7.初授業
翌朝。
入学式の興奮も冷めやらぬまま、私はゼスメリア魔法学院へとやってきた。
もちろん、今日も移動用魔法陣での通学だ。
母はしっかり学校の入り口まで送ってくれた。
どうせ1分程度で着くのだから、別にそこまでしてくれなくてもいいと思うが、まあ心配なのだろう。
教室に入ると、すでに何人かの生徒が席についていた。
「あっ、アリア!」
真っ先に声をかけてきたのはシルフィンだった。
「おはよう!」
「おはよう、シルフィン」
「昨日、ちゃんと眠れた?」
「うん。ちょっと興奮して寝るの遅くなったけど」
「あはは!奇遇だね、私もそうなの!」
どうやら、考えることは同じらしい。
そんな話をしているうちにマシュルとライドもやってくる。
「おはよー!」
「おはよう」
昨日会ったばかりだというのに、もう少しばかり話しやすくなっていた。
これが友達ってやつなのだろうか。
前世ではほとんど縁がなかったものだから、少し不思議な気分になる。
やがて始業の鐘が鳴り、フレア先生が教室へ入ってきた。
「全員、席につけ」
一瞬で教室が静かになる。
先生は教壇の前に立ち、生徒たちを見渡した。
「君たちの学院生活最初の授業だが、今日は座学ではない」
教室が少しざわつく。
「え……もしかして、いきなり実技ですか?」
「そうだ」
ざわめきがさらに大きくなった。
私も思わず背筋を伸ばす。
実技……つまり、魔法だ。
「君たちはこれまで十年間、ご両親によって基本的な魔法教育を受けてきたはずだ。よって本日は、それぞれが扱える初級攻撃魔法を確認する」
そう言うと、先生は教室の扉へ向かう。
「訓練場へ移動する、ついてこい」
私たちは慌てて立ち上がり、その後を追った。
案内されたのは、学院の裏手にある広い訓練場。
地面は固く踏み固められており、周囲には高い石壁が築かれている。
後で知ったが、これはどうやら魔法の暴発対策らしい。
「広いなぁ……」
マシュルが感心したように呟く。
確かに広い。野球場くらいはありそうだ。
そんな中、生徒たちは先生の指示通りに整列し、それぞれ杖を構える。
「これから一人ずつ、基本攻撃魔法を撃ってもらう。狙うのは、あれだ」
フレア先生は前方に設置された木製の標的を指差した。
私は緊張した。基本攻撃魔法ということは、私で言う「ソロファイア」だ。
母から教わった後、家では何度も練習した。でも、人前でやるのは初めてだ。
「では、最初は――」
先生が名簿を見下ろす。
「シルフィン・アークレイド」
「は、はい!」
シルフィンが前へ出る。
彼女もまた、少し緊張しているようだ。
杖を構え「ソロファイア!」と詠唱すると共に杖の先から火球が飛び出す。
直径十センチほどの火球が標的へ命中し、小さく爆ぜた。
「上出来だ」
先生が頷き、シルフィンはほっとしたように息を吐いた。
「や、やったぁ……」
その後も次々と生徒が呼ばれていく。
水属性の生徒は水球。風属性の生徒は風弾。雷属性の生徒は雷球……なるほど。属性は違っても、やること自体は似ているらしい。
そして、ついに私の番が来た。
「アリア・ベルナード」
名前を呼ばれ、少し緊張しながら前へ出る。
標的までの距離は二十メートルほど。
深呼吸をする。
大丈夫だ。昨日も帰った後練習して、母に上手にできてると言われた。
杖を構え、魔力を流し込む。
「ソロファイア」
詠唱した次の瞬間、杖の先に現れた火球が勢いよく飛び出した。
赤橙色の火球は真っ直ぐ標的へ向かい――ドンッ!という大きな音と共に命中した。
標的が大きく揺れる。
「おおっ!」
誰かが声を上げた。
周囲の生徒たちも少し驚いている。
一方で、私は首を傾げた。
「あれ?」
なんだか、妙に威力が高いような気がする。
私としては、普通に撃っただけなのだが。
「ずいぶん強烈だな。さすがはセリエナ様の娘、と言うべきか」
フレア先生が興味深そうに私を見る。
訓練場のあちこちから感心した声が上がる。
少しばかり照れくさい。
「いや、その……」
どう反応すればいいかわからず困っていると、 「すげえ!」とマシュルが叫んだ。
「なあ、今の見たか!?」
「見てたよ」
ライドが呆れたように返す。
「明らかに、普通のやつより大きかったよな!」
「だね……すごいや」
シルフィンまで頷いている。
確かに、今の私の魔法は他の人とは違った。でも、具体的に何が違ったのだろうか。自分では、よくわからない。
ただ一つわかったのは――魔法を使うのは、とても楽しいということだった。
前世では決して手に入らなかった力。
誰かに怯えることもなく、強制されるのでもなく、自分の意志で振るうことのできる力。
その感覚に、私は少しだけ胸を躍らせていた。




