54.痛みを知っても
「これ、見覚えあるよね?いや、なくてもいい。とにかくこの二つは、かつてお前が私たちを苦しめるのに使った道具だ」
芽依は、それらを奈々の前に差し出した。
「本当に反省してる、私たちに申し訳ないって思ってるんだったら……わかるよね?」
奈々は本当に理解していないのか、それともまだとぼけるつもりなのか、「え……?何のこと?」と悲しげに笑った。
その反応が、私たちの怒りを再燃させる。
「わかんないならやってやろうか?この短剣で……」
「わ、わかったわかった!そうね、確かに昔これをあんたたちに刺した!よく覚えてる!」
「なんだ、覚えてたんだ。ならやれ。あ、でも……」
私はカッター代わりの短剣を回収し、その代わりに上着を脱げと奈々に言った。
「背中に刺すのは、自分ではやりづらいよね?だから私たちがやってあげる。ペンは……自分でやれるでしょ?」
ここまでの文脈と雰囲気からして、私たちが何を言いたいのかは一目瞭然だろう。
かつて奈々は私たちの手にペンを刺し、背中にカッターを刺した。
それを今、自分自身にしてもらう。
「この二つ、どっちもちょっとした加工品でね……見た目は違うけど、夢で見せた時に使われたやつとなるべく同じにしてあるの。刃と芯の長さ、鋭さ、そして硬さもね」
これについては、私は知らない。
私は、ただペンとカッター代わりの短剣を用意するということしか知らなかった。
芽依は、わざわざそこまで再現したのか。
「確か、夢ではどっちも二回ずつやってたよね?だから二回やれ。背中に短剣を刺すのは、私と三春で一回ずつやってやるから」
「はあ……!?あんたたち、正気なの!?」
「正気だよ。ただ、心の底からお前に復讐したい、やり返したいと思ってるだけ」
「だとしても……こんなやり方って!」
「ない、って言いたいの?大したご身分だね。私たちを虐げて、殺した悪人がさ」
私は脱がせた奈々の上着を地面に起き、後ろを向くよう言った。
これもまた、あの時と同じだ。
「先にペンをやってもらおうか。どっちでもいいから、手の甲に突き刺せ……私たちにやったみたいに、思いっきりね」
奈々は恐怖に震えながら、ペンを握って振り上げた。
普段のこいつなら絶対に従わなかっただろうから、その意味でもあの悪夢は効いていたようだ。
「……っ!」
勢いよくペンを左手に突き刺し、奈々は顔をゆがめる。
その表情は演技などではなく、本気で苦痛に喘いでいる人間のそれだった。
「抜くなよ。あと五秒はそのままにしろ。私たちにしたのと同じように」
奈々は全身を震わせ、唇を噛み締めながら痛みに耐える。
そしてそれを見届けた後、私たちは非情な指示を出す。
「そろそろ抜いていい。で、またもう一回。別のところでいいから、もう一回刺せ」
「お願い、もう許して……痛いのも、辛いのも……よくわかったから……!」
「前世で私たちがそれを言った時、お前は応じたっけ?……都合の良いこと言って、逃げようとすんな。ほら、左手押さえててやるから」
私と芽依が左手を押さえつけると、奈々は絶望に満ちた表情をした。
不思議なものだ。私たちにやるのは笑ってやってたくせに、自分にやるとなると真逆の反応をしてる。
「もう一回手に刺して、そこからまた五秒。それをやったら、終わりにしていい。ほら、早くやれ!」
芽依の怒りに満ちた声に、奈々は逆らう気力などもうなかった。
言われるがままにペンを手に刺し、そしてまた苦痛に喘ぐ。
その姿には、かつての自分の姿を重ねていた。
もちろん、それは芽依も同じだろう。
「……よし、五秒経った。抜いていいよ」
奈々はすぐにペンを抜き、そばの地面に投げ捨てた。
そして息を上がらせ、「もうやめて……許して……」と悲痛な声を上げた。
「何言ってんの?まだこっちがあるじゃない」
背後に回った私が、その背中に短剣を突き刺した。
それを見て芽依も後ろに回り、同様に短剣を突き刺した。
「がっ……!あ……あっ」
もはや悲鳴を上げることもできず、言葉にならない声を出す奈々。
それを聞きながら、私たちは短剣を突き刺したまま数秒間硬直する。
滴る鮮血が私たちの腕を伝い、服を染め上げ始めたころ、ようやくそれを抜いた。
奈々は死にこそしていないが、それでも前方に倒れて口を開け、その耐え難い苦痛に喘いでいた。
「さて……どうだった?これでわかったよね、私たちの痛み」
「わかった……だから、もう……っ」
この辺で許してやってもいいと思ったが、芽依は違ったようだ。
しゃがみこみ、奈々の顔を覗き込んでこう言った。
「今日はこの辺にしといてやる。けど、覚えておけ……三春はどうだか知らないけど、私はお前を絶対に許さない。お前たちに虐げられて、人生を狂わされたんだ。仮にお前が死のうが、反省しようが……絶対に、絶対に許さない」
芽依の背後に浮かぶ氷は、奈々にそう告げる瞬間が一番大きくなっていた。




