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DECIDE YOUR DESTINY2  作者: 北村タマオ
第2章 1年目の混沌
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0015 カオスの王

 ブラックバードB4。その名の通り、戦術爆撃機としては、世界最強の真っ黒い機体を飛ばしながら、北沙羅樹国へと向かっていた。護衛の戦闘機はない。むしろ大編隊を組んで総攻撃、と言うのはもはや時代遅れであると言う事実を突きつけられた。

 在留合衆国軍のブラックバードB4の向かう先は、軍需工場ではない。主だった軍需工場は地下化されており、見つけ出すのは骨が折れる作業であったが、この黒い爆撃機の標的は軍需工場よりも、重要な設備である。

 そこは、世界中に売りさばく「メイド・イン・NS」の自動車が生産されている、民需用工場であった。防空体制の穴は、事前に調べてある。機体の格納庫が開くと、そこに詰められていた爆弾が、何も知らないままに本日のシフトを働きだそうとしていた労働者諸共、工場を粉々に吹き飛ばしていた。


 このゲリラ的空爆は、1度や2度ではない。この日1日だけで、6箇所ほどの民需用工場がブラックバードB4による空爆で破壊されていた。このペースで破壊されていったら、この国の経済は破綻してしまう。しかし、北沙羅樹国単独では、本土上空の防空体制を敷く事は出来ない。

 第1次円津海峡海戦にて、北沙羅樹国の軍事拠点は半ばが破壊されていたら、壊された拠点は治せば良い。肝心の戦力は攻撃に出て、しかもその攻撃は成功したのである。

 だからこそ、基地周辺の防空体制は万全と見て、ならば手薄になりがちな民需用工場を狙う方向性に転換したのである。いや、ある意味これが一番やられて嫌な戦術である。


 北沙羅樹国空軍は、駆けつけた先にて半壊か、あるいは全壊した工場設備と、そこに転がっている民間人の骸を見て、臍を噛んでいた。今になって、民需用工場の防空体制を議論していなかったのが悔やまれる。そうならない内に、円津海峡での制空権の奪い合いにて終始すると言う想定であった。

 しかし、今から防空システムを考えていては時間切れになる。だからと言って、全工場に操業停止を命じれば、経済が崩壊してしまう。

 こう言う時、頼りたくても頼りたくない相手というのが、確かに存在している。しかし、どんなに嫌な連中でも、後からどんな見返りを求められるかどうかは分からないが、やるしかない。


 在留合衆国司令部は、このゲリラ的戦略爆撃の成果を見て、概ね満足していた。矢張り、かつての大名行列みたいな攻撃方法は駄目だ。多少セコいやり方だとしても、効果的な攻撃法法であれば、今後もあの手この手で攻撃を行うべきだ。真っ正面からの対決はなるべく避けて、敵の中枢を空爆するべきだ。

 無論、これは航空攻撃だけではなく、駐留合衆国軍の第4、第7艦隊の生き残りによる巡航ミサイル攻撃も加えていた。急がなければならない。「アウシウ」、「反イラストリラ合衆国連合」にとって、北沙羅樹国はその象徴である。

 だからこそ、これはあまり打ちたくない手であり、やったら後で何を言われるか分からない手である。それでも、やるしかない。


 ブラックバードB4は、これで2度目の爆撃に飛び立っていた。次の狙いは水産工場である。工業地帯の次は、国民に一番影響が出る設備を狙うというのだ。駐留合衆国軍司令部も、何かとえげつない作戦を考える物である。

 しかし、この日は様子が違う。工場上空に、幾つか陰が見える。あれが一体何なのか、3瞬くらい考えた末に、機長は急ぎ命令を飛ばす。

「荷物を捨てろ、全速退避、急げ!」

 次の瞬間には、工場を警備していた北沙羅樹国魔女軍の魔槍から放たれた火球でもって、ブラックバードB4は炎上し、燃料タンクにたっぷり積み込んでいた航空用燃料に引火して、華々しく爆発四散していた。

 同じ光景は、北沙羅樹国の各地にて繰り広げられていた。その時、軍設備は誰が守っていたのかというと、ラシア共和国や華党軍の戦闘機や魔女であった。こうして撃墜されたブラックバードB4は8機。1機あたりの価値を考えると、大損害である。

 航空自衛隊にも助力を求めたいところであるが、こいつらの装備は地上攻撃には全く向いていない。やらせてみるのも良いかもしれが、今の南沙羅樹国の国防体制は薄氷の上に乗った状態で保たれている。

 海上自衛隊は、ようやくその歴史上初めての原子力空母が引き渡されたが、西方の領海の防御と牽制の為に必要なので、どの道主戦場であるこの円津海峡の戦いには間に合わない。

そして、同じくらいのタイミングで、イラストリラ合衆国の切り札、「ナウレカ・エイト」級大型護衛空母の1番艦が竣工していた。何処でどうやって使うつもりなのか、現場の兵隊は兎も角、後に居る上層部はそれを知っていて、戦慄を覚えた。空母そのものは大した事は無いが、搭載機数は90機を維持している大型護衛空母は、沈んでも次の母艦を造るまでは時間は短くてすむ。


希林・ブロッサムは、駐留合衆国軍の苦悩を理解しつつ、その見通しの甘さを思わずにはいられなかった。魔女自衛隊には勿論、航空自衛隊にも出動要請は出ていない。挙国一致内閣が組閣されたと聞いては居たが、分かり易く兵力温存に出ているらしい。それは別に間違いでは無い、どんなに高価で高性能な兵器と雖も、容赦なく消耗するという事実は、航空自衛隊の腰を重くさせていた。

 ラシア共和国や華党軍の戦闘機に軍需工場の防衛を任せたのは、確かに屈辱的ではあった、それでも成功はした。また、こちらの戦闘機の温存策として、魔女軍による迎撃もうまくいった。

 しかし、今世界の3分の2では、北沙羅樹国への援軍が急ピッチで組織されて、こちらに向かう準備を急がれている。それまでは、北沙羅樹国は負ける訳にはいかない。矢張り、短期決戦しかないのか。希林・ブロッサムは慨嘆しながら、土地の無断借用に抗議の声をあげる地元住民の声を聞き流しながら、今後はどうなるのか、お手並み拝見と行こうか。


「大丈夫、全て上手く行く。この戦争はすぐに終わる」

 ゲーテル・デバイ大統領は、鼻息の荒い言葉をメディアに向けて吐いていた。新型空母「ナウレカ・エイト」が、今後続々と海軍に引き渡されるのを考えれば、例え世界の3分の2を敵に回したとしても、力で捻じ伏せる事が出来る。

 空母が完成して、それに乗り込む戦闘機隊が編成できるまで、戦闘機の調達、パイロットの育成、発着艦の訓練、それらの時間を1年程度かかるとして、その1年が経てばイラストリラ合衆国は世界の盟主として再び返り咲ける。

 それさえ出来れば、ここまでの失敗も、ミスも、全部帳消しになる。「史上最低の大統領」の蔑称を返上する絶好のチャンスだ。大型護衛空母は、今の所20隻発注している。半分でも完成すれば、この惑星「ジーアス」の世界は全部イラストリラ合衆国の手のものになる。

 「王」。正に、世界の「王」になれるのだ。そうなれば、後はもうやりたい放題、誰からも文句を言われる筋合いは無い。

 良い響きだ。「王」になれる。もう大統領としての任期は2年しかないが、その後も「合衆国の王」として、色々と金に困らない生活になるに違いない。TVCM、娯楽番組、幾らでも呼び声がかかる。負ければ、ここまで築いた富も名声も地に落ちる。

「もうそろそろ戦争は終わる。「アウシウ」も合衆国の手の打ちに落ちる。我が国は未だに世界唯一の軍事大国なのだ。それは今も変わらない」

 メディアは、この自信満々の態度を見て、安心するよりも心配していた。「ナウレカ・エイト」級大型護衛空母については、機密でも何でもないので、メディアも知っているところであるが、1隻につき90機から100機の航空機を積み込めるが、つまりそれだけの戦闘機とパイロットを準備しなければならないのだ。

 そうなった時、一体この国の財政は持ち堪えられるのか。「ナウレカ・エイト」級大型護衛空母は、その存在自体が合衆国の財政を破綻させる原因にもなりかねない。そこを、このゲーテル・デバイ大統領は理解しているのだろうか。


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