48.決行の夜
それからおよそ一ヶ月の間、私たちは毎週のように休日に合流し、フェグジレードの練習を続けていた。
最初は断片的だった夢も、今ではかなり鮮明に再現できるようになってきている。
もちろん、それを誰かに見せる機会はまだない――いや、なかったが。
そうして迎えた、次の週末。
私はいつも通り学院から帰宅し、夕食を済ませ、自室へ戻り……時間を無為に過ごした。
机の上には課題のノート。窓の外には星空。
何も変わらない、いつも通りの初秋の夜だ。
けれど、今日だけは違う。
「……いよいよだ」
小さく呟く。
緊張なのか、怒りなのか、それとも別の何かなのか……自分でも分からないが、とにかく胸の奥がざわついていた。
時計の針が進んでいき、家の中が静かになり、私はベッドへ横になった。
杖を握り、静かに詠唱する。
「エルフィラード」
淡い光が私を包み、意識がゆっくり沈んでいく。
瞼が重くなり、体の感覚が遠ざかる。
そして――。
気付くと私は、真っ白な空間に立っていた。
上下も左右も分からない、ただ白だけが広がる世界。
ここは、夢と夢の狭間。
エルフィラード、他者の夢を直接眺める魔法によって作り出された世界だ。
「来たね」
聞き慣れた声がして振り返ると、そこにはユエが立っていた。
厳密には、今の彼女は少し違う。
どこかユエであり、どこか芽依だった。
夢の中だからだろうか、表情もいつもより大人びて見える。
「待ってたよ」
「ごめん。少し遅れた」
「気にすることないよ。数分だけだから」
ユエは笑ったが、その笑みは固い。
私も同じだった。
しばらく二人とも黙り、やがてユエが口を開いた。
「本当に、やるんだね」
「……うん」
「一応確認するけど……今なら、まだやめられるよ」
意外な言葉に、私は思わず彼女を見る。
ユエは少し俯いていた。
「一ヶ月前なら、絶対言わなかったと思う。でもさ、最近考えてたんだ」
白い世界の中で、彼女は続ける。
「これをやったら、もう後戻りできないなって」
私は何も言わない。その通りだからだ。
「それでも私、やっぱり許せない。三春を殺したことも、私を殺したことも」
ユエは顔を上げた。
「だから、やる。あいつへの、復讐を……」
その瞳に迷いはない。
私も頷く。
「うん、私も。てかよく考えたら、今更じゃない?」
「ふふ、確かにそうね。もう──復讐は始まってるんだもんね」
白い空間の奥で、淡い光が揺れる。
エルフィラードが示す夢の入口。その先にある目的地は、一つしかない。
リーネ……村上奈々。彼女の見ている夢の世界だ。
「行こう」
ユエの言葉と共に、二人は並んで歩き出す。
白い世界の向こう、夢のさらに奥へ。
リーネの見ている、夢の地獄へ。




