8.四人の昼休み
実技授業はその後も続き、全員の基本攻撃魔法の確認が終わったところで終了となった。
炎、水、風、雷、土、氷、光、闇。
同じ「基本攻撃魔法」と言っても、属性によって見た目はかなり違う。
特に光属性の魔法は綺麗だった。
白く輝く光球が飛んでいく様子はまるで流れ星のようだったし、氷属性の魔法も透き通っていて美しかった。
魔法って、やっぱりすごい……改めてそう思う。
そして、午前中の授業が終わると昼休みになった。
生徒たちは思い思いに席を立ち、弁当を取り出したり、友達と話したりし始める。
「アリア!」
シルフィンが椅子を引きずりながらこちらへやってきた。
「一緒にご飯食べようよ!」
「いいよ」
「おっ、じゃあおれも入れてくれ!」
マシュルも弁当を抱えてやってくる。
「僕も構わないか?」
ライドも静かに尋ねた。
「もちろん」
そうして私たちは机を寄せ、四人で昼食を食べることになった。
「いただきます!」
元気よく言ったのはマシュルだ。
そして次の瞬間、「うまっ!」と言いながら豪快に弁当をかき込み始めた。
「うわ……早くない?」
思わず口走る。
「だって、腹減ったんだもん!」
確かに、実技授業はそれなりに体力を使った。でも、ここまで勢いよく食べる人は初めて見た。
「マシュルって、よく食べるんだね」
「ああ!父ちゃんにもよく言われるよ、それ!」
本人はまったく気にしていない。
「別に褒められてはいないと思うけど」
ライドが冷静に突っ込んだ。
その様子に、私とシルフィンは思わず笑う。
なんだろう……まだ出会って二日目なのに、妙に居心地がいい。
「あ、そういえばさ」
シルフィンがパンをかじりながら言った。
「アリアのお母さんって、本当に……セリエナ様なんだよね?」
「うん」
「いいなぁ……」
彼女は羨ましそうにため息をついた。
「私、セリエナ様大好きなんだ」
「そうなの?」
「うん!何なら、パパもママもセリエナ様を尊敬してるし!」
急にシルフィンの目が輝く。
「炎魔法って、かっこいいじゃん!熱いし!派手だし!強いし!」
まあ、それはわかるが……どうやらそこかららしい。
というか、やたらと熱弁している。
「それで昔、お祭りでセリエナ様の演舞を見たんだけどね!」
椅子から立ち上がらんばかりの勢いで、シルフィンは続ける。
「それがもう……すっごく綺麗だったの!」
炎が空に舞い上がり、花みたいに広がった……らしい。
まあ、私も母の魔法はすごいとは思うが……ここまで熱く語れるほど惹かれたかと言われると微妙だ。
「それを見て、私も炎属性が好きになったの!元々炎の天賦持ちだから、炎は好きだったけど……余計にね!」
「へ、へえ……」
なんだか母のファンに会った気分だ。
でも、母のことを褒められるのは嬉しい。
まるで、遠回しに自分のことを褒められているような気分になる。
「だからね、アリアと友達になれて嬉しい!」
「そ、そう?」
「うん!」
シルフィンは満面の笑みだった。
なんだか照れくさい。
「ところで、さ」
ここで私は話題を変えることにした。
「二人の名字って、まだ聞いてなかったよね」
「あ、確かに」
シルフィンも頷く。
「ん、おれか?」
マシュルは胸を張った。
「おれはな……マシュル・グランディアだ!代々土の天賦を持つ魔法使いの一族なんだぜ!」
やはり声が大きい。
とはいえ、わざわざ言ってもらわなくても、彼のオレンジ色の髪と瞳が天賦を物語っているのだが。
何なら、今日の実技でも土の魔法を使っていたし。
「僕はライド・ウェルナー。見ての通り、天賦は水だ」
マシュルの相方とも言えるライドは、対照的に静かに言う。
こちらは青い髪と瞳を持っている。天賦の色としても、ぴったり一致する。
「ライドって、本読むの好きそうだよね」
何となくそう思ったので言ったら、なんと「好きだよ」と即答された。
「昨日も図書館に行った」
「昨日!?」
昨日といえば、入学式の日である。
「早くない?」
「気になったから。今までもちょくちょく言ってたしね」
驚く私たちを尻目に、ライドは平然としている。
「今は、この学院の図書館にも行ってみたいと思ってるんだ。父さんから聞いた話では、貴重な書物や資料が多いらしいから」
どうやら彼は、本当に本が好きらしい。
……と、そんな感じで話しているうちに、昼休みはあっという間に過ぎていった。
そして気づけば、私は自然に笑っていた。
前世では、こんなことはなかった。
昼休みは、いつも一人だった。
誰かと机を囲んで話すことも、笑い合うことも、友達と呼べる相手と食事をすることも、ほとんどなかった。
(なんだか、不思議だな)
昨日出会ったばかりなのに……シルフィンも、マシュルも、ライドも、みんな優しい。
もしかすると、本当に今世は違うのかもしれない。
そんなことを思いながら、私は残っていたパンを一口かじった。
でも、この時の私はまだ知らなかった。
この学院には、かつて私を地獄へ突き落とした者たちもいたことを。
そして、私の運命が少しずつ動き始めていたことを。




