47.復讐のための準備
その後、私とユエは下校したふりをして、学院の裏庭の木の裏で話した。
話題は、別に合わせずとも一致した。
「リーネの夢、見た?」
私が聞くと、ユエは「うん、見た」と頷いた。
「どう思った?」
「どうって……まあ、予想通りだなって。あの女、やっぱりクズだよ」
今となっては、それに大いに賛同する。
いや、元々奈々がクズなのは知ってはいたが。
「あの夢、大方自分の前世が幸せな人生だったから、それを見せてきたんだよね。私たちが何も知らないと思って」
「そうだと思う。だってあいつは、私たちが三春と芽依だってこと、知らないはずだから」
そう、リーネには私たちが転生者であることは話していない。
逆に、リーネが転生者であることは私たちは知らないふりをしている。
「三春と先生がいたから、自分で自分にブレーキ効かせられたけどさ……いなかったらたぶん、あいつを魔法でふっ飛ばしてた。それくらい腹が立った」
ユエこと芽依は、杖を取り出して震えた。
その震えは、彼女の心の底から湧き上がる怒りと恨み、憎しみ……様々な感情によって、体が衝き動かされた結果だろう。
「気持ちはわかるよ。私だって──ついさっきまで、正直ちょっと揺れてたんだけど、あれ見て振り切った。やっぱりこいつ、許せないって」
「でしょ?それでさ、思ったんだけど……復讐するんなら、今回あいつが私たちにしてきたのと同じ……いや、逆のことをしてやらない?」
どういうこと?と聞くと、ユエは自分の考えをぽつぽつと説明してくれた。
それは、結局は今回学んだ魔法を使うということだったが、確かにリーネがしてきたことの逆ではあった。
そして地味に重要に思えたのが、リーネの身を直接傷つけるわけではないこと。
それをすればあいつと同じだ、というユエの意見もあったが、私としてはむしろこちらのほうがいい復讐になりそうだと感じた。
「でもそれ、ちょっと難しくない?他の人にバレたら面倒だよ」
「いいのよ。表向きは単なる偶然、というかあいつが勝手に夢を見てるだけってことにすれば、バレないと思う。それにそんなことを気にしてたら、復讐なんてできないよ」
ユエは自信に満ちた表情で持論を展開する。
その姿に、ついこの前まで──ノエルこと美沙に復讐する前までの、私自身の姿を重ねた。
「私たちはあいつとその仲間に殺された。なら、同じようなことしても罰は当たらないよね?肉体的じゃなく、精神的にとなれば余計に」
「それは……まあ、そうね。私たちは、別にあの女を物理的に殺すわけじゃないし、むきろそうしてもいいくらいだものね」
そうして、私たちの計画は始動した。
だが、その前に準備が必要だった。
私は家にユエを招き、自室でその準備というか練習を始めた。
どちらかが相手に「フェグジレード」をかけ、見せたい夢を思い浮かべる。
見せたい夢とは言っても、その実態はかつての私たち自身の経験、あるいはそれを元にした光景であり、楽しい夢などではない。
最初は私が魔法を受ける側になった。
ユエの詠唱と共に眠りに落ち、彼女の思い浮かべる夢を見る。
それは前世の学校の教室の後方、自分の席にいて、ひとりぼっちで……周囲から時折ジロジロと見られ、冷たい視線を向けられている、という場面だった。
教室の前方……私が使っていた机には、少しだけ枯れ始めた花が入った花瓶が置かれている。
机には落書きがあったはずだが、それは今は消えていた。
……と、そこまで見たところで目が覚めた。
どうやらユエの集中力が途切れたようだが、仕方ないことだろう。
何しろ今のは、かつて彼女が見た景色そのものなのだから。
「ユエ……今のって」
「三春が死んで、一ヶ月くらい経ったころ。なんてことない毎日だったんだけど、ある時ふと気づいたの──私が、周りから冷たい目で見られてるって。そしてその後、あいつらが……」
その先は言われるまでもなかった。
私が死んで標的を失った奴らは、一ヶ月だけ大人しくした後、今度は芽依を標的にしたのだろう。
彼女は、私と同じくらい大人しい子だったから。
「この後のことは……ごめん。思い出せない。いや、思い出したくない。あまりにも辛くて……」
ユエは声を震わせ、今にも泣き出しそうだった。
「だったらいいよ。無理に思い出せとは言わない。でも、本気で復讐したいって言うんなら……いずれは思い出さなきゃない。このやり方で行くんならね」
「……そう、だよね。この悲しみと怒り、憎しみは……絶対に消えない。なら、それを向ける相手とタイミングも、絶対に間違えちゃいけないと思う」
私は頷き、杖を出した。
「次は私の番。次は私が、あなたに夢を見せる。……大丈夫?」
「うん。辛いものだってことはわかってるし、今更三春の見た地獄を見せられたって、もう傷つかないよ」
ユエは無理やりな作り笑いをし、私の唱えた「フェグジレード」で眠りについた。
そして見せるのは、私の思い浮かべる夢……かつて、村上奈々に振るわれた暴力の数々。
それを、断片的に切り取ったもの。
私もユエと同様、まだこの魔法自体に不慣れだから、忠実に映し出すことはできない。
だからこそ、こうして二人で見せたい夢を見せ合い、魔法を何度も使って、その技量を上げる。
傍から見れば、子どもの魔女が二人で魔法の練習をしている普通の光景。
実際それは間違いではないが、その目的はかなり歪んでいる。
かつての人生で受けた、壮絶ないじめ。
その報復として、恐ろしい悪夢を見せる。
物理的にではなく、精神的に傷つける。
三春と芽依、二人の魔女の心に巣食う魔物を解き放ち、その無念を晴らすために。




