70.銀樺の杖
翌日、母と朝から家の裏の森に足を踏み入れた。
理由は単純で、杖を修理する材料となる木を切り出すためだ。
昨日母に事情を説明したら、すぐに直しましょうと言ってくれたのだが、そのためには良質な魔法木の木材が必要と言われた。
幸いにも魔力のある場所で育つ「魔法木」と呼ばれる木であれば何でもよく、家の裏の森に生えている木も魔法木らしいので、それを使うことになったのだ。
ただし、「良質な」という条件がついていることからもわかるように、どんな木でもよいわけではない。
その判断は母がしてくれるそうだが、私もそれを見て覚えるのと、伐採を手伝うためについてきた次第である。
「そう言えば、この森に生えてるのってなんて名前の木なの?」
「銀樺っていう種類の木よ。樹皮を剥ぐと、美しい銀色の木材が得られることからそう呼ばれているの」
辺りに乱立する木々は、そのまま見るとむしろ白樺に近い色合いなのだが、これはあくまで樹皮があるからに過ぎない……というわけか。
「それで、良質な木ってのはどういうやつなの?」
「他の木と比べて高い魔力を宿していて、かつ育ちが良い木。といっても、慣れないと一見ではわからないけどね」
高い魔力を有している木、育ちが良い木、と言われてもどんなものかわからない。
後者は何となく枝ぶりが良くて大きい木なのだろうか、と想像はつくが、前者については全くと言っていいほど想像がつかない。
「ごめん、全然想像がつかない……」
すると、母は笑った。
「仕方ないわ。あなたはあくまでも魔法使いだし、何より経験がほとんどないんだもの」
それを言うなら、母も魔法使いなのだが……まあ二百年以上も生きているのだから、そこは経験なのだろうが。
さて、しばらく森の中を歩き回ってようやくそれらしい木を見つけた。
母が足を止めてこれよと言ってくれるまで、私にはまったく見分けがつかなかった。
しかしその木は、確かに周囲の木と比べると背が高く、たくさんの枝を伸ばしている。
それでいて、木の中から不思議な力を感じる……母曰く、これが「高い魔力を有している」証らしい。
「この木を切り倒すの?」
「そうしてもいいんだけど、これはまだ若い木だからね……枝を何本か取るだけにしておきましょう」
母は、枝を切断魔法こと「ゼルディクト」で一本切断した。
私もこの魔法は使えるので、本当はこういうところで手伝いをしたいところだが、今は杖がないのでそうもいかない。
母は杖を使わず魔法を使って枝を切っていたが、私がそれをやると魔力の制御がうまくいかず不発になるか、暴走するかのどちらかになる。
他には学院の先生なんかでも杖なしで魔法を使っている人を見たことがあるが、どちらにせよまだ未熟な魔法使いである私には真似できない。
家に戻ってきた後、短剣を使って枝を丁寧に削いだ。
これを削ったものを折れた杖の中に埋め込み、新たな芯材とするらしい。
削る作業については、鉛筆を削るのと同じ要領でやればいいのでさほど難しくはなかったのだが、少し皮を削るとびっくりするほどきれいな銀色が現れた。
「きれいでしょう?この木は魔力の伝導性が良くて、魔力の制御が苦手な魔法使いには、これを使った道具を持たせるのがちょうどいいとされているのよ」
なるほど、それなら私にもってこいだ。
だからこそ、失敗しないようにしなければ……と考えつつ、慎重に削った。
そうして母がいいと言うまで枝を削り、最終的に鉛筆ほどの太さと長さの芯材ができた。
それを、中身をくり抜いた昨日の折れた杖の下半分の中に入れ、上から杖の上半分をかぶせて母が修繕魔法「ネロファミン」をかける。
すると、杖の両方の折れた断面が伸びて繋がり、元通りとなった。
芯材が入った分杖全体の長さは伸びているが、そこまで気にすることでもない。
「この杖を使えば、魔力の暴走も抑えられるはず……そうすれば、あなたはより一人前の魔女に近づくわ」
母にそう言われると、自然と笑みがこぼれた。




