16.当たり前ではない幸せ
それからの三日間は、特に大きな問題もなく過ぎていった。
二日目の午前中に行った、森の中での魔法実践授業。
木々の間を縫うように移動しながら魔法を発動したり、障害物を避けながら標的へ命中させたりと、普段の授業とは勝手が違う。
「うわっ!?」
シルフィンの放った火球が枝にぶつかり、明後日の方向へ飛んでいく。
「うーん、森の中だといろいろと難しいな……」
「だから訓練するんだよ」
私は苦笑した。
木や岩が多い環境では、魔法の射線も限られる。ただ威力の強い魔法を撃てばいいわけではない。
しかし、私はむしろこういう環境の方がやりやすかった。
前世の記憶の影響もあるのかもしれないが、周囲の状況を把握しながら動くことには慣れている。
……もっとも、それはあくまでいじめに怯えていた結果身につけたものだが。
「アリア、すごい」
ノエルが感心したように呟く。
「そうかな?」
「ほとんど外してない」
「まあ、多少はね」
褒められると少し照れる。
その一方で、ノエルもまた植物を利用した補助や索敵が上手かった。
森の中では、彼女の自然に関する知識が予想以上に役立つ。
シルフィンはというと、細かいことを考えずに突っ込む癖があるため先生に何度も注意されていた。
「シルフィン!」
「はーい!」
「返事だけはいいな」
「えへへ……ごめんなさーい」
言い方からもわかる通り、全然反省していない。
だが、その明るさのおかげで班の空気は常に和やかだった。
さらに、同日の午後には仮拠点設営の訓練も行われた。
もちろん、私たちの拠点となるテントは設置されている。だがこれは、緊急時を想定し、自力で簡易的な拠点を作る練習らしい。
「この紐、どう結ぶの?」
「こうだよ」
「おおー!」
私は前世で見た知識を思い出しながら、結び方を教える。
……この紐の結び方も、元はといえば首吊りにちょうどいい結び方を模索していた時に覚えたものであるのだが。
さて、シルフィンは覚えるのは早い。
ただ、数分後には忘れていた。
「なんで!?」
「知らないよ!」
そんなやり取りを繰り返しながら、私たちは何とか簡易シェルターを完成させた。
夜になれば焚き火を囲み、班ごとに食事を取り、他愛もない話をする。
森の中から見上げる星空は、驚くほど綺麗だった。
学校では見えないほどの数の星が夜空に散らばり、まるで宝石をばら撒いたようだった。
「綺麗……」
ノエルがぽつりと呟く。
「そうだね……」
私も思わず見とれる。
前世では、こんな風に誰かと星を見ることなどほとんどなかった。
だからだろうか、この時間が少しだけ特別に思えた。
そして、三日目の朝。
いよいよ野外生存実習も最終日を迎えた。
「今日で終わりか……早かったねー」
シルフィンが大きく伸びをする。
「そうだね。もう終わりかぁ……」
ノエルも少し名残惜しそうだった。
私も同じ気持ちだった。
最初は面倒だと思っていた野外実習だったが、終わってみれば意外と楽しかった。
まあ、まだ終わっていないが。
朝の点呼の後、フレア先生に「解散後、無事に帰宅するまでが野外実習だ。最後まで気を抜くな」と言われた。
これは、本当にその通りだと思う。
最後の最後まで、油断は禁物だ。
前世で、放課後になっても奴らが手を出してくることがあったように。
そうして時間は過ぎていき、いよいよ最後の授業が終わりを迎えようとしていた。
といっても、三時から四時までの一時間、森の中で好きに遊んでよい自由時間だが。
この時間、私はシルフィンとノエルとたくさん話し、一緒に遊んだ。
まるで休み時間のような光景だったが、私にとっては、今回の実習で最も価値のあるもののように感じられた。
友人と共に笑い、遊び、楽しい時間を過ごす……それは誰にでもある、当たり前のものだと思われるかもしれない。でも、そんなことはない。
前世の私のように、どんなに望んでもそれが手に入らない人もいるのだ。
ノエルやシルフィンがどう思っているのかはわからない。でも、少なくとも私は……今、幸せだ。
二度目の人生で、ようやく自分らしい学生時代を送ることができている。
誰にも邪魔されずに。何にも悩まず、苦しまずに。




