67.深い闇
その後、二人は一時間目の終わり頃に戻ってきたらしい。
私は別の教室で授業を受けていたので、そのことを知らなかった。
結局どちらも何かしらの処罰を受けたのだろうが、詳しいことは聞かされなかった。
先生はもちろん、この話を聞いた同級生からも。
それからしばらく、ルークとジェイルは顔も合わせなくなった。
もちろん、私が口を出す権利などないが……それでもこういうのは、なるべく早めに和解してほしいなと思う。
さて、今はある授業を受けている。
三年生になった今年から科目に追加された授業で、これまでの授業よりずっと危険だが、とても重要で……将来、生活の糧を得るために使えるかもしれない。
もっとも、それはこれを学ぶ者の選択肢と、心の持ちよう次第だが。
とまあ、それがこの授業を担当する先生が最初に言ったことだ。
実際に授業を受けてみて、それが嘘ではないことはよくわかった。
この授業の名前は、「闇に挑む者の授業」。
ただし、ここでいう「闇」というのは闇魔法のことではない。さらに強大で凶悪な闇の力を秘めた「深い闇」と呼ばれる世界と、そこに属する者たちのことだ。
「深い闇はこことは違う世界であり、本来この世界との関わりはありません。しかし、古代……それは破られたのです」
語っているのは、美しい白色の髪を持つ中年の先生……バートリー=ベルム・クライア先生だ。
この人は女性だが二重人格で、男性の人格も体に入っており、「ベルム」は彼の名前だという。
つまるところ女性としての名前が「バートリー」、男性としての名前が「ベルム」なのだろう。
「先生、質問があります」
手を挙げたのはニールだった。
「『古代』っていうのは、具体的にはいつ頃のことなんですか?」
「それはわかりません。ただ……少なくとも千年は前です。深い闇に関する記録で現存する最古のものが、千年前の記録なので」
「……わかりました。結構昔のことなんですね」
彼が手を下げると、先生は再び教科書に視線を移した。
「右のページに書いてありますね?大陸の北端にある、リアカの岬……記録に残っている限り、最初に深い闇が現れたのはここです」
空間に開いた青紫色の裂け目から現れたのは、多様な姿形を持った異形の魔物たち。
彼らは一番近くにあったメラール村を襲撃し、一晩で壊滅させた。
そしてこれを皮切りに、大陸のあちこちで同様の裂け目が現れ、深い闇の魔物がそこから出てくるようになった。
ちなみにこの魔物たちのことを「深い闇の住人」、それらが現れる裂け目のことを「深い闇の境目」と言うらしい。
「現在では、深い闇の境目はどこにでも現れる可能性がある、危険な存在となっています。それは文字通り、どんな場所にでも現れることがあります……たとえ、屋内であっても」
その言葉に、生徒たちは恐れおののいた。
「故に!この授業では、そんな恐るべき闇の住人への対抗策を学びます。既に彼らに襲われた経験がある者もいるかもしれませんが、対抗策なしで深い闇の住人に立ち向かうのは自殺行為ですから」
前置きはここまでです、と付け加えて、先生は教科書を一旦閉じた。
「では、さっそく対抗策となる魔法を一つ。といっても、そこまで難しいものではありません」
確かにそうかもしれないが、魔力制御の道具である杖を使わず魔法を使おうとしているのはすごい。
私の知る限り、普段から同じことをするのは一部の先生と母くらいである。
「これはいわば、防御の魔法です。ただし、通常の防御魔法とは少しだけ違います。深い闇に属する者からの攻撃に対し、より高い耐久性を持つシールドを張ることができるのです」
先生は立ち上がり、「フォーリア・シェムクライ」と詠唱した。
すると白い光の壁……恐らくシールドが現れ、先生の周囲を丸く覆った。
ちなみにシールドとは最も基本的な防御魔法で、攻撃を防ぐ壁を張る。
詠唱は「シール・メイル」。
耐久力は詠唱者の魔力に依存し、それ以上の攻撃を受けると割れる。
何気に物理・魔法の両方を防げる貴重な防御魔法でもある。
「詠唱はこうです……『フォーリア・シェムクライ』。皆さん、立ってやってみなさい」
さっそく私たちは立ち上がり、杖を出してやってみる。
正直、私はシールドの魔法は得意ではないのだが……上手くいくだろうか。
もっとも、どういうわけか心のどこかで「これは覚えなければならない」「使えるようになったほうがいい」という想いがあったので、上手く決めたかったが。
結果は見事成功。
そればかりか、私のシールドは他の誰よりも硬いもので、先生に褒められた。
ちなみに先生によると、この魔法はシールドの魔法こと「シール・メイル」の応用なので、これを上手く使えるということは「シール・メイル」も上手く使える可能性が高いらしい……私はそんなことないのだが。




