18.診断結果
母に支えられながら家を出た。
幸い、ここから診療所まではそこまで遠くない。町の中心部にある小さな建物で、歩いて十分ほどの距離だ。
もっとも、今の私にはその十分が妙に長く感じられるのだが。
「大丈夫?」
「う、うん……」
そう答えたものの、正直あまり大丈夫ではない。足の痺れは相変わらずだし、歩くたびにお腹の奥が鈍く痛む。
額から流れる汗を拭いながら、私は母と並んで町の石畳を歩いた。
「無理そうなら、言いなさい」
「ううん、まだ平気……」
途中で何度か立ち止まりながらも、私たちはなんとか診療所へ辿り着いた。
診療所の中は静かだった。
受付を済ませてしばらく待つと、診察室へ呼ばれる。
「どうぞ」
白衣を着た中年の医師が椅子に座っていた。
「症状を聞かせてください」
私のかわりに、母がこれまでの経緯を説明する。
手足の痺れ。腹痛。大量の発汗。頭痛。下痢。
医師は真剣な表情で話を聞きながら、時折メモを取っていた。
「ふむ……」
説明が終わると、今度は私の目を見たり、脈を測ったり、お腹を触診したりする。
「痛む場所はここですか?」
「はい……」
「吐き気は?」
「ありません」
「発熱は?」
「ありません……今のところ」
医師は腕を組んだ。
「症状だけを見ると、感染症の可能性もありますね」
「何かの病気ってこと?」
母が尋ねる。
「現時点では断定できません。あくまでも、可能性があるというだけです」
私は少しだけ安心した。病気なら、治療すれば治るだろう。
しかし、医師はすぐに続ける。
「ただ、一つ気になることがあります」
「気になること?」
「手足の痺れがある、ということです」
その言葉に、私と母は顔を見合わせた。
「胃腸の病気なのだとしたら、説明しにくい症状なんです」
医師はカルテらしきメモを見ながら言う。
「念のため、血液検査を行いましょう」
採血が終わり、結果が出るまでしばらく待つ。
その間も、体調は良くならなかった。
待合室は、別に暑くはない。なのに、椅子に座っているだけで汗が止まらない。
「大丈夫?」
母が心配そうに背中をさする。
「うん……」
本当は全然大丈夫ではない。
むしろ、少しずつ悪くなっている気さえした。
そして、三十分ほど経った頃。
「アリアさん」
再び診察室へ呼ばれた。
医師は、先ほどより険しい顔をしていた。
「検査結果が出ました」
私は思わず背筋を伸ばす。
「何かわかったの?」
母が尋ねると、医師はゆっくり頷く。
「ええ。少なくとも、単純な感染症ではなさそうです」
「……え?」
予想外の答えだった。
「血液検査の結果なんですが……アリアさんは何らかの神経毒、もしくはそれに類する毒性成分を摂取した可能性があります」
診察室の空気が一瞬で変わる。
母の表情が固まった。
「毒性物質……?」
「はい。何らかの毒性物質を体内へ取り込んだ可能性があります……おそらくは、食べ物経由で」
私は思わず声を失った。
毒?そんなもの、一体いつ。
「それはつまり……食中毒、ということ?」
母が静かに尋ねる。
「可能性は高いでしょう」
医師は頷いた。
「毒草、毒キノコ、あるいは自然由来の有害成分を含む植物……摂取経路はまだ断定できませんが、症状とも一致します」
その瞬間、私の脳裏に浮かんだのは――ちょうど三日前、野外実習の初日だった。
森で採った山菜。木の実。そして、あの紫色のキノコ。
「まさか……」
思わず呟く。
あれは、ノエルとフレア先生がちゃんと判別してくれたものだが……まさか、あの時の食事が原因なのだろうか。
「心当たりがあるんですか?」
「はい。実は……」
ことの経緯を医師に説明すると、やはりというか医師はそれを疑った。
そして、もし食中毒であれば野外実習に参加した他の生徒も同様の症状が出ているはず。近隣の診療所で、私と同じ症状を訴えている人が来ていないか調べてみる、と言ってくれた。
そして待合室でしばらく待たされた後、医師から「隣町の診療所に、同様の症状を訴える女の子が二人来たという情報があった」と聞かされた。
それがシルフィンとノエルであることは、考えるまでもなくわかった。




