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灼炎の転生魔女 〜異世界で始めるいじめ復讐〜  作者: 明鏡止水


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12/15

12.記憶投影の魔法

 追憶の魔法について学んでから、数日が経った。


その日の空は朝からどんよりと曇っていた。 窓の外では雨が静かに降り続いている。

春になったとはいえ、こういう日は少し肌寒い。


「うぅ……寒い」


 シルフィンが肩を縮める。


「炎属性なのに?」


「だからって、寒さに強いわけじゃないもん!」


なぜか少しばかり怒られた。

でも、確かにその通りかもしれない。

私は、元々わりと寒さには強いタイプなのだが。


「でも、冬になったら多少は暖かそう」


「それはあるかも!焚き火とか起こせたらあったかそう!」



 そんな話をしているうちに、授業開始の鐘が鳴った。

ほどなくして、フレア先生が教室へ入ってくる。


「全員、席につけ」


席を離れ、友人と話していた生徒たちが慌てて席へ戻る。

先生は教壇へ立つと、黒板へ文字を書いた。


『記憶投影の魔法』


「今日は、先日学んだ追憶の魔法の応用について説明する」


 私は少しだけ身を乗り出した。

追憶の魔法。あの日以来、どこか気になっている魔法だった。


「軽くおさらいするが、以前追憶の魔法は忘れた記憶を思い出させる魔法だと説明した。覚えているかな?」


先生は生徒たちを見渡す。


「しかし、記憶に干渉する魔法はあれだけではない」


 そう言うと、先生は杖を取り出した。


「今日扱うのは、自分の記憶を他者へ見せる魔法だ」


教室がざわつく。


「えっ、そんなこともできるの?」


「なんか、面白そう!」


あちこちから声が上がり、先生は頷いた。


「記憶投影の魔法。術者が見た光景や体験した出来事を、相手へ共有する魔法だ」


「共有?自分の記憶を、相手にそのまま伝えるってことですか?」


ライドが尋ねる。


「そうだ」


 フレア先生は、教卓の上に置いてあった小さな箱を指差した。

そして、少し考える。


「例えば、私が昨日見た景色を説明するとしよう。『学院の中庭で、白い鳥を見た』。これを誰かに伝えたい、となった時、言葉だけでは限界がある。わかるな?」


「確かに」


 私は頷いた。正直、『白い鳥』とだけ言われても、大きさも形もわからない。


「そこで、この魔法を使う。詠唱はこうだ……メモリア・プローズ」


フレア先生が杖を構える。

杖の先に淡い光が灯った次の瞬間、教壇の上の空間に映像が現れた。


「うわっ!」


 思わず声が漏れる。

まるで、窓が開いたかのようだった。


そこには、学院の中庭が映っている。

噴水。花壇。雨上がりの石畳。

そして、噴水の縁に止まっている白い鳥。

みながすぐにわかった……これが、先生の目で見た景色「そのもの」なのだと。


「すごい……まるで本物だ」


シルフィンが呟く。


「映像記録みたいだな」


ライドも興味深そうに見ている。


 数秒後、映像は消えた。


「これが、記憶投影の魔法だ」


先生は杖を下ろした。


「追憶の魔法は、他人が過去に持っていた記憶を呼び起こす。こちらは、自分が今持っている記憶を他人にも見せる……そう表現できるな」


「じゃあ、自分が見たものを証拠として見せたりもできるんですか?」


 私が尋ねると、先生は「可能だ」と言って頷いた。


「この魔法があれば、自分自身が映像の記録媒体になることができる。事件の調査や、事故の確認にもよく使われる魔法だ」


まあ、それはそうなるだろう。

実生活でも便利そうな魔法だ。


「ただし」と、先生の声が少し低くなる。


「うまく制御できなければ、見せたくない記憶まで他人に見られる危険もある」


 すると、教室が静かになった。


「術者がどの記憶を見せるかは選択できる。だが、術者が未熟であったり、精神が不安定な場合は意図しない記憶が混ざることもある」


「うわ……怖いなそれ。好きな子のこと考えてたら、全部見られるとかあるんですか?」


マシュルが素直に言うと、先生は真顔で答えた。


「それは術者次第だな」


教室に笑いが起きた。


「そっか……じゃ、気をつけます!」


「まず、相手を作ってからそういうことを考えるんだね」


ライドが即座に突っ込む。


「うるさいな!」


 再び笑い声が広がった。

私も少し笑ったが、その一方で別のことを考えていた。


(記憶を見せる魔法……)


もし私がこの魔法を使ったら、誰かに見せることになるのだろうか。

前世のことを。いじめられた記憶を。最後の日のことを。


そんな考えが頭をよぎる。


 いや、見せたくない。絶対に。

あれは私だけの記憶だ。誰にも知られたくない。

そう思った時だった。


「アリア」


突然名前を呼ばれ、私は顔を上げた。


「え?」


「何か、考えていたのか?」


フレア先生がこちらを見ている。

どうやら、ぼんやりしていたらしい。


「す、すみません」


「集中しろ……まあいい」


 先生は黒板へ向き直る。


「次の時間は、実際に簡単な記憶投影を体験してもらう」


その言葉に教室がざわめいた。


「えっ、本当に?」


「面白そう!」


「何見せようかな」


生徒たちが盛り上がる。

だが私は、どこか複雑な気持ちで窓の外を見た。


 雨はまだ降り続いている。

灰色の空を見上げながら、私は小さく息を吐いた。


――見せられる記憶と、見せたくない記憶。

その境界線について、密かに考え始めていた。

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