14.三日間の野外実習
入学からおよそ一ヶ月。
桜色だった学院の木々はすっかり新緑へ変わり、春も終わりに近づいていた。
最初は右も左もわからなかった学院生活にも慣れ、今では毎朝シルフィンたちと話しながら授業を受けるのが当たり前になっている。
新しい魔法を覚えるのはもちろん、魔法理論、魔力制御、属性魔法の基礎訓練……覚えることは多かったが、不思議と苦ではなかった。
前世では学校へ行くこと自体が苦痛だったが、今は違う。
友達がいて、帰れば母がいて……少しずつではあるが、毎日の学校生活が楽しいと感じられるようになってきている。
そんな、ある日のことだった。
「前々から言っていた通り、今日は実習だ。詳しい内容について説明する」
教壇に立ったフレア先生がそう言った瞬間、生徒たちの視線が集まる。
先生は黒板へ大きく文字を書いた。
『野外生存実習』
教室がざわつく。
「え?」
「野外実習……?何それ?」
と、マシュルが真っ先に身を乗り出した。
「なんか、面白そうだな!」
フレア先生は淡々と説明を続ける。
「来週、組の全員で、学院裏手のアルディア森林での三日間の野外実習を行う」
その瞬間、教室中が一気に騒がしくなった。
「三日間……?しかも、泊まり!?」
「ってことは、もしかして森で生活するの?」
あちこちから驚きの声が上がる。
私も少し驚いた。野外実習というから半日ほど森へ行くのかと思っていたのだが、まさか三日間とは。
「静かにしろ」
フレア先生が軽く机を叩くと、すぐに教室は静かになった。
「これは毎年行われている、一年生向けの実習だ。目的は二つ」
先生は、黒板へ数字と目的を書く。
『一 野外での生活技術の習得』
『二 仲間との連携』
「魔法使いは、常に安全な場所で活動するとは限らない。依頼によっては森や山へ赴くこともあるし、場合によっては数日間帰れないこともある」
それは確かにそうだ。
前世の感覚だと、魔法使いというと研究者や学者のようなイメージもあるが、この世界では魔物退治や護衛依頼なども仕事の一つだ。
「そのため、この実習では野営技術や食料確保、役割分担なども学んでもらう」
「へー、なんか冒険者みたいですね!」
マシュルが感心したように声を漏らす。
「実際、冒険者の基礎訓練に近い部分もある」
フレア先生は頷いた。
「もっとも今回は、危険な場所へ行くわけではない。教師も同行して、安全面の管理は十分にする。だから過度に心配する必要はない」
その言葉に、何人かがほっと息を吐いた。
しかし、先生は至って真剣に続ける。
「だからといって、油断は禁物だ。これは授業であり、れっきとした訓練なのだからな」
教室の空気が少し引き締まる。
「期間中は各班ごとに行動する。食事の準備、テントの設営、周辺の調査……全て班単位で行ってもらう」
「班かぁ……誰と一緒になるんだろうね」
シルフィンが呟く。
「まあ、気になるよな」
マシュルも頷いた。
すると、フレア先生が手元の紙を持ち上げた。
「班分けは既にこちらで決めてある。今からそれを発表する」
教室が一気に静かになる。
事前に決まっていたと言われると、途端に不安になるが……まあ、大丈夫だろう。
「今回は、男女別で編成する」
なるほど。 確かに三日間も野営するなら、その方が色々と都合がいいのかもしれない。
……十歳の子供に何を期待しているんだ、と言えばそれまでだが。
先生は名簿へ目を落とした。
「男子第一班。マシュル・グランディア、ライド・ウェルナー、ガルド・レイン、エリオット・フェルス」
「おっ!ライドと一緒じゃん!」
マシュルが声を上げる。
「まあ、予想通りだね」
ライドは落ち着いた様子だった。
ガルドとエリオットというのは、同じクラスの男子だ。 二人とも何度か話したことはあるが、どちらかというとマシュルと仲が良かった気がする。
「楽しそうだなー!」
「君はどこでも楽しそうだけどね」
「そりゃそうだ!」
二人は相変わらずである。
そして、先生は続ける。
「女子第一班。アリア・ベルナード、シルフィン・アークレイド、ノエル・グレイス」
「あっ!」
真っ先に反応したのはシルフィンだった。
「やった!」
彼女は顔をほころばせ、椅子から立ち上がりそうな勢いで喜んでいる。
「アリアとノエルと同じ班だ!」
「う、うん」
ノエルも少し嬉しそうだ。
「よかった……」
どうやら彼女も安心したらしい。
私自身も、内心ほっとしていた。
一ヶ月も一緒に過ごしてきたから、シルフィンやノエルとはすっかり仲良くなっている。知らない相手ばかりより、ずっと気が楽だ。
「よろしくね、二人とも!」
シルフィンが満面の笑みを向ける。
「うん」
「こちらこそ」
私とノエルも頷いた。
こうして、三日間の野外実習の班分けが決定した。
でも……このアルディア森林での三日間は、ただのキャンプでは終わらなかった。
まさか、あんなことになるなんて。




