53.奈々の断罪
そうして迎えた週末の放課後。
私たちは、森のわりと奥の方まで来ていた。
ここ最近わりと寒くなってきているし、果たしてここまで来るかちょっと心配だったが、ばっちりやって来た。
リーネは私たちの顔を見て驚いた顔をしつつ、すぐに呆れたような顔をした。
でも、その顔には──隠しきれない、溜まっていた感情があった。
「来たね、奈々」
ユエがいきなり奈々と呼んだ。
それにも彼女は驚いたようだったが、すでにユエの正体を夢で知っていたからだろう、何とも言えない顔をした。
「あんたたちは……!あの夢、やっぱりあんたたちの仕業だったのね!」
「そうだよ。それがどうかした?」
「どうかした?じゃないわよ!あんな恐ろしい夢を一ヶ月も見せておいて……!明日、学院に報告してやるから!」
まあ、そう言うだろうなとは思っていた。
実際今回私たちがやったことは褒められることではないどころか、学院からすればれっきとした「魔法の悪用」であり、処罰の対象となるだろう。
だが、それについての私たちの想いは共通だ。
「ふーん……お前がそれを言うんだ?」
ユエの言葉に、リーネは「……は?」と呟いた。
「前世で散々私たちをいじめて、最後には殺しておいて……そんなこと言う権利があるんだ?」
「何言ってんの?あたしは別に人殺しなんて……」
そこで、私が口を開いた。
「私は学校の屋上から飛び降りて、芽依は自分の部屋で首を吊って自殺した。けど、それは元はといえばあんたたちが私たちをいじめたせいだ。まさか、忘れたなんて言わないよね?」
すると、リーネは数秒後に「あぁ……」という顔をし、ため息をついた。
「何?あんたたち、未だにそれを根に持ってるの?確かに昔あんたたちをいじめてたけどさ……何もあたしだけじゃないし、直接殺したわけでもないじゃない!」
最後まで聞かなくとも、最初の一文だけでよくわかった。
やっぱり、こいつは反省してない。
私たちをいじめたことを、何とも思ってない。
自分だけが悪いわけじゃない、自分は悪くない……って、自己擁護することしか考えてない。
私もそう思ったが、もちろん芽依もそう思っていた。
「は……?本気で言ってんの?」
芽依が瞬時にして露わにした殺意に、奈々は若干圧倒されたようだった。
「私たちをあんなに苦しめて、その苦しみも夢で見ておいて……言い訳するの?」
芽依、もといユエの体から白っぽい霧が出てきて、その背後から水晶のような氷が生えてくる。
彼女の持つ氷の魔力が、活性化しているのだ……心の底から湧き出る怒りで。
「お前に見せてやったよな?私たちが見た地獄を。一ヶ月もかけて!なのに、多少時間が経ったから許されると思ってたんだね?……ふざけんな!!」
芽依の横で、私も怒りを露わにした。
「今回お前に見せた夢は、どれも昔の私たちの経験をそのまま夢にしたもの。あれを見て、お前は怯えてたよね?怖がってたよね?自分が嫌なことを人にしておいて、それを何とも思ってなかったのね?」
すると、奈々は今になって焦りだした。
「い、いやいや……違う!あの夢、確かにすごく嫌だったし辛かった。怖かった!だから、あんたたちの気持ちはよくわかる!あたし、反省してる!悪かったって思ってる!」
今更そんなことを言われたって、信じるものか。
私たちは魔力を滾らせながら、奈々に近づく。
「私たちは、お前たちに殺された。何ヶ月もいじめられて、苦しめられて──自殺に追い込まれた。その痛みと苦しみを知ってもまだ、ヘラヘラしてられるんだね?」
「ち、違うわ!あんたたちが辛かったの、すごくよくわかった!心から後悔してるし、悪かったって思ってる!本当よ!」
「自分が危なくなったから、そう言ってるだけでしょ。本当は、ちっともそんなこと思ってない」
「思ってるって!今度の夢で、三春たちがどんなにひどいことされてたか痛感した!だからあたし……あんたたちに謝りたい!」
それを聞いて、私の炎が少しだけ小さくなった。
同時に、芽依も奈々に近づく足を止めた。
「本当よ!お願い……信じて!もう、あんな怖い目に遭いたくないの!あんたたちが自殺までしたの、すごくよくわかる……あんなに苦しんでたなんて、思ってもなかった!……ごめんなさい!本当に、本当に……!」
必死に謝る奈々を見て、私たちは顔を見合わせた。
思ったより、精神的な圧力はかけられていたようだ。
ならば、そろそろ締めとしよう。
「本気で言ってるの?」
私の問いに、奈々は恐怖に震えながら頷いた。
「なら、それを行動で示しなさい」
にわかに困惑する奈々に、芽依があるものを取り出して見せた。
それはペンと、カッターに見立てた短剣……かつて、奈々が私たちを傷つけるのに使った道具の一つだった。




