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灼炎の転生魔女 〜異世界で始めるいじめ復讐〜  作者: 明鏡止水
1章 転生と復讐の幕開け

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28/52

28.終わらなかった復讐

 あれから三日が経った。

週末のあの日、私の中に燃えていた炎は、まだ燻っている。


けれどそれは、燃え盛る憎しみではない。

静かに胸の奥で燻ぶる、灰色の余熱のようだった。



 そろそろ、本格的な夏が来ている。

陽射しはやけに眩しく、空はやたらと青かった。

こんなにも世界が明るいのに、私は少しもそれを美しいと感じなかった。


──ノエルは、死んだ。

あの火の中で、確かに焼けて、泣いて、壊れた。


私は彼女に言った……「死ね」って。

そして彼女は、私の炎の中で、最期の一言を言って果てた。

それが、私の見た“最後”だった。



 私は、それで終わったと思っていた。

前世の誓いは果たされた。

過去は焼き尽くされた。

だからこそ、私は普通の生活に戻るべきだと思っていた。


──でも、戻れなかった。


朝、目が覚めるたびに思う……「まだ、あのときの匂いがする」と。

それは、服に染みついた煙の臭いじゃない。私の心に焼きついた、焼け焦げた悲鳴と涙の匂い。

それが、どうしても離れなかった。



 ──これでよかったんだ。

そう思い込もうとするたびに、胸の奥で鈍い痛みが走る。

私は、生きるために怒ったはずだった。なのに今は──なぜか、心のどこかが虚ろだった。


校舎裏の焼け跡は、今朝先生たちに見つかった。だが、何があったのかは誰にもわからないようだった。


今後、あの場所には誰も近づかないかもしれない。

まるで、死者の痕跡に触れることをみんなが避けているかのように。




 私は、そこに立った。

今日も、また。


──誰かが私を見ている気がした。

けれど、振り返ってもそこには誰もいない。

風だけが、頬を撫でて通り過ぎていった。

静かだった。あまりにも、静かすぎた。


それで思った……私は、一人では生きていけない。誰か、一緒に話したり笑ったりできる人が必要だ。

前世で自ら命を絶ったのも、もちろんいじめが大きな理由だが、そこには少なからず「孤独」も含まれていたのだろう。


「……ノエル」


 ふと、私は声に出していた。

シルフィンやマシュルたちは、それぞれの別の友人と遊んでいるので、ここにはいない。


ついこの前までは、そんな状況でも一緒にいてくれる人がいた。

でも……その人は、前世で私を殺した奴らの一人だった。




 これで、よかったんだろうか。

意図せずして、そんな考えが浮かんできてしまう。

不思議なものだ。あれほど憎み、恨んでいた相手なのに……いざいなくなると、虚しい気持ちになるなんて。




 そんな中、私は知らなかった。

ノエル──山本美沙が、生きていたなんて。

あの日、私が地獄に突き落としたはずの彼女が、まだこの世界に存在していたなんて。


そして、それを知っている誰かが、既に私の傍にいたことも。

無邪気な笑顔で、私の隣を歩いていた炎の魔女。

シルフィンが、すべてを知っていたなんて──。




 あれから二週間という時間が経っても、心の中は焼けたままだった。

燃え尽きるはずだったのに、まだ燻っている。


私は中庭の片隅にあるベンチで、沈む夕陽を眺めていた。

誰にも話しかけられたくなくて、でも、一人でいたくない……そんな気分だった。


 そんな私の前で、一つの足音が止まる。


「……アリア」


振り向くと、そこにはシルフィンがいた。

いつもの無表情が、今日は少しだけ揺れている。


「……何か用?」


苛立ち交じりの声が出た。

自分自身でも、少し驚く。

でも彼女は怯まず、まっすぐに言った。


「ノエルなんだけど……彼女は、生きてるよ」


「……は?」



 何の冗談だろうか?

言葉の意味を理解するのに、数秒かかった。


「私が見つけて、助けた。偶然だけど、あの時、学院に戻って──」


「嘘」


私は立ち上がる。心臓が、怒りとも混乱ともつかない衝動で跳ねた。


「そんなわけない……だって、私はあの時、確かに──」


 そうだ、殺した。そう思ってた。

そう信じて、やっと──終わらせたつもりだったのに。


でもシルフィンは、ゆっくり首を振った。


「生きてた。あの子は……壊れてた。肉体も、心も」


「……ふざけないで」


どうして。どうして生きてるんだ。

あんなに私を壊して、何もかも奪っておいて──。


「アリア、落ち着いて」


「落ち着けるわけないでしょ!」


 怒鳴り声が、空に響く。

魔力がざわめき、指先に火が宿りかける。


「私の気持ち、何も知らないくせに……おおかた、やりすぎだって思ってるんでしょ?いじめられてたからって、殺すことないって……そう思ってるんでしょ!?」


 シルフィンは黙ったまま、私を見ていた。

でも、否定はしなかった。

それが余計に、腹立たしかった。


「言えばよかった?やめてって?助けを求めればよかった?……でも、誰も聞いてくれなかった。誰も!」


声が震える。

喉が焼けるほど熱いのに、胸は寒くて仕方なかった。


「私はただ、怒りたかった。前世の無念を、恨みを、晴らしたかった。それだけなのに……」



 沈黙が落ちる。

そして──静かにシルフィンは口を開いた。


「……私は、あなたの全部を理解できない。だって、私はいじめられたことがないから」


その言葉に、胸がひどく痛んだ。

でもその次に続いた言葉が、それ以上に深く染み込んできた。


「でも……それでも、あなたのことを分かりたいって思ってる。どんなに悲しい過去がある人でも、アリアとは……友達でいたいって思ってるから」



 私は、黙って彼女を見つめた。


「だから、聞かせてほしい。あなたは──ノエルを、どうしたいの?」


胸の奥が、ずっと冷たかった。

だけど今、その問いかけに触れて、少しだけ熱が戻ってきた気がした。


「……ノエルは死んだ。あの日、私が焼いた。前世の恨みと、怒りと一緒に」


 私はそう言った。

けれど──心のどこかが、まだ揺れていた。


「でも、もし美沙が生きてるなら……あの日、私が殺しきれていなかったんなら」


私は、再び炎を灯すかもしれない。

でも、ほんの少し。ほんの、ほんの少しだけ──もう一度だけ会ってもいい。

そう、思ってしまった。


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