第3話 『救国を騙る毒蛇』闇導師マルクス
これで冒険者の皆さんへのプレゼントは決定いたしました。
……ああ、そうでした。それともうひとつ、忘れてはいけない事があります。
そこは私も冒険者として大変お世話になった、とても大切な場所です。
「冒険者の皆さんへのお返しと同時に、教会にも『ご挨拶』をしないといけませんね」
私がにこやかにそう切り出すと、アスタロトさんが眉をひそめてこちらを見ました。
「教会にもか……何か良い案があるのか?」
「もちろんです。教会は毒や呪い、それから大怪我の治療などを行なっている、街にとってなくてはならない重要な場所ですからね」
すると、マルクスさんが目をカッと見開きました。
マルクスさんも、以前は宗教関係の仕事をされていたらしいです。
「くくく……そういう事か。せっかく酒を冒険者たちに撒いても、治療の為に教会に行ってしまうからな。要は、先んじて教会にクサビを打っておくという事だな」
そう語るマルクスさんの顔は、驚くほど嬉しそうに歪んでいました。
本当に楽しそうで、見ている私までウキウキしてきます。
実は以前、お酒を飲みすぎて吐き気を抑えるために、大慌てで教会に駆け込んだ不届きな冒険者がいたらしいのです。
その時、神官さんが「お酒ごときで神の奇跡を使うとは何事ですか!」と顔を真っ赤にして怒っているのを、私は目撃したことがありました。
「ええ、そうです! お酒を飲んで教会を使うなんて、言語道断ですからね」
「……くく! 団長、アンタ相当に冒険者達を苦しめたいらしいな……! 気に入ったぜ」
苦しめる……?
はて、なんのことでしょう。
……ああ、なるほど! お酒を飲みすぎた翌日にやってくる、あの『二日酔い』のことですね!?
頭が割れるようにガンガンと響く頭痛が、本当に苦しくてつらいものらしいですから。
ですが頭痛でのたうち回るほどお酒を気に入って一滴残らずガブガブと呑んでいただけるなら、お酒を贈った私としてはこれ以上の本望はありません。
「ええ、たっぷりとお酒を楽しんでもらいたいものです。ふふふ」
「そうだなぁ! くくく!」
何やら、私とマルクスさんとの間で完璧に意思疎通が出来たようです。
この年になって出来た仲間と心が通じ合えるなんて、感無量の気持ちでいっぱいです。
すると、アスタロトさんが視線をドロフさんに向けました。
「では、ドロフ。酒などの調達は任せられるか?」
「ああ、問題無い。全部、すぐに用意しよう」
ニヤリと笑みを浮かべて頷くドロフさん。さすがは頼れる商人さんです。
これほど素早い対応を任せられるなんて、本当に心強い限りです。
何せ、この大きな拠点の食糧や私たちが暮らすために必要な備品も、すべて調達してくれている方ですからね。
「では、その教会に対しての対策だが……」
アスタロトさんがそう言うと、すかさずマルクスさんがスッと手を挙げてくれました。
「くくく……それは俺がやろう。やつらの奇跡の源泉を絶ってしまえばいいだけだからな。奇跡の触媒となる聖水の泉に、ちょいと細工すれば終わる」
おお、マルクスさん自ら名乗り出てくれるとは!
やはり元宗教関係者としての繋がりや、専門的な深い知識があるのでしょう。なんて手際のいい、素晴らしい流れでしょうか。
「分かった。では酒の調達が出来次第、作戦に移すとしよう」
アスタロトさんのその一言で、今日の会議は無事に幕を閉じました。
これで冒険者の皆さんには恩返しが出来ますし、お酒を飲みすぎた冒険者たちが教会に押し寄せて迷惑をかけることも防げます。
はやく冒険者の皆さんの喜ぶ顔が見たいものです。なんだか、心が温まりますね。
——————
それから数日の間、私はいつもどおり屋敷の家事に大忙しでした。
何せ、これだけ広いお屋敷です。掃除に洗濯、毎日のご飯作りと、体一つでは到底追いつかないほどの忙しさです。
そのせいで冒険者ギルドや教会に足を運ぶことができず、皆さんの嬉しそうな顔を直接見に行けないのが、本当に残念でなりませんでした。
ですが、私の代わりに仲間たちがしっかりと動いてくれています。
冒険者ギルドへ上質なお酒を届けてくれたのは、頼れるドロフさん。
さらに、お酒を飲んだ冒険者たちが教会へ迷惑をかけるのを防ぐため、マルクスさんが事前にしっかりと教会へと赴き何やら手を打ってくれたようです。
そして数日後、また新しい会議が行われることになりました。
大きなテーブルの前に集まると、いつも通りアスタロトさんが議長としてテキパキと会議を進めてくれます。
「冒険者ギルドの件だが、作戦は上手くいっているか。ドロフ」
「ああ。奴ら何も知らないで俺が調達した酒をガブガブ飲んでやがったからな。今頃、天に召されているだろうよ」
うんうん。天にも昇るような上質なお酒だったのですね。
冒険者の方々が幸せそうにしている姿をこの目で見られないのは寂しいですが、私の拙いアイデアで皆さんがそこまで大喜びしてくれたのなら、もう大満足です。
「そうか。ではマルクス。教会の方はどうだ?」
「くくく……奴らの治療は一切行えないようにした。今頃、奴らは焦っているだろうな」
マルクスさんの言葉に、私は深く納得して頷きました。
冒険者たちが二日酔い程度のことで、神聖な教会を安易に頼るなんて言語道断ですからね。
今頃、冒険者の皆さんもお酒を飲み過ぎた事に焦っているのでしょうね。
「これで冒険者ギルドと教会は問題無いか。では残りの脅威となる騎士団と、商会や貴族などの対策に対して考えるとしよう」
アスタロトさんの言葉に、私は「待ってました」とばかりにスッと右手を挙げました。
「それについて、私からの提案があるのですが」
私が笑顔で声をかけると、テーブルを囲む皆さんが信じられないものを見るかのように目を見開いて私を凝視しました。
アスタロトさんまでもが、少し声を震わせて聞いてきます。
「冒険者ギルドと教会に続いて、騎士団と商会どもへの対策もあるのか……?」
「ええ、もちろん。彼らは私たちにとって、大きな脅威ですからね」
そう。私たちの新しいパーティが世間から注目を浴びるためには、いつも街の民に寄り添い絶大な人気を誇る騎士団や大商会以上の大活躍をしなければなりません。
彼らは街の超人気者ですから、これから人気対決をしてのし上がろうとしている私たちからしたら、避けては通れない最大のライバルなのです。
ですが、私には案があります。
なぜなら今の私には、かけがえのない『パーティ』がいるのですから!




