↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
灼炎の転生魔女 〜異世界で始めるいじめ復讐〜  作者: 明鏡止水
1章 転生と復讐の幕開け

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
31/55

31.ここにいていい

 それからまたしばらくの月日が経ち、風が冷たくなってきた。

とはいえ、まだ冬の冷たさではない。

そこまで強く冷え込んでいるわけでもなく、今くらいの気温がちょうどいいと感じる。


紅葉が始まった並木道を抜け、私たちは学院の裏にある、坂の上の小さなベンチに座っていた。


「ふぅー……やっぱり、訓練終わりにここ来るのは定番だよなぁ」


 最初に声を上げたのはライド。

雷の魔法を扱う彼は、いつも通り服の上着を脱いで、シャツの袖を無造作にまくっていた。


「そのまま風邪ひくわよ、ライド」


シルフィンが呆れたように言う。

赤い瞳が、どこか優しげに揺れている。


「はいはい。お姉さん、今日も厳しいねー」


「別にお姉さんじゃないし」


「いや、包容力的な意味で」


「え?まあ……それは否定しないけど」


 二人のやり取りに、思わず笑ってしまう。

その横で、マシュルが静かに水筒のふたを開けていた。


「ほら、ハーブティー。冷えてきたから、温かいのを淹れてきたよ」


「ありがとう、マシュル。あなた、最近なんか気が利くよね」


「最近って……まあいいや。気を利かせてるっていうか……なんかアリア、最近すぐ疲れてる気がするからさ」


そう言われて、少しだけ苦笑する。

確かに最近は、勉強関連のことであれこれ考えることが多くて、心がフル回転していた。でも、それに気づいていたのがマシュルなのが意外だ。


「うん……でも、少しずつ整理はついてきたよ。いろいろね」


「そっか。そりゃよかったな」



 温かいハーブティーの香りが、風にふわりと混ざっていく。

その静かな時間が、なんだかとても愛おしく思えた。


「……秋って、いいよね」


ふと、シルフィンが呟いた。


「空気が澄んでて、葉っぱが色づいて、風も穏やかで……ちょっと切ないけど、落ち着くというか」


「シルフィンらしいな、それ」


「えっ、なにが?」


「“詩人かよ”って言いたいのさ」


「詩的で何が悪いのよ」


シルフィンがちょっと膨れて、マシュルが笑い、ライドがそのやり取りを眺めて小さく笑う。

私もまた、ふっと頬を緩める。


 こんな時間が、好きだった。

何かを争うでもなく、憎しみ合うでもなく、ただ一緒に過ごすだけの時間。


かつては、そういう“普通”は私には遠いものだった。でも、今は違う。

私はここにいていい……そう思える自分が、胸の中に芽生えてきていた。


「そうだ、四人でどっか出かけようよ。今度は、学院の外に」


私がそう言うと、シルフィンが目を輝かせた。


「それいいね! 秋の森とか、見に行きたいな。焼き栗とか食べながら」


「食べ物が目的なのかよ……いや、いいんだけどさ」


 マシュルは呆れたように言いながらも、どこか楽しげだ。


「外に出るなら、事前に魔力検査の申請通す必要があるな。町の外では魔物も増える時期だし」


ライドが現実的なことを挟むのも、いつも通りだった。


「そっか。じゃあ、明日先生に聞いてみるよ」


「じゃ、任せた。おれたちは栗を楽しみにしてる」


「もう、それ完全に遠足じゃん」


「いや、これら遠足だよ。青春ってやつだ」


 冗談を言い合いながら、夕陽が沈んでいく。

ひんやりした秋風が、赤く染まった葉をゆっくりと舞い上げた。


その時、石段の方から軽い足音が聞こえた。


「──あ、やっぱりここにいた」


振り返ると、ノエルが小さく手を振っていた。肩からバッグを提げ、少し息を弾ませている。


「ノエル?」


「うん。ちょっと用事が長引いちゃって。でも、まだ間に合うかなって思って」


「全然間に合ったよ。ちょうどよかったまである」


 ライドが栗の入った袋を見せると、ノエルがふっと笑う。


「それは良かった。秋の森と焼き栗なんて、ちょっと絵本みたい」


「詩人が増えたな」


マシュルの軽口に、ノエルが肩をすくめる。


「そういう空気だったから、つい」


 彼女はベンチの端に腰を下ろすと、私の隣に少しだけ寄り添うように座った。

それは自然な距離で、けれどどこか、あたたかいものを含んでいた。


「遅れてごめん。みんなの輪に入っていい?」


「なに言ってんの。もう入ってるよ、ずっと前から」


私がそう返すと、ノエルは小さく息を吐いて、笑った。



 そうして、また話し声が重なっていく。

静かな風に、落ち葉が揺れ、笑い声が溶けていく。


とても、とても小さな安心だけど──この小さな安心は、後になって大きな安心に変わっていくはずだ。

私は、そう信じていた。

 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。