17.朝の異変
翌日、私は、いつものように朝を迎えた――はずだった。
目が覚めた瞬間、違和感があった。
「……あれ?」
布団の中で動こうとした途端、手足が妙に痺れていることに気づく。
指先がじんじんする。足先も同じだ。
寝方が悪かったのだろうか。
そう思いながら身体を起こそうとして――今度は腹部に鈍い痛みが走った。
「っ……」
思わず顔をしかめる。
激痛というほどではない。だが、確実に痛い。
お腹の奥を掴まれるような、不快な感覚だった。
「なんだろ……」
私はゆっくりと上体を起こした。
すると今度は別の異変に気づく。
額に、汗が浮いていた。
「え……?」
思わず窓へ目を向ける。
朝日が差し込んでいるが、そこまで暑いわけではない。むしろ春の終わりとはいえ、朝は少し涼しいくらいだ。
それなのに、首筋や背中にじっとりと汗をかいている。まるで、真夏に運動した後のようだった。
「なんか……変だ」
胸の奥がざわつく。
熱でもあるのだろうかと思い、額へ手を当ててみた。だが、自分ではよくわからない。
少なくとも頭が痛いわけではないし、意識もはっきりしている。
しかし……手足の痺れ。腹痛。そして異常な発汗。どう考えても体調が良い状態ではなかった。
「アリア、起きた?」
廊下から母の声が聞こえてきた。
「起きてるー……」
返事はしたものの、いつもより元気がない声だと感じたのだろう、母は足早に部屋に入ってきた。
「どうしたの?」
「いや……なんか、ちょっと調子悪くて」
「大丈夫?」
母は、心配そうな顔で私を見た。
「熱は?」
「わからない」
「ちょっと見せなさい」
母は私の額へ手を当てる。
ひんやりとした感触。しばらくしてから、母は首を傾げた。
「熱はなさそうね」
「だよね」
「でも、顔色はあまり良くないわ」
そう言われると、自分でもそんな気がしてきた。
お腹は相変わらず痛いし、手足の痺れも消えていない。むしろ、少し強くなっているような気さえする。
「昨日、何か変なもの食べたりはしてないわよね?」
「うん。夕飯以外は何も」
昨日の夕食を思い返す。
野外実習から帰った後、母と一緒に普通の夕食を食べた。
特に変わったものはなかったはずだし、もしそうなら母も同様に症状が出ているはずだ。
「実習中は?」
「山菜とかキノコとか食べたけど……ちゃんと先生の確認は受けてたよ」
「そっか……ならそれも違うでしょうね」
母は少し考え込む。
「とりあえず、無理に学校に行こうとしないほうがいいわ」
「でも――」
すると、母は私の横に腰掛けた。
「原因がわからない以上、今日は休んで様子を見ましょう」
その表情は、普段の優しい母親ではなく、一人の大人として娘を心配するものだった。
私は反論しかけたが、腹部が再び痛み、結局言葉を飲み込む。
「……わかった」
野外実習は楽しかった。何なら今日は、シルフィンたちにその話の続きをしたかった。
でも、この状態では無理だろう。
私は再びベッドに横たわる。
その時、一瞬だけ視界が揺れた。
「っ……!」
「アリア?」
母の声が聞こえる。だが、私は答えられなかった。
腹の奥で、何かが嫌な音を立てたような気がしたからだ。
まるで――これから何かが始まるかのように。
結局、私は学院を休んだ。
どうせ魔法陣をくぐればすぐ学院なので、母が直接学院に足を運んで先生に伝えてくれた。
まだ朝早い時間だったこともあり、他の生徒はほとんどいなかったらしい。
昼前になっても、症状は収まらない。
むしろ、特に手足のしびれは強まってきたし、新たに頭痛も出てきた。
さすがにこれはまずいなと思っていたら、母が部屋の扉を開けた。
そして事情を話したら、これから医者のところに行くと言い出した。
「立てる?」
「うん、なんとか」
かろうじて立って歩くことはできるが、走ることはできそうにない。
歩くたびに、足全体がビリビリと痛む。
両手も同様で、指の感覚がない。
「すごい汗ね。一度体を拭いたほうがいいわ」
異常な発汗は今なお続いており、私の服はとうにびしょびしょになっていた。
もちろん、ベッドのシーツも同様だ。
「ごめん、その前にトイレ行きたい」
「わかった、行ってきなさい」
腹痛も未だにあり、下痢もしている。
そこまで強烈なものではないし、吐いたりもしていないが、それでも十分辛い。
おそらくは、何かの病気なのだろうが……一体、私の体に何が起きているのだろう。




