71.道具は大切に
翌週の最初の授業は、生活魔法の授業だった。
三年生になってから出てきた科目だが、実際に学ぶのは乾燥魔法や浮遊魔法などの簡単なものばかり。
とはいえ、文字通り日常生活で使う場面が多い魔法やその運用について学ぶので、重要な科目であるのは間違いない。
ちなみにこの科目の担任はジフェル・ルシエラという女の先生。
私たちの担任であるメジェラ先生と同じく三年生の担任だが、こちらは二組の担任をしている。
髪と瞳の色はオレンジ色、つまり天賦は土。
ノエルと同じだが、当然ながら感じる印象や魔力は異なる。
ついでに言うとこちらはずいぶんと痩せていて、ノエルよりはるかに細身である。
「……説明は以上です。では、やってみましょう!」
妙なほど明るい表情で、皆に呼びかけるように指示する先生。
その指示はある魔法を使ってみろということなのだが、その魔法とは「レブトーネ」、すなわち乾燥魔法。
皆の目の前にあるのは、ごくありふれた掃除用のスポンジ、ただしぐっしょりと濡れている。
これを、今しがた説明された乾燥魔法で乾かしてみる、というのが今回の課題なのだ。
私からすれば、乾燥魔法は八歳の時に母から教わった魔法であり、今更感がかなりある魔法だ。でも、他の生徒にとっては違う。
就学前に習うべきだとされる基本魔法は天賦によって違い、私はたまたま炎魔法の天賦を持っていたから乾燥魔法がそれだった、というだけに過ぎないのだ。
実際、以前この授業でやった凍結魔法「シャルベニア」は私からすれば初めてやる魔法だったが、リーネやユエなど氷の天賦を持つ子からすれば、就学前に親から教わっていた魔法であったらしい。
逆に今回の乾燥魔法は、リーネたちはもとよりノエルもやったことのない魔法であったらしく、普通に失敗していた。
なお、私は当然ながら一回でうまくいった。
何年も使っている魔法なのもあるが、杖がちゃんと言うことを聞いてくれたのも間違いなくある。
直したばかりの杖なのでちょっと心配だったが、この感じなら大丈夫そうだ。
他の生徒を見てみると、一回で成功しているのはやはり炎の天賦を持つ子が多かった。
それ以外でも成功させている子はいたが、中にはスポンジを乾燥させるのではなく爆発させ、顔が煤だらけになっている子もいた。
何をどうしたらそうなるんだ……と言いたいところだが、私も昔自分の服を乾燥させようとして小規模な爆発を起こしたことがある。
その時は母の修繕魔法で直してもらったが、私にとってはまた一つの魔法の失敗として記憶に刻まれた経験となった。
今では、そんなことはもうない……と信じたいが。
授業が終わった後、すぐにノエルが話しかけてきた。
彼女は、私の杖の変化に気づいたようだった。
「あれ?アリア、その杖って……」
「週末に母さんと直したんだ。うちの裏に魔法木の森があるから、そこから枝を取ってきて芯材にしてね」
「あー、そういうこと?だからちょっと長くなってるんだ……杖を直すって、普通にやろうとすると大変だから、そういう環境があるのは羨ましい」
普通、杖を直すのは店に行ってやってもらう必要があり、相応の費用と時間がかかる。
その点私は、今回はタダで修理ができたのでラッキーだった。
とはいえ、これからも身の回りで壊れたものがあれば可能な限り修繕して使っていくようにしたいところだ。
そのことは、昨日母と一緒に杖を直してみてしみじみと思った。
道具は大切にしなくては……自分の心身と、命と同じように。




