52.答え合わせの招待状
それから私たちは、あくまでもごく普通に、それまでと変わらない学院生活を送りながら、奈々の様子を見ていた。
最初はあまり目立った変化はなかったが、十日もすると明らかに雰囲気が変わった。
常に暗く、誰も寄せ付けないような……いや、自分から他者との関わりを拒んでいるかのような、近寄りがたい雰囲気を醸し出していた。
また、奈々自身の顔色も日に日に悪くなっていった。
周りは気づいていないようだったけど、私たちにはわかった。
さぞや消耗しているだろう。当たり前だ。
でも、それは誰のせいでもない。
この女がかつてやったことが、そのまま自分に返ってきているだけ。
何なら、実際に体が傷ついていないだけマシだとさえ思える。
そんな中でも私たちは、何も知らないような顔をしてリーネに話しかけたりしていた。
ここにいるのはあくまでも「リーネ」であり、「奈々」ではない。
そして、私たちは何もしていない。
当然話しかければ反応はしてくるが、やがてそれすらも雑になっていくのがわかった。
確実に追い込めているな、と感じる一方で、着実に決着の時が近づいてきている、とも感じた。
少なくとも私としては、今度の「復讐」は単にやり返して終わりにするつもりはない。
最後は面と向かって奈々と話し、過去の因縁に決着をつけようと思っている。
それが良い結果になるかはさておいて。
そうして、夢を見せ始めてから一ヶ月が過ぎた。
いつも通り朝一でリーネに声をかけると、教室どころか廊下にまで響くような声で怒鳴られた。
相当疲弊しているようだ……そろそろ頃合いか。
そう感じた私は、リーネにこう言った。
「どうしたの?最近なんか変だけど……何かあったの?」
無論、その答えというか真相はわかりきっている。
ただ、どんな反応をするかは正直わからない。
「何かって……あんた、本気で言ってるの!?」
「え……何?私、何かした?」
わかってはいるが、あえてとぼける。
すると、リーネは舌打ちをし、私を憎らしいような目で睨みつけ……そしてため息をついた。
「いや、何でもない。ただ、何となく最近あんたたちの顔を見たくなくなっただけ」
歯切れの悪い返事に、どうやらまだ足りないようだと感じた。
ただ、私としては少しばかり思うところがあった。
放課後にユエと会って、そのことを話した。
ユエももう少しあの悪夢を見せ続けてやった方が良いと考えていたようだが、私の持論を聞いてなるほどと唸っていた。
「もう少しだと思うんだよね……でも今のままだと埒が明かないだろうから、夢にヒントを入れてやってもいいんじゃないかな。最後に、『今度の休日に、学院の裏の森に来い』ってメッセージを入れるとか」
今のやり方のままだと、奈々を追い込むことはできても、反省させる……というか私たちと面と向かって話す気にさせることはできないだろう。
だからこそ、この辺で答え合わせというか、私たちと対峙させる足がかりを作ったほうがいいと思う。
どの道すでにだいぶ消耗させているはずだから、明確にヒントとして掲示すれば、従わないということはないだろう。
「確かにそうだね。どっちにしろ、あの女と直接対決しなきゃないのは事実だし……そうするか」
というわけで、今夜は奈々に見せる夢にちょっとだけ変更点を加えた。
夢の最後に今の私たちを登場させ、「今度の週末の放課後、学院の裏の森に来い」と伝えるようにしたのだ。
しかもその登場シーンは、それまで前世の姿だった私たちがいきなり今の姿に変化して、メッセージを伝えるという形式にした。
これなら、今の私たちこそが前世の三春と芽依だということも合わせて、強烈に記憶に刻み込ませられるだろう。
いよいよ、計画は終盤だ。
そろそろ秋も深まってきたし、冷たい北風が吹くようになってきたが──そんな中で私たちは、リーネこと村上奈々に現実と感情を突きつけ、その心に冷たい風を吹かせる。
私たちの復讐は、もうすぐ一つの終わりを迎える──そう思うと、達成感はありながらもどこか切ない、寂しい気持ちになった。




