57.夢見る将来と世界
その後は三人で遊んだ。
翌日も、そのさらに翌日、登校日も……私たちは、かつてと同じように仲良く遊んだ。
もちろん、みんなまだ思うところがある。
でも、それを胸の奥にひっそりとしまって、相手を一人のクラスメイトとして扱った。
昼休み、何気なくこんな話をした。
「そう言えば、リーネの夢って何かあるの?」
ノエルの時と似たような問いだが、気になったので聞いてみた。
すると、リーネは即答した。
「冒険者。というか攻撃もできるヒーラー」
意外な答えに、私たちは驚きを隠せなかった。
しかも、それはユエも同じ夢を持っていたというのだから驚きだ。
ヒーラーとは、そのままずばり回復を担当する役職のことで、冒険者や探検家の間で使われる名称である。
いかにもファンタジー世界らしい単語だが、実際にこの世界には冒険者やダンジョンというものが存在し、大人になると冒険者の一行の一員として生活する者も当たり前にいる。
で、ヒーラーのジョブは回復系の魔法がたくさんある光・氷・水魔法の使い手が多く、その名の通り回復に特化していることが多い。
ただし、リーネは直接の魔法攻撃も人並み以上にできる、やや特殊なヒーラーを目指しているらしく、一般的にいる純粋な回復特化のヒーラーを目指しているユエとは方向性が違うようだ。
「あたしはね、回復しかできないヒーラーはやりたくないの。もちろん回復もできるけど、それと同じくらい戦闘もできる、そんな魔法使いになりたいの!」
「大した理想だね。まあ確かに、そういうヒーラーもいるにはいるって聞くけど……難しいと思うよ?」
その名前から察せられる通り、ヒーラーは後方から味方を回復するのが役目であり、攻撃と回復を両立するヒーラーはあまりいない。
そもそもヒーラーに求めているのは純粋な回復で、攻撃は求めていないという冒険者もいるため、そのようなパーティの場合雇用率は明確に下がる。
しかし同時に、攻撃も兼任できるヒーラーがいれば助かる、と考えている人がいることも確かだ。
だから、リーネが目指すようなヒーラーは数は少ないが、需要がないかと言われればそんなことはないのである。
「それは承知の上よ。あたしは、専業の……他に取り柄がないようなヒーラーにはなりたくない。攻撃ができなくとも、サポートくらいはできるようになりたい!」
サポートというと、味方の攻撃力を上げたり、敵の耐性を下げたりする役職だ。
こちらは地・雷・風の魔法使いがやっている場合が多いと聞く。
「ふーん……てかさ、その言い方……私に喧嘩ふっかけてるの気づいてる?」
ユエに睨まれて、リーネははっとした。
もちろん彼女はユエの夢を否定したわけではないが、普通のヒーラーを「回復以外に取り柄がない」と表現したことで、睨まれたようだ。
「え?あ、いや……違うよ!そんなつもりはない!普通のヒーラーもいいと思うわよ!」
「なんか、ごまかしてるような感じ……ま、いっか」
ユエはひと息つき、「私は、純粋なヒーラーになりたい」と言った。
「氷魔法は、光魔法の次に回復に特化した魔法だって言われてるし、何より前世で、最後まで三春を助けられなかったから……今度は、目の前の傷ついた人を助けたい。そう思ってる」
そんなことを聞かされたら、応援しないわけにいかない。
それにしても、前世のことがこんなところにまで尾を引いているなんて……なんだか感慨深いというか、何というか。
少なくとも悪い気はしない。
「やめてよ。そんなこと言われたら、また申し訳ない気持ちになる」
リーネがわりと真剣な顔で言うと、私たちは笑った。
「アリアは?どう思ってるの?」
「私は……ゆくゆくは母さんみたいになりたいけど、冒険者のチームに入るなら、マージかな」
マージとはヒーラーの逆で、攻撃魔法をメインとするジョブ。
人間もいるが、やはり魔法使いが大半を占める。
「いいんじゃない?アリアは攻撃魔法得意でしょ?天賦的にも向いてると思うし」
マージは高威力な攻撃魔法が豊富な炎・闇・水の天賦、つまり生まれつきの魔法の適性を持つ魔法使いが多い。
その意味では、私がこのジョブに就きたいと思うのは自然かもしれない。
「それも確かにあるんだけど、一番は魔力の暴走がプラスになりやすいってことかな」
私はいまだに魔法を使うと魔力が暴走することがあり、想定外の威力になってしまいがちだ。
でもマージなら、それはむしろプラスになる可能性が高い……ヒーラーにも言えることだが。
「あー、確かにね。炎魔法は元々高威力だし、重宝されるかも」
「ならいいね……あ、でもその時は母さんも一緒じゃなきゃ。一人にするのはかわいそうだし」
「そんなこと言って、本当はあんたが寂しいんでしょ?」
「……悪い?それに母さんは、この世界に私を召喚して、炎の天賦を与えてくれた人。ずっと一緒にいたいって思うのは当然でしょ?」
すると、リーネは唸った。
「その時は、あたしたちとあんたとセリエナ様でパーティ組んでもいいかもね」
「それだと、アタッカーがいないからちょっと心配だね……物理のアタッカーが」
「適当な冒険者を雇えばいいじゃない。それさえ埋め合わせれば、ヒーラーが二人いるんだから安定するでしょ!」
「そんなに単純な話かな……」
そう言えば、母は昔冒険者として世界を回っていたことがあると聞く。
ちょっと話を聞いてみれば、参考になるかもしれない。
何気に誰も突っ込まなかったが、私たちみんな、学院を卒業したら冒険者になるつもりでいる。
これについては、この世界で当たり前にあることであるのもあるし、私たち個人としてもそのようなロマン溢れる職業に就きたい、というのもある。
私は、今は一人の生徒として学院で生活しているが、卒業したらいろいろな経験を積んで、母のような偉大な魔女になりたいと思っている。
そのために、世界を回る職業である冒険者は最適に違いない。
まだ数年先の話ではあるが、考え出すと止まらない。
どんな世界、どんなロマン、どんな冒険が待っているのか……と。




