63.今度は見捨てない
五月に入り、新しいクラスにも慣れてきた。
しかし、今度はこれまでのクラスとはまた別の問題が発生していた。
それはずばりスクールカースト、つまりクラス内での階層関係である。
基本的なルール、というか構成は前世の学校のそれと同じ。
元気がいい、見た目がいい、喧嘩が気が強い者ほど上位に立ち、そうでない者ほど下位に立つ。
二年生までのクラスでは目立たなかったが、今年は早くもそれらしきものが形成されつつある。
といっても、誰が最上位であるのかは私にはまだわからないが。
たぶん、私やノエルは中間の層に位置しているだろう。
とりわけ目立っているわけではないが、かといって低い立場にいるわけでもない。
だが、私はむしろこれでいい。
クラス内では最も厚い層だが、正直そんなことはあまり関係ない。
前世で私はスクールカースト最底辺であり、それがいじめられた要因の一つだったと思っているので、そこにいないだけでも安心感が違うのだ。
もちろん、最底辺の人間だからといって、いじめや冷やかしを許すつもりはない。
もしもそんな現場を見かけたら、すぐに飛び込んでやめさせてやろうとさえ思っている──たとえ自分の立場が悪くなろうとも。
学校でのいじめは、受ける側からすれば耐え難い苦しみであり、それこそ人生を棒に振る原因になることもある。
そんなのはもう味わいたくないし、他の誰にも味わってほしくない。
自分で言うのもなんだが、これは実際にいじめられたことがあるからこそわかる気持ちだろう。
いじめられたことがない奴には、本当の意味でこの気持ちを理解することはできないに違いない。
幸いにも今のところ、うちのクラスでいじめやそれに似たようなことが起きているという話は聞かないし、見たこともない。
だが、油断はできないと思っている。
私に言わせれば、絶対にいじめが起きないクラスなどというのは存在しないのだ。
そのことをノエルにも話した。
かつてスクールカーストでは上位層、というかそこに属する人間と仲が良く、いじめっ子の側に属していた彼女が何を思うのか、私は気になっていた。
「アリアの気持ち、すごくわかる。私も正直、怯えてるんだよね」
「怯えてる?どうして?」
「自分がしたことは、自分に跳ね返ってくるものでしょ?私、今はそうでもないけど、そのうちカースト上位の奴らに目をつけられて、いじめられることになるんじゃないかって……」
ノエルは、割と本気で怯えている人間の目をした。
それを見て、私は乾いた笑いがこみ上げてきた。
「昔はいじめをする側だったあんたが、そんなことを言うなんてね……その恐怖を知ってたら、いじめなんかしなかったんじゃない?」
「それは思う。アリアに……三春に仕返しされたからだと思うけど、自分がいじめられたらと考えるとすごく怖い。それこそ逃げたくなりそう」
昔なら、今のノエルを見てスッキリしているところだろうが、今はそうでもない。
むしろ、心を許した友人として助言をしたい気分だ。
「心配いらないよ。もしノエルがいじめられたら、私が全力で守る。いや……私だけじゃない。ライドだって、きっと助けてくれる。絶対に、見捨てたりしないから」
「アリア……!」
ノエルは途端に明るい顔をし、私に抱きついてきた。
悪い気はしない……と言いたいところだが、あいにくここは廊下である。
他の子に見られたら誤解を招くし、場合によっては冷やかしの材料にもされかねないので、丁重に離れてもらった。
「ノエル……気持ちはありがたいけど、一旦離れてくれる?ここ、廊下だから……ね?」
「えっ……あっ、そうだった。ごめんね」
私はノエル、すなわち山本美沙を許したかと言われれば、そんなことはない。
でも、少なくともかつてのような憎しみや恨み、殺意はない。
むしろ、大切な友人の一人として認識している。
そのことは、たった今彼女に言った言葉が何より示している。
「もしノエルがいじめられたら、私が全力で守る」──その言葉に嘘や誇張はない。
リーネにも言えることだが、美沙にはあくまでも生きたまま、罪を償ってもらいたい。
そのためにも、いじめで心身を壊すようなことはさせたくない。
彼女だって、一人の魔法使い……生まれつき魔力を持った、人間なのだ。




