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DECIDE YOUR DESTINY2  作者: 北村タマオ
第2章 1年目の混沌
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0019 新しいカオス

 おかしい。何かがおかしい。

 こんなに税金払っているのに、こんなに働いているのに、こんなに真面目に頑張っているのに、暮らしが全然良くならない。親の世代がそろそろ結婚か、出産か、あるいは家を買うであろう年頃で、ホームレスになりかけのアパート暮らしである。

 政府は何をしているのかというと、「自国第一主義」を掲げて、国際社会の枠組みから離脱して、自分の国の利益を最優先する。そう言う公約にて選挙に当選した筈だが、大して悪い事をしているとも言えない、僻地の他国に高級車が買える値段の爆弾を大量に落としまくり、0から高層ビルを丸ごと造れる程の値段の原子力空母を3隻も失い、大勢の軍人を死なせて、その何倍もの外国人を殺して、こっちが頑張って稼いで、納めている税金を溶かしている。

 元々、公約に「戦争」なんて一言もなかったのに、どうしてここに困っている国民がいるのに、国は何もしてくれないのか。それでも尚、「自己責任」と言うつもりなのか。どうにかするべきか。だからこそ、彼は決意していたい。

 もう政治は当てに出来ない。例え次の選挙にて野党の大統領が勝っても、この拗れた世界情勢を如何にか出来るとは思えない。出来たとしても、ここまで溶けた金も、命も、戻ってこない。民主主義なんて、駄目だ。もうこの国を変えるのには、2大政党による政権運営では如何にもならない。では、第3の政党でも結党するか? いやいや、そんな事をしても駄目だ。政治家になっても、何時かは歯車の1つになってしまう。

 彼が、マックス・マクシミリアルが考えたのは、政権に政治的圧力を与える、強大な政治団体の結成であった。その名も、「リターン・ストロング・イラストリラ・アゲイン」、「RSIA」である。その萌芽は、この合衆国の南部の州の比較的大きな街にある小さなアパートから芽生えていた。それは、正に「運命」の瞬間であった。


 何かがおかしい。

 何の為に、人手不足・設備不足・金不足の中で、鉄を造っているのか。この大型護衛空母と言われる、民間から払い下げた大型タンカーやコンテナ船を魔改造して空母の機能を取り付けた、即席空母だ。別にそれが情けないとか、嫌だとは思わない。自分の仕事に誇りを持っているし、自分は良い仕事をしていると思っている。

 勿論、現大統領へのリスペクトも忘れた事は無い。あの態度と言動には苛々するときがあるが、それでも民主主義により選ばれた大統領である。法治国家であれば、そこに疑義を挟む訳には行かない。

 だが、こんなに一生懸命に造った鉄で、戦場にて人間を殺して、物を壊して、哀しみを生み出す。こんな事をしていて、一体何が得られると言うのか。失うだけ失って、何を得られると言うのか。頑張って造った鉄、自分が心血を注いだ鉄、汗と涙を流して造る鉄、この鉄で人が死ぬ。そして、何時かはこの鉄も壊れる。そうしたら、また次の鉄を造る。

 彼は、次第にやる気を失っていった。こんな事して、何になる。転職しようか。同じ製鉄でも、軍需産業ではなく車の鉄でも造れば良い。でも、家には目に入れられても痛くは無い息子が2人。妻は医療保険が適用されずにそのまま病死して、この世に居ない。自分には勿体ない女性だった。その可愛い息子の為に、誰かの大切な家族を殺す鉄を作り続ける。

 月に一度、映画館に行って映画を見るのが、家族の楽しみである。今はギリギリ生活が成り立っているが、学校に入学したら、より金がかかる。もしかすれば、映画館は勿論、ファーストフードだって食べられなくなる。こんな事をして、あぶく銭を稼いで、貧しいながらもギリギリの生活をして、それで。それで? 幸せなのか? 他人の命や幸せを奪いながら、税金を納めて生き続けるのが、そんなに幸せなのか。

 アレックス・ファンケルは、手を止めた。ここで、こんな事をしている暇はない。この国を、イラストリラ合衆国を変えるのには、ここで鉄を造り続けるだけでは駄目だ。政治団体を結成して、政府に圧力をかける。同じ志の人間に協力を呼びかけて、多くの仲間を造り、スポンサーから金を募り、この国を変える。

 ここで鉄なんて造っている場合じゃない。大統領に、政府に呼びかけるのには、ここで鉄を造っても駄目だ。あの可愛い2人の息子の為に、より良い未来を残す為に、行動しなければならないのだ。

 アレックス・ファンケルは、仕事場を去って行った。ここで鉄を造る暇なんてない。急いで、思ったが吉日と言わんばかりに、彼は動いた。かくして、「メイク・イラストリラ・ユナイト・アゲイン」、「MIUA」の母体となる組織が、誕生するのである。保守とリベラルの分断が、社会問題として取り上げられて久しいイラストリラ合衆国にて、唯一共通する問題、「経済格差」、「貧困」と言う同じ土壌から、全く異なる思想の政治団体を生み出していた。


 ゲーテル・デバイ大統領は、日々苛々を募らせていた。神華大陸にて城胚では、魔戦機ロボと魔人、それを援護する魔女と航空機が、同地にて踏ん張っていたが、華党はなかなかこの地を諦めていない。「アウシウ」の同盟軍は、同地にて執拗に抵抗しており、戦闘はなかなか終わりそうに無い。

 支持率も下がり続けている。ここで1発、何か大きな軍事的勝利をあげなければ、2年後の選挙にて、否、来月には議会に提案するつもりの「戦時特例措置」として、3期目、4期目の任命権を認める法案が通らない。

 国防費をかけすぎて、苛税に苦しむ民衆からの支持は得られなくなったら、もうお仕舞いだ。「史上最低の大統領」という烙印を押されて、全部終わりだ。自分のキャリアも、道楽暮らしも、プライドも、全部丸潰れだ。

 神華大陸の城胚攻防戦で結果が出せなければ、現在大東洋艦隊が準備中の第2次円津海峡海戦で結果を出すしか無い。それが駄目ならば、軍の上層部は総入れ替えだ。何なら、閣僚も幾らかクビにしなければなるまい。


 3隻の大型護衛空母が、合衆国海軍の第4艦隊と第7艦隊の残存艦と合流したのは、それから3週間後であった。北沙羅樹国は、再びイラストリラ合衆国軍と戦う必要に迫られていた。この戦いでの結果次第では、ゲーテル・デバイ大統領の政治生命が終わる。

 既にイラストリラ合衆国の国内、南北には、今後この国を燃やす火花が飛び散り始めている。この2つの火花は、やがて大きな炎となって燃え上がる事になる。「RSIA」と「MIUA」、土壌は同じであるが開いた華は違う2つの政治団体は、第3次「ジーアス」戦争の第2幕を開こうとしているのである。

 この東イズク大陸の分断国にて始まった混沌は、急速に世界中に広がろうとしていた。


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