55.謝罪
翌週、リーネは丸々一週間学校を休んだ。
理由は「精神的不調」とのことだが、詳しいことはみんなには明かされなかった。
「どうしたんだろうな。リーネ……」
マシュルは割と真面目に心配していたが、私たちは別に心配ではない。
大方精神的にダメージを受けたのだろうが、これもまたあいつの受けるべき報いだ。
結局その後、リーネは三週間ばかり休み続けた。
さすがにクラスのみんなからも心配する声が出てき始め、彼女とよくつるんでいたからという理由で私たちに注目が集まった。
「アリアたち、よくリーネと一緒にいたよね?心配じゃないの?」
ある女子生徒にそう言われた。
さすがに心配でないと言うわけにはいかないので、「今度様子見に行く」と言っておいた。
それはその場しのぎの嘘に近い話だったが、後にユエと話した結果、実現する見込みとなった。
というのも、前回は結局私たちの復讐がメインとなって、奈々の話をあまり聞けていなかった。
それでは、「解決」したとは言えないのではないか。
何より、あいつから誠意のある謝罪は受けていない。
私たちは確かに怒っているが、明確な復讐を終えた……というか一段落ついた今、残っているのは「罪を認めてほしい」「謝罪してほしい」という感情だ。
そんなわけで、私たちは次の休日にリーネの家を訪ねた。
これまでにも何度か行ったことがあるが、こんな複雑な気持ちで行ったことはなかった。
玄関の扉を叩くと、リーネの父親が出てきた。
私たちを見て娘の見舞いに来てくれたと思ったのか、すんなりと入れてくれた。
リーネは自室にいて、ベッドにいた。
そして父親から友人が来たと聞かされ、私たちの姿を見て、ひどく驚いていた。
「どうした?」
「いや、何でもない……ありがとう」
父親が去っていた後、私たちはリーネと向き合った。
リーネもだが、ユエも複雑な表情をしている。
「それで……あんたは、この三週間休んで……何を思ってたの?」
まずは、私が口を開いた。
「何を、って……」
リーネは言葉を詰まらせたが、私たちの視線に威圧されたのか、ようやく絞り出すように答えた。
「申し訳なかったな、って。三春たちにひどいことして、自殺まで追い込んでおいて……あたし、最低だなって。やり返されても、仕方なかったなって……」
ユエは相変わらず厳しい目でリーネを見ていたが、私は彼女の反応に思うところがあった。
あれだけの苦しみを味わって、リーネは……奈々は、少しは変わったのではないか。
そしてもし、彼女が本気で過去の行いを詫び、謝罪すると言うのならば……そろそろ許してやってもいいのではないか、と。
「あの日あんたたちに痛めつけられて、やっとわかったよ。一方的に傷つけられるのが、どんなに辛くて苦しいか……」
そこまで言った時、ユエが口を開いた。
「でもそれって、その場でお前が感じたことをそのまま並べただけだよね。自分が苦しい思いをしたから、思いついただけのことを」
ユエの表情、そして口ぶりからしても、まだ奈々を許せていないようだ。
絶対に許さない、と言っていたのに嘘はなかったらしい……気持ちはわかるが。
「結局反省なんてしてないし、本気で私たちに悪かったとも思ってないんでしょ?」
「そんなわけない……!本気よ!本気で思ってる!だから、あんたたちに合わせる顔がなくて……今まで休んでたの!背中の怪我もあったし……」
「ふーん?でもさ、普通は逆じゃないの?本当に悪かったと思ってるんなら、多少心身に無理を言わせてでも学校に来て、私たちに謝罪するべきなんじゃないの?」
ユエ……芽依の主張はすごくよくわかる。私だって、少なからずそう思う。
でも、それはつまるところ被害者側の思想の押し付けでしかなく、ある意味では加害者がやっていたこととあまり変わりないのではないか──そうも思う。
「いや……ユエの気持ちはわかるけどさ、一旦落ち着こう?」
「落ち着いてるよ。私は当たり前のことを言ってるだけ。相手を傷つけて、その人生までも奪ったこと……本当に反省してるんだったら、それくらいはすべき」
ユエはふーっと息を吐き、「でもまあ……アリアにもいろいろ言われてきたしね」と言って、リーネを見た。
「お前……私たちを殺したって自覚あるの?自分たちの行いで、人生も精神も体も傷つけて、苦しめたって自覚あるの?」
「あるわよ。ついこの前までなかったけど、あの日から変わった。夢でもさんざん見せられて、実際に自分の体を傷つけられて……やっとわかった気がする。あの時、真面目に殺されるかもって思ったもの」
リーネは涙を浮かべていた。
「でも、あの苦しみは……かつて三春たちが受けたものに比べれば、ずっとマシだったんだと思う。だからこそ、二人に申し訳なくて……」
その様子からは、少なくとも私は彼女が本気で反省していると受け取れた。
でも、ユエはそうではなかった。
「それなら、言うことがあるよね。わざわざ私たちの方から来てやったんだ、言えないことはないはずよね」
「……そうね」
そこで、リーネは涙を拭い、私たちに初めて本心で「その一言」を言った。
「ごめんなさい。あなたたちをいじめて、自殺までさせて……しかもその後、自分はのうのうと幸せに生きて……」
頭を下げ、声と体を震わせる奈々。
それを見て、ようやく芽依の心も動いたようだった。




