64.偏見の向こう側
新クラスになって一ヶ月半。
ここまで暮らしてみて思ったのは、今年になってスクールカーストが生まれたのは、闇の天賦を持つ生徒が来たからではないか……ということだ。
闇の天賦を持つ生徒は紫、または黒の髪と目をしているのだが、去年までクラスにはほとんどいなかった。
それが今年になって五人ほど入ってきて、これがどれも良くも悪くも活発な生徒ばかり。
しかも、今のところこの子たちがカースト上位を占めているのである。
今になって彼らのような闇の天賦を持つ生徒が入ってきたのは、担任の先生が闇の天賦を持っているからかもしれない。
……というのは、さすがに邪推しすぎだろうか。
いずれにせよ、私からすれば要注意の状況であることに変わりはない。
スクールカーストはいつでも変わり得るし、事実上クラス内での身分を示すものであり、極端に言えば攻撃や服従の相手を自然と絞り込む要因だからだ。
もちろん、下にいるからいじめられる、上にいるから友達が多い、とは限らないだろうが……その辺の詳しいことは、私には想像がつかない。
下の身分にしかなったことがない者には、上の身分のことなど想像もできないのだ。
ところで、なんで今こんなことを気にしているのかというと、ここ数日雲行きが怪しくなってきたからだ。
というのは、最近になって授業中であろうと話をしていたり、どこかしらでいたずらや悪さをしたりして、先生たちに目をつけられるグループが出てきたのである。
これも去年までは見かけなかったグループだが、まあ学生の名物、あるいは必然的に生まれてくる存在とも言えるだろう。
前世でも、不思議なことに学校や学年が変わっても必ずこういうのが出てきていた。
ただ、これも正直私にとっては警戒材料だ。
この手のグループは、いずれ誰かをいじめたり過度ないじりをしたりし始める可能性が高い。
かつて私がいじめられたグループも、休み時間にはいつも同じメンバーで教室の隅で集まって、目立つ声で談笑している……という、典型的なカースト上位の奴らだった。
そんな中で、私はグループのリーダーだった女に目をつけられ、いじめを受けるようになったのだ。
きっかけは覚えていない……いや、ある意味では気にする者などいないことなのだが。
そんなある日の放課後、私は1人の男子から声をかけられた。
ニール・マクベス。闇の天賦を持つ、スクールカースト上位の平凡な青年だ。
これまでほとんど話したことがなかったが、今、面と向かって話しかけてきた。
「あ、アリア。ごめん、メジェラ先生知らない?」
「メジェラ先生?部屋じゃない?」
「それが、部屋にもいなくてさ……どこにいるのかなって」
「職員室には行ってみた?」
「それが、行ったことなくて……どこにあるか知らないんだよね」
「えっ?そんなことある?」
一年生ならまだしも、三年生にもなって職員室に行ったことがないなんて。
普通は、一回くらい行ったことがあると思うのだが。
「本当なんだよ。僕は嘘は言わない。だからさ……職員室まで連れて行ってくれないか?」
「ええ……これから帰ろうとしてたんだけど」
「頼むよ!僕、口で聞いてもすぐ迷子になるタイプでさ!」
「てか、そもそもなんで先生を探してるの?」
「昨日忘れてた宿題があって……今日中に、先生に出さなきゃないんだ!だから、何としても先生を見つけないと!」
そう喚く彼の手には、確かに昨日の宿題として出されたノートが握られていたことに気がついた。
「はあ……わかったよ。ちゃんとついてきてよ!」
「ありがと!助かるよ、ごめん……!」
何というか、いつもクラスでワイワイ騒いでるメインメンバーの一人とは思えない。
まあ、あの手のメンバーの中にも宿題をサボる奴はそれなりにはいるのだろうが。
ちなみに彼は、職員室についてすぐ中を覗くのではなく、「ここから教室まで帰れるかな?」と聞いてきた。
「来た道を戻ればいいでしょ?」と言ったが、今度は「来た道を忘れた」と言い出す。
呆れと驚きでものも言えなかったが、とりあえず先生に宿題を出しに行かせた。
そして戻ってきて、「帰りの道案内も頼む」と当たり前のように言ってきた。
まあ……言うほど嫌ではないが、今時こんなことをしなきゃない奴がクラスにいるのか、とただただ呆れた。
しかし、無事に教室まで連れて行った後にお礼を述べてペコリと頭を下げる様を見ると、どうにも憎めない気持ちになった。
彼は……天然なんだかバカなんだかわからないが、少なくとも悪い奴ではなさそうだ。
スクールカーストでは上位層であり、私などとはまったく違う生徒なのは間違いないが、だからといって変な偏見を持ったりはしない。
偏見や見下しは、それこそいじめの卵と言えるものだ。
私は被害者にはもちろん、加害者にもなりたくない……絶対に。




