104.仲間を信じて
氷の通路が終わるとすぐに小さな部屋があり、そこに銀の盾があった。
律儀に人数分置かれていたので、私たちはそれを一人一個手に取って腕につけた。
円形の直径三十センチほどの盾で、持ってみると意外なほど軽い。これなら、帰りも動きを阻害されることは少なそうだ。
シールダーやタンクが持つ盾にも小さなものがあるが、実際につける時はこんな感じなのかもしれない。
「なんか、シールダーになった気分!」
シルフィンは盾を左腕につけ、それっぽいセリフを言いながら目の前で盾を構え、攻撃を防ぐジェスチャーをしていた。
まあ、気持ちはわかる。
しかし、まだこれで終わりではない。
この後は来た道を戻り、無事にダンジョンの出口までたどり着かなければならないのだ。
そして、それはそれで簡単にはいかないような気がする。
その予感は見事的中した。
まず、この部屋に入る直前に通ってきた氷の通路はきれいに消えており、噴水の頂上のような水柱が一定間隔で噴き上がっていた。
「え、何これ?」
シルフィンも私と同様に困惑していたが、リーネからすると簡単なことだったようで、迷わず「シャルベニア」と唱えて水柱を凍らせ、上を歩けるようにしてくれた。
そういえば、そんな魔法があった。
目の前のものを凍らせる、凍結魔法。
私はほとんど使う機会がなかったので忘れていたが、リーネからすると自分の天賦の基本魔法であり、忘れるはずもないなの魔法だろう。
何気にさっきシルフィンが使っていた「ファイマジンド」の効果がまだ続いており、氷上でも滑らずに移動できる。
相変わらず足場が狭く、周囲は深い闇の谷間なので、ありがたい。
氷柱渡りの後は、しばらくこれといったことは起きなかった。
しかし、もう少しで出口というところで邪魔が入った。
出口に繋がる通路の前に、いかにもヤバそうな見た目の植物が立ちはだかっていたのだ。
緑のとがった葉っぱが地面を這うように生え、その上にオレンジ色の花が咲いており、中央にあるものは明らかに口と牙。
とどめに、全体がウネウネと動いている。
「あれって……魔物だよね?」
「そうだね。『大花毒ダリア』っていう、植物の魔物だ」
シルフィンによると、その名の通りダリアに似た姿をした植物の魔物で、獲物が近づくと毒のあるつるで捕まえ、捕食するという。
「植物なら、炎が効くんじゃない?」
「それがね……そこがこの魔物の厄介なところなんだけど、炎魔法が効きづらいの」
「じゃあ氷?あたしの出番ね!」
「それも違う。あいつは氷にも耐性がある。まともに効くのは、光か闇の魔法。あとは……」
シルフィンは少し考え、「一応、切断の魔法が効く」とゆっくり言った。
「茎を切って、花と根元を切り離せば即死させられる。ただ、近づくのが難しい。誰かがおとりになれば違うけど……」
私たちは魔物を見た。
まだ距離があるからだろうか、こちらには気づいていないようで、そこから動かずに葉っぱと花びらをウネウネさせている。
「なんか気持ち悪い……近づいたらバクッとやられそう」
「実際そうなんだろうね。つるで捕まえて食べる……って言ってたし」
「やめてよ!そんなこと言われると、やる気なくなるから……」
もしかして?と思ったら、リーネはなんと、こいつのおとりになると言い出した。
毒を持っていたとしても、リーネはヒーラーなので解毒も回復もできるから、大丈夫だと……。
「あたしがあいつに捕まるから、その間にあんた達があいつの茎を切って。アリア、確か切断魔法使えたでしょ?」
「一応ね。でも、それでうまくいくかな?」
「シルフィンのサポートも合わせればいい。シルフィン、アリアのサポートくらいできるでしょ?」
「うん。次の一回分だけ魔法の威力を高める魔法があるから、それをアリアに使うよ」
なんと、そんな魔法があったのか。
それなら、心強い。
「でも、本当にいいの?リーネがおとりになるなんて」
「もちろん。それとも、あたしを信じてないの?」
「いや、そんなことないけど」
「だったらやらせて。それにあたし、切断魔法苦手なの。ここだけの話だけどね」
意外なことを暴露しつつ、リーネは私達に力強く微笑み、頷いて、魔物に向かっていった。




