれを超えた何かを感じ取った。
その原因は、案内された部屋でわかった。
「……え」
なんと、部屋にマッドがいたのだ。
そればかりかノエルとリーネもおり、二人は怪訝な顔でマッドの方を向いていたが、私の顔を見て驚いた顔をした。
「ほらな、来ただろ。俺の操りの魔法に、間違いはないんだ」
どこか誇らしげに語っているあたり、マッドが私に魔法をかけてここに連れてきたようだ。
「あんたって人は……まあ、いいけどさ」
リーネがため息をつき、私の方を見てきた。
「ごめんね、わざわざ来てもらって。こいつ、あんたに言いたいことがあるんだって」
「へえ……?」
私はマッドの前に出て、彼の目をまっすぐに見た。
「アリア……だよな。今の名前は」
今の、とわざわざつけているということは、やはりこいつは前世の私を知っているのか。
なぜ向こうから呼びつけたのか気になるが、とりあえず話を聞くことにする。
「何の用なの?」
「ずっと聞きたいと思ってたんだ……お前、三春だよな?鈴木三春、昔俺とか奈々がいじめてた奴」
彼は、自分がかつて「佐川悠人」という人間であったことを自白した。
その名前、忘れるはずもない……かつて私をいじめてきたグループの一人だった男子だ。
積極的に絡んでくる人物ではなかったが、常に他のいじめっ子たちと一緒に手を上げてくる、いわばお供のような男だったはず。
私が自殺し、芽依が学校を辞めた後も、彼は奈々と同じように普通に生活し、卒業した。
しかしその後、大学に入って二年後の夏に車で事故を起こし、命を落とした。
そこからこちらの世界に転生してきたが、時間の流れが違うのか、数年前に死んだ私や芽依と同じ年に転生した。
「四月にお前と同じクラスになった時から、変な感じがしてたんだ。で、葉っぱの占いに聞いてみてわかったんだ……昔俺がいじめてた女が転生したのが、アリアだって」
そこで、ユエが割り込んだ。
「こいつ、私とか奈々、あと美沙が転生してきてることも知ってたみたいなの!なのに、今の今まで何にも……どう思う!?」
「だから、さっきから謝ってるだろ」
「謝って済むか!お前は私たちを虐げて、最後は命を奪ったんだ。奈々の時も言ったけど……私は、お前を絶対に許さない!」
「そうか。ならそれでいい」
「は?お前……ふざけんなよ!!」
怒り狂う芽依を、ノエルとリーネが抑える。
「彼はね、反省してなかったわけじゃなかった。でもだからこそ、あなたが怖かったんだって」
「どういうこと?」
「悠人は、あんた達にしたことを申し訳なく思ってた。でも、あたし達があんた達に復讐されたことを知って、自分もいつか同じことをされるんじゃないかって思ってたのよ」
なるほど、そういうことか……と思ったのも束の間、そこでユエこと芽依が再び怒りの声を上げた。
「騙されないで!こいつ、だからって何をしたと思う?あの手この手で、アリアを消そうとしてたのよ!」
彼女が言うには、悠人ことマッドはいずれ私に正体を見破られ、復讐されることを恐れていた。そして、謝ったところで許してはくれないだろうとも思っていた。
故に、私を殺そうと……少なくともゼスメリアから退学させようと、様々なことをしていたという。
以前の図書館での一件も彼が仕込んだものであり、そのしばらく前に私がジェキリに襲われたのも、彼の仕業だった。
何なら、ついこの前にはユエが一人でいたところを狙って彼女に即死魔法を使おうともしたらしい……彼にはまだ早い魔法だったようで、失敗したそうだが。
「こいつはね、何やかんや言って……結局、自分のしたことの責任から逃げてたのよ!仕返しされるのが怖いからって、私達を殺そうとしてたの……今度は直接ね!」
ユエは怒りが収まらないようだが、至極当然の反応だろう。
前世のみならず、今世でも殺されそうになったのだ──それも、報復を恐れるあまり。
そんなユエをリーネたちはなんとか抑え込み、今回集まった理由を話した。
「あたし達だって、このままじゃ良くないと思った。だから、なんとかこいつを説得して、こうして話し合いの現場を設けることにした。お互いに、過去の因縁から逃げるのはもう終わりにしよう?あたしだってそうしたんだから」
「芽依はもちろんだけど、三春もいろいろ思うところがあると思う。だから、私達は止めたりしない。けど……根っこのところでは、彼も私達と同じ。昔あなた達にしたことを、悪かったと思ってる。だから、その……」
私は視線をマッドに戻し、その目を見つめた。
きっと、今私は恐ろしい顔をしているだろう──長年探してようやく見つけた、因縁の相手を前にした復讐者のような。
「佐川悠人……」
その名を呟くと、彼は震えた。
「お前が俺に何をしようと、文句は言わない──当然の権利だ。けど美沙の言った通り、俺だって悪かったと思ってる。だから……」
「許して、って言いたいの?」
「そんなわけはない。何なら俺は、お前達を殺そうとしたんだ。仮に殺されても、文句は絶対に言えない」
彼はそう語ったが、その目は死ぬことを受け入れている者の目には見えない。
むしろ、まだやりたいことがある……そう言っているような気がした。




