103.リーネの閃き
振り子地帯を抜けた先は、奥に魔物の徘徊するジグザグの通路だった。
こちらも道の両脇は深い谷間となっており、落ちれば終わりだ。
魔物がいるのも問題だが、それ以上の問題をリーネが見つけた。
「この通路、氷でできてる」
「え?凍ってる、じゃなくて?」
「ええ。それもわりと薄めの氷でね」
なんと、通路が氷でできているという。
妙に火球の明かりを反射しているのは、そういうことだったのか。
試しに足を乗せてみると、当然のごとく滑った。
転びはしなかったが、通路の幅は一メートルほどなので、むしろ転んではいけないだろう。
「シルフィン、こういうところで役立つ魔法ってないの?」
「あるよ!滑らなくするやつが!……ファイマジンド!」
シルフィンが魔法を唱え、紫の火花があたりに飛び散る。
それだけでは何の変化も感じなかったが、彼女曰くこれで氷の上でも滑らないようになったらしい。
「これで足元事情はいいけど……問題はあの魔物ね」
奥に見えるのは、高さ一メートルほどのタコのような姿をしたゼリー状の魔物。色は水色をしている。
「あれ、スライムってやつだよね?」
「そう見えるわね。ダンジョンに出てくる魔物としては最下級だって聞くけど……」
リーネの言いたいことは何となくわかる。
スライムは体色によって属性耐性が異なり、水色は氷に耐性があることを示している。
当然のごとく弱点は炎ということになるのだが、炎魔法なんか使ったら通路の氷が溶けてしまう。
スライムはここから見える限り二匹、互いに距離を置いた場所にいる。
弱い魔物ではあるが、人間や魔法使いに対しては攻撃的なため、黙って隣を通らせてくれるなんてことはないだろう。
「リーネは氷だし、私もアリアも炎だし……これ、どうにもならなくない?」
シルフィンの気持ちはわかるが、私はこう言った。
「いや、そんなことないと思う。これはテストだからね。きっと何か打開策があるはず」
「そう言われてもなあ……魔物にバフをかける魔法は、スピールくらいしかないし……」
「スピールって?」
「動きを遅くさせる魔法だよ。基本的なものだから、単体にしか効果がない」
「単体かあ……向こうは二匹だもんね。リーネの攻撃はあまり効かないだろうし、かといって私たちがやれば、通路の氷が……」
頭を捻って考え続けた挙句、リーネが突然「……そうだ!」と声を上げた。
「何か思いついたの?」
「うん!すっかり忘れてたよ……あたし、氷で道を作れるんだ!」
「え、そうなの?じゃあそれを使って……」
「そうなんだけど、ちょっと違う。このままそれを使っても、あいつらに邪魔される。だからね……」
リーネの計画を聞いて、私たちも「なるほど!」と思った。
その計画はすぐに実行に移した。
まずはシルフィンが、手前にいる方のスライムに「スピール」をかけて動きを遅くする。
それでスライムたちがこちらに気づき、向かってこようとする。
そこで、私が「ソロファイア」を唱える。
ただし、狙いはスライムたちではない。その足元にある氷の通路だ。
火球が命中すると、その部分と周辺の氷だけが瞬時に溶けた。
それにより、スライムたちは二匹仲良く谷底へと落ちていった。
その後すぐにリーネが「ヒャダラート!」と唱え、氷の道を新しく作る。
結果として、たった今溶けた氷の通路が修復された。
「……うまくいったわね!」
「うん!リーネのおかげよ!」
私の炎魔法、シルフィンのサポート、リーネの氷魔法……私たち全員の力を合わせた、完璧に近い作戦だった。
実際のダンジョンでもこんな立ち回りができればいいな……と思うと同時に、この作戦を思いついたリーネに、私は敬意を示した。




