第4話 『盗賊団ブラックシャドウ』首領イレルド
「で、その案てのは何なんだ? 団長さんよ。一国の騎士団ってのは、圧倒的に強いぞ」
腕を組み、そう言うのはたくさんの部下を引き連れていて統率力のあるイレルドさん。
彼の部下の方々は皆さん、お揃いの黒い頭巾をかぶっているので遠くからでもすぐに分かります。
冒険者なのに隊長さんのような役職があるだなんて、やはり一流の方たちは組織作りからして違いますねぇ。
それにイレルドさんの仰る通り、国の威信を背負う騎士団は圧倒的に強くて、その華やかさも段違いです。
彼らを超える人気を集めるためには、並大抵の活躍では足りません。
だからこそ、私にはとっておきの作戦があるのです。
私は皆さんの顔をぐるりと見渡し、自信を持って提案しました。
「皆さんは、王都の北にダンジョンがあるのはご存知ですか?」
「ああ。ダンジョンの存在は把握している。それと騎士団に何の関係があるんだ?」
「ダンジョンというのは、放っておくと魔獣が溢れ出す『魔獣暴走』が起きてしまいます。ダンジョンは普段、沢山の冒険者たちで賑わい、間引きが行われているのですが……現在の所、冒険者ギルドは『活動停止』になっていますよね?」
そうなんです。
先日、ドロフさんが差し入れてくれた上質なお酒があまりにも美味しかったようで、冒険者ギルドの皆さんはどうやら動けなくなってしまったらしいのです。
酔いつぶれてしまったのでしょうか? いやはや、『活動停止』になるまで呑み明かすなんて、よっぽど嬉しかったんですね。
さすがに飲み過ぎは身体に毒ではないかと、少し心配になってしまいますが……
「なるほど……! おっさん。いや、団長さんよ。お前、なかなかヤルじゃねえか。最初からこれを考えてたのか?」
イレルドさんがハッとしたように目を見開き、ニヤリと笑いました。
どうやら私の作戦の意図に気づいてくれたようです!
「いえいえ、たまたまですよ」
私が謙遜してにこやかに笑うと、イレルドさんも「くくく!」と楽しそうに笑い声を上げました。
言葉にしなくても通じ合えるなんて、これが仲間の絆というやつでしょうか。
そうです。冒険者がいない今、『魔獣暴走』が起きたら街は大変なことになってしまいます。
だからこそ、代わりに私たちがそれを食い止めるのです!
そうすれば、騎士団よりも目立てますし、街の人たちからの羨望の眼差しも待ったなしというわけです!
……といっても戦闘力のない私はたぶんまたお屋敷で留守番でしょうから、ダンジョンは若くて強そうな皆様にお任せすることになるのですが。
あと念のため『魔獣暴走』が起きた際の影響についても、皆さんに詳しく説明しておきましょうか。
初めて経験する方が居ては大変ですからね。私は年長者として、優しく教えるように言葉を続けました。
「もし『魔獣暴走』が起きたら、騎士団は街の治安維持を後回しにしてでも、モンスターを食い止めるために王都の外へ出陣することになるでしょう。そうなると、王都の守りはもぬけの空になってしまいますねぇ」
「そうだな! その時こそ、俺たちのチャンスだ! ふははは!」
イレルドさんがバン!とテーブルを叩き、大声で笑いました。
そうですそうです! まさに私たちのチャンスなのです!
『魔獣暴走』を食い止めた暁には、私たちは国を救った英雄になれるかもしれませんからね!
想像するだけで、ワクワクしてきちゃいます!
ここでさらに皆さんのやる気を高めるために、もうひと押ししておきましょうか!
「『魔獣暴走』の影響はそれだけじゃ終わりません。この王国の主要街道はダンジョンの近くを通っているのです。もし『魔獣暴走』が起きたら、食糧や生活に必要な道具、それに武器などを運ぶ流通経路が全て止まってしまいます。そうなると、王都の経済は大打撃を受けてしまいますね。商人や貴族も、大変困る事になるでしょう」
「おお……! 騎士団の他に、商人や貴族も抑えられるなら尚更決まりだな! 騎士団をダンジョンに寄りつけなくさせれば、俺たちの計画は大きく進むわけだ! こいつぁ面白くなってきたぜ!」
ふふふ、イレルドさんもすっかり興奮しているようです。目をギラギラさせて、身体を前のめりにしています。
騎士団がダンジョンに寄りつかないでもいいほど、ダンジョンでモンスターを倒す気が満々のようです。
ああ、若いって本当にいいですねぇ。この血気盛んなエネルギーこそ、若さの特権というものです。私もすっかり嬉しくなって、目を細めて見守ってしまいました。
ドン!と、イレルドさんが再び力強くテーブルを叩いて立ち上がりました。
「よし! ならダンジョンは俺たちに任せてくれや! ダンジョンの周りは森だ、潜むのに慣れている俺たちに地の利があるしな。森の中なら騎士団になんか負けはしねえ! あいつらには恨みもあるしな!」
ふむふむ。騎士団に恨みがあるということは、イレルドさんたちは元々、騎士団とライバル関係にあったのでしょうか?
良きライバルと競い合うだなんて、まさに青春の1ページではないですか! ならば、この絶好の機会はイレルドさんたちにお任せするとしましょう。若者同士の切磋琢磨、陰ながら応援したくなります。
アスタロトさんが、深く頷いてイレルドさんに言いました。
「ふむ。ならば、イレルドが行ってくれ。何かあったら応援を出すからな」
「おうよ。んじゃ、俺たちはさっそくダンジョンへ向かうとする。ダンジョンの周りで野営をするから、定期的に報告をいれよう。ではな」
イレルドさんはバサリとマントを翻し、素早い身のこなしでささっと部屋から出て行きました。
決断してからの行動がとにかく早いです。さすがは部下をまとめる隊長さんですね。彼の頼もしい後ろ姿を見送りながら、私はうんうんと深く感心してしまいました。
あ、でも待ってください。
皆さんの活躍をさらに後押しできるような素晴らしいアイデアを、私、もうひとつ思いついてしまいましたよ!




