78.母の願い、娘の決意
ニールが帰った後、母に声をかけられた。
どうやら、私と彼の話を聞いていたようだ。
「アリア……あの子の言う通りだと思うわ。私も、今のあなたには危険が迫っている気がする。学院には、しばらく行かない方がいいかもしれない」
母は私の両肩に手を置き、とても真面目な目でそう言った。
その気持ちは嬉しいし、よくわかる。
子を大切にしている親なら、誰でもそう言うだろう。
だが、私には私の事情が、想いがあるのだ。
「それはそうだと思う。でも、私は学院に行くよ。やられっぱなしなんて、嫌だもの」
すると、母は止めるかと思いきや、息を大きく吸って微笑んだ。
「そういうところは、やっぱり私の子ね……私があなたでも、そう思う。けどね、私はあなたの母親として心配なのよ。あなたが傷つき、苦しんで帰ってくるなんて……想像もしたくないわ」
私は、母からすればたった一人の娘であると同時に、二百年間で唯一心から愛した男性が遺してくれたもの。だからこそ愛しているし、傷ついてもほしくない。
直接そう言われたわけではないが、きっとそういうことなのだろう。
「母さん……」
母の目を見つめ、私は自分の意思を伝える。
「ありがとう。でも、私は逃げたくないの。もう二度と、前世みたいな人生を送りたくないの。わかってくれるでしょ?」
私が転生者であること、前世でいじめられた末に自殺したことは、今年の四月……三年生になると同時に話してある。
信じてくれるか疑問に思いながらも話したのだが、微塵も疑わずに信じてくれた。
その際、私が学院でいじめっ子たちの転生体と再会し、その都度復讐をしてきたことも話した。
さすがに母も驚いていたし、正しいことをしたとは言わなかったが、私がそれだけ深い悲しみと怒り、恨み、憎しみを抱いて生きてきたことを理解してくれた。
そんな母なら、きっとこの気持ちもわかってくれる。
「そうね……あなたの気持ち、よくわかるわ。でも、そのためにリスクを冒すのは、果たして良いことなのかしら?」
「リスクは、何をするにしてもついてくるものだと思う。それを恐れていたら、何もできないんじゃないかな」
かつて私は、良くも悪くも目立たず普通に生活していた。それなのに目をつけられ、いじめのターゲットにされた。
その経験があるからこそ、よくわかる。
「たとえ何もしてなくても、敵の方から来るってこと、あると思う。私は、それに立ち向かいたい。何も抵抗せず殺されるなんてこと、もう絶対にしたくない」
口ではそう言ったが、本心はとても心が苦しかった。
母に歯向かうようなことを言ってしまって、申し訳ない。
でも、これが私の想い……かつて傷つけられ、殺された人間としての気持ちだ。
「だから、私は来週からまた学院に行く。どうか止めないでほしい」
「止めるものですか。私は母親として、あなたの気持ちを尊重する。ただ、あなたの心身が心配だと言っているだけよ」
「それなら大丈夫。かつて、心身を殺されたんなもの……多少傷ついたくらいでは折れないよ」
「だから、私はそもそもあなたに傷ついてほしくないのよ……可能な限り。叶わない願いなのはわかってるけど、それでも……」
私は帽子を脱ぎ、母に頭を下げた。
「母さん……ごめんなさい。そして、ありがとう……私を心配してくれて」




