56.償いの始まり
「……」
ユエは腕を組み、考え込んだ。
リーネはその間、ずっと頭を下げていた。
「何と言われようと、許すことはできない。私たちが虐げられた過去は、絶対に消えないもの」
些か冷酷とも言える発言だったが、同時に当然だ、間違ってはいない、とも言える。
しかしその直後、ユエは続けた。
「でも……少なくとも、お前が反省してることはわかった。だから、これ以上手は上げない」
その一言だけでも、リーネは肩の荷が下りたようで、顔を上げて明るい顔をした。
「ユエ……」
「勘違いしないで。お前を許すことは絶対にないし、態度を変える気もない。……当然だ。お前は、私たちを殺した人殺しなんだから」
芽依は、あくまでも奈々を許しはしないとしつつ、それでも……いや、だからこそ殺しはせず、生きてもらうと言った。
「逃げずに過去と向き合って、その上で私たちと……辛さも喜びも、全部抱えながら生きる。本当に申し訳ないと思ってるなら、それが一番の償いになるって……わかるでしょ?」
奈々は涙を拭い、頷いた。
そして、また涙声を上げた。
「……ありがとう。あたし、正直殺されても仕方ないって思ってた。だから、次二人に会ったら、もう終わりだって……」
「私もそう思ってたんだけどね。アリアの……三春のおかげで、ちょっとだけ考えが変わったの」
すると奈々は私に視線を移してきた。
「三春……ごめんね。前世であんなにひどいことして……」
「そうね。芽依の言う通り、あんたのしたこと、私たちの過去は消えない。でもだからこそ、生きて償ってほしい。私たちのクラスメイトとして、友人として」
その言葉を聞いて、奈々は驚いた顔をした。
「それって……!」
「まあ、簡単に言えば明日からまた元に戻るってことだね。あんたは『奈々』だけど、同時に『リーネ』でもある。そしてリーネは、私たちの友人……それもまた、変わりない事実だもの」
芽依の方を見ると、素直には認められないながらも納得はする、という感じで頷いた。
それでまた、奈々は涙を流した。
「ありがとう……あたしを『リーネ』として受け入れてくれるのね」
「過去は消えないけど、それと今がどうかは別だからね。あんたが反省してるってこともわかったし、復讐も済んだし。もちろんすぐには無理だけど、そのうち私たちのわだかまりも解けるよ」
「まあ……そう、だね。いつまでも復讐だけのために生きるわけにはいかないし。私は今度の人生、結構楽しんでるしね」
芽依ことユエの言葉は、私たちみんなに当てはまっていた。
この場にいる誰一人として、転生したことを後悔はしていないばかりか、むしろ前世より楽しい生活ができていると感じているだろう。
「それじゃ、芽依……あんたも?」
「うん。お前は私にとって絶対に許せない相手だけど、同時に代わりの効かない友人でもある。三春と……アリアとおんなじよ」
ユエはそう言って微笑み、リーネに手を差し出した。
リーネはそれを取り、涙をこぼしながらも微笑んだ。




