15.野外実習開始
野外生存実習当日。
朝早くから、一年一組の生徒たちは学校裏手のアルディア森林へと集められていた。
森の入り口付近には、既にいくつものテントが設営されている。
今回の実習は完全なサバイバルではなく、事前に用意された拠点を利用するらしい。
「なんか、思ったより本格的だなぁ……」
私は思わず周囲を見回した。
木々は高く生い茂り、森の奥は薄暗い。鳥の鳴き声や風に揺れる葉の音が聞こえ、学院の中とは別世界だった。
「なんか、冒険って感じする!」
シルフィンは既に楽しそうである。
「森の匂い、好きかも」
ノエルも嬉しそうに辺りを見渡していた。植物が好きな彼女にとっては、こういう場所は落ち着くのだろう。
やがて全員が集まったところで、フレア先生が説明を始めた。
「ではこれより三日間、各班ごとに行動してもらう」
先生は森の奥を指差した。
「食事については、学院側で最低限の保存食を用意してある」
そこで何人かが安心したような顔になる。
「だが、それだけでは味気ないだろう。よって本日の昼食は、各班で材料を調達して作ってもらう」
教室ならぬ森の中でざわめきが起きた。
「調達?つまり、採集するってことですか?」
「そうだ」
フレア先生は頷く。
「この森には、食用になる植物や果実がある。また、簡単な罠を使えば小動物を捕獲することも可能だ」
するとマシュルが勢いよく手を挙げた。
「先生!魚は!?」
「川で釣れ」
「よっしゃ!」
本当に元気な男だ。
「なお、少数ながら危険な生物も存在する。判断に迷った場合は、必ず教師へ確認するように。あと、無理に森の奥へは入らないようにし、長時間班の仲間と離れて行動するのは控えるように。以上だ」
先生は真面目な声で続けた。
そうして説明が終わると、生徒たちはそれぞれの班ごとに動き始めた。
私たちの班も、さっそく昼食の材料集めへ向かうことになった。
「さて!頑張って食材探そっか!」
シルフィンが気合いを入れる。
こちらもやる気に満ちているようだ。
「うん」
「もちろん、私も手伝うよ」
ノエルも頷いた。
私たちは森の中へ足を踏み入れる。
木漏れ日が地面にまだら模様を作り、柔らかな風が吹き抜けていく。
「こうして見ると、本当に森だね」
「学院の森なんだから、当たり前じゃない?」
シルフィンが笑う。
「まあ、それはそうなんだけどさ」
正直、学院のすぐ近くにこんな場所があることに、少し驚いていた。
しばらく歩いていると、ノエルが足を止めた。
「あっ」
「どうしたの?」
私が尋ねると、彼女は近くの草むらを指差した。
「これ、食べられるやつだよ!」
そこには緑色の葉をつけた植物が生えていた。
「本当?」
「うん。うちの畑の近くにも生えてる。茹でると美味しいの」
ノエルは慣れた様子で葉を摘み取る。
「すごい……」
私は素直に感心した。魔法の知識ならともかく、植物の知識は私はほとんどない。
「ノエル詳しいね」
「植物、好きだから」
彼女は少し照れくさそうに笑った。
その後も、ノエルは次々と食べられる植物を見つけていく。
「あっちに木の実もあるよ」
「ほんとだ!」
「助かるなぁ」
気付けば、採集の主導権は完全にノエルが握っていた。
シルフィンは木の実集めを担当し、私は荷物を持ちながら周囲の警戒を担当する。
無論ここは学院の管理する森なので、さしたる危険はないだろうが、これもまた訓練だ。
三人で協力していると、不思議と作業は楽しかった。
「これだけあれば、結構いけそうじゃない?」
シルフィンが籠の中を覗き込む。
中には、山菜らしき植物や木の実がそこそこ集まっていた。
「うん。昼食くらいなら大丈夫そう」
「よかったぁ」
ノエルも安心したように微笑む。
そんな時だった。
……ガサッ。
少し離れた茂みが揺れた。
「ん?」
私たちは同時に振り向く。
森の奥から、何かがこちらを見ている気配がした。
「今、何かいた?」
シルフィンが小声で言う。
「たぶん……」
私は杖へ手を伸ばした。
だが次の瞬間、その気配は森の奥へ消えていく。
ただの動物だったのかもしれない。
それでも、胸の奥に小さな違和感が残った。
その後も採集を続け、主にノエルの判断で食材を集め続けた。
ノエルは途中で食べられるキノコも見つけ、慎重に籠へ入れていく。
そして昼には、今まで集めてきた木の実やら山菜やらキノコやらをみんなで鍋に入れ、茹でて食べた。
味は……なかなか悪くない。
山菜の中にはほろ苦いものもあったが、食べられないほどではない。
木の実も、ちゃんと種を取り除いたり皮を剥いたりして、食べられるようにしてある。
「これ、なんか気味悪い……」
紫色のキノコをつまみ、私は顔をしかめた。
「まあ、見た目はね。でも大丈夫、ちゃんと食べられるやつだから!」
ノエルはそう言って微笑む。
恐る恐る食べてみると、驚くほど歯切れがよく、味もよかった。
「ん……意外とおいしい!」
「でしょ?」
そんな感じで食事は進み、鍋の中身は次第に減っていった。
思ったより全体の量が多く、食べきれないかと思ったが大丈夫だった。
前世で林間学校に参加したことはあったが、気を許せる親しい友人と共に料理をするのは初めてだ。
このままこの野外実習で、彼女たちと絆を深めていければいいな……そう思った。




