80.魂の報せ
そこからしばらく、マッドはなかなか動きを見せなかった。
ただ、定期的にニールから話を聞き、「マッドの私に対する意向は変わっていない」ということは聞いてはいた。
それを聞く限り、マッドはニールが事実上の内通者であることには気づいていないようだ。
ただ、それでもやはり彼の身が心配だった私は、ある時思い切って聞いてみた。
「ニール、こんなことして本当に大丈夫なの?あなたは……彼が怖くないの?」
「そりゃ怖いさ。けど、それ以上にアリアが怖い。……ってのは冗談だけど、あいつの友達だからこそ、あいつを止めたいんだ。例え恨まれようと、憎まれようと……僕は、自分が正しいと思うことをするつもりでいる」
どうやら、彼の想いは本物らしい。
自分が友達を失うかもしれない、傷つけられるかもしれないというリスクと恐怖を知った上で、さほど親しくもない私を助けようとしている……その行為と想いに、嘘はないらしい。
ただいずれにせよ、このままでは良くないとは思う。
マッドもバカではないし、いずれ気づくだろう。
その時……いや、できればその時までに、決着をつけなければ。
しかし、向こうから何もしてこない以上、私からも何もできない。
表向きは、私はまだマッドの企みに気づいていないことになっているからだ。
現状が続けば、それだけニールの危険も増える。
そう感じた私は、彼に「魂の報せ」というものを渡した。
これは所有者の身に危険が迫った時、助けてくれる可能性の高い人にそれを知らせる、という道具……いや、炎魔法の一種だ。
普段は青色の火の玉だが、ニールに身の危険が迫った場合これが赤色になって私の元に飛んでくる。
ちなみにこれは、学院の授業でやったものではない。母から教えられた魔法を使い、私が自分で作り出したものだ。
何気に初めて自力でやった「ゼロから道具を作り出す魔法」だったりする。
ニールはこれを受け取り、私に守られているような気がすると言って大層喜んだ。
これを使っても、彼に危機が迫っていることがわかるだけで助けられるわけではないのだが……大げさというか、何というか。
実際のところ、この魔法はあまり使いたくないというか、単なる気休め程度だ。
あくまでも非常連絡用といったものであり、ニールに私が何かできると保証したものではない。
ある意味、前世で私がどれだけ苦しんでも「話を聞く」だけで、それ以上は何もしなかった連中と似たものを感じる。
だからこそ、これを彼に渡すのは気は進まなかったのだが、それでもやはり心配なので、お気持ちの表明程度の意味合いで渡した次第である。
あとは、私の状況と心持ち次第だろうか。
実際に彼を助けられるかは、私次第なのだ。
無論、ニールにはいろいろしてもらったし、是が非でも助けるつもりだが。




