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DECIDE YOUR DESTINY2  作者: 北村タマオ
第3章 拡大する混沌
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0024 百足のカオス

 行列。街中の至る所で、行列を見るようになっていた。イラストリラ合衆国の全国にて、行列が並ぶようになっていた。主に貧困層向けの食糧配給の行列である。貧困層は労働こそしているが、日々の生活費を賄える額に到達していない。安アパートを探し出して、そこでその日暮らしを強いられている人々は、着実に増え続けていた。

 何なら、夫婦共働きでも貯蓄が出来ずに、どちらかが働けなくなって離婚する、なんて事例が其処彼処にて現れていた。将来に明るい展望を持てずに、麻薬に手を出す人々も増え続けていた。イラストリラ合衆国は、確実に荒廃を深めていた。その中で、政権に対する不安と不満は、徐々に無力感と諦観に置き換えられていた。

 亡国の危機? いや、国がどうこうという問題ではなく、自分達の生活が成り立っていないでは無いか。行列は伸びて、増えて、如何にもならない程になっていた。愛国心がどうこう以前に、日々の暮らしが保障されないのでは、本末転倒である。街を歩いていても、行列は勿論、片手、片足、あるいはグラサンをかけている傷痍軍人も見られ始めた。

 「10年戦争」になると言う予測は、既にメディアを通じて知られていた。第3次「ジーアス」戦争が始まった、とする世論も現れ始めていた。イラストリラ合衆国は、これまで10年もの戦争を戦い抜いた事は一度も無い。しかも、今回は圧倒的多数の国々相手に、ほぼ孤独な戦いを強いられていた。

 ゲーテル・デバイ、あの男を大統領にしたのが間違いであったのかも知れない。いや、その前からこうなる予兆は現れていた。だからこそ、あの男を大統領にしたのではないのか。結局、最悪な形でその期待は裏切られた。

 その間、2つの政治団体が、急速にその力を強めていた。「RSIU」と「MIUA」。前者は強硬派、後者は穏健派である。無理矢理カテゴライズするとなると、そう言う形になる。「王も皇帝も要らない」として、現大統領を糾弾する前者。「もう一度団結しよう」として、国民の結束を求める後者。しかし、どちらも現政権への圧力を加えていると言う意味では、同じである。


「既に支持率は20%程度まで落ち込んでいます。不支持率も70%まで上がりました。今度のメルートリア大陸侵攻作戦結果次第では、支持率は20%を割り込んで、10%代まで下がるでしょう」

 ゲーテル大統領は、心此処に非ずと言う表情で、大統領補佐官からの話を聞いている。国防大臣は、そのゲーテル大統領に追い打ちをかける形で告げる。

「既に国防費は本年度分では足が出ている状態です。大型護衛空母は良いアイデアであったかもしれませんが、積み込んでいる戦闘機やパイロットを用立てるのに、むしろ普通の原子力空母よりも金がかかっています。「アウシウ」相手に世界中で戦争をし始めたら、国が破産します」

「だから、戦争に勝てば良い。そうすれば、全部解決するだろう」

「いいえ、解決しません。戦後処理を考えたら、黒字になりません。赤字です」

「そこは、我々の力を示して」

「そんな金は何処にもありません。失業率も増え続けて、物価高も進んでいる今、軍事費を増税で賄おうとしたら、97%の貧困層ではなくて、3%の富裕層から取らなければならなくなります。そうなったら、彼らはより税金の安い国に移住して、残るのは出涸らし状態の貧民だけになります」

「つまり?」

「つまり、終わりです」

「メルートリア大陸侵攻作戦の結果次第だと言ったな。あれさえ上手くいけば、どうにかなるのだな」

「いえ、どうにもなりません。今すぐ撤兵して、交渉のテーブルに着くべきです。戦争の必要経費が大きすぎるんです。その割に、コスト・パフォーマンスが悪いです」

「いや、だからメルートリア大陸侵攻作戦が成功すれば」

「閣下、街に1度出かけたことがありますか。行列、行列、何処へ行っても行列に並ぶ者ばかりです。食糧配給や物資配給に頼らざるを得ない状態の国民が大勢居る一方で、メルートリア大陸に大型護衛空母4隻を中心とする2個艦隊を派遣して、1発で高級車が買える値段の爆弾を落とすのには、国民が納得する理由が必要です。それが無いのであれば、今後の国際社会への復帰は勿論、経済復興も甚だ困難に、いえ、ほぼ不可能になります」

「勿論、理由はある。我が国の国益と国際社会での優位を保つ為の戦いだ。これ以上の理由があるか」

「それは、戦争をしなくても出来ます」

「いや、戦争しか無かったんだ。すぐに終わらせられなかった国防省のしくじりだ。私の責任では無い」

「無論、責任は取ります。ですが、これだけは言えます。次の大統領は、野党の候補者になります。そうでなくても、戦争はもうこれ以上は不可能です」

「そうか、では出て行け。使えない癖にここに来るな。私が求めているのは、仕事の出来る部下だ」

「分かりました。次は、尻尾の生えたイエスマンでも任命して下さい。では、御機嫌よう」

 この国も、もうお仕舞いだ。あと1年程度で任期が終わるとしても、このまま侵攻作戦を強行すれば、1年で終わるとは到底思えない。矢張り、あの国防省のレポート通り、10年は終わらないのではないか。全世界がGDP10%を失うという試算は、まだまだ甘いのかも知れない。

 イラストリラ合衆国による世界秩序は、どの道困難だ。これからの未来は、どんな混沌が待ち受けているのか。次の覇権をめぐる争いは、既に始まっている。「アウシウ」の登場もまた、イラストリラ合衆国の世界秩序が終わった事実を証明していた。

 もう此処には、ゲーテル・デバイ大統領の尻尾の生えたイエスマンしか居ない。しかし、彼らは、彼女らは、自分の地元の行列が如何に悲惨な状況を現しているのかを理解していた。それでも尻尾を生やしているのは、単純に自分達の政治生命を考えた上での保身術に過ぎない。

 ここまで炊き出しに行列が並ぶなんて、世界大恐慌の頃以来ではないか。このままのペースで軍事作戦を続けていたら、それこそ煙の様に消えてしまうのでは無いのか。

 もう頭の良い連中は皆逃げてしまった。自分も逃げたければ逃げたいところであったが、面子が代わっただけで状況が変化するとは思えない。1年、あと1年の辛抱だ。そうすれば、あの2つの政治団体も大人しくなるに違いない。

 この戦争が原因で、イラストリラ合衆国が、政治的に分断される可能性は充分にある。その混沌は、これまでのイラストリラ合衆国の歴史の中でも、最も深刻で、そして根深い争いになるに違いなかった。


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