32歳女性の場合 part6
人も少なくなってきて、しおりを抱える意味もなくなってきた。自分は腕をしおりから離した。
「もう離れて大丈夫だぞ。」
「もう少しだけ。もう少しだけ、私のこと抱えていてください。」
要望の意味がわからなかったが、目をうるっとさせてお願いするしおりのことを少しだけ可愛いと思ってしまった。彼女はビジネスパートナーでこんな感情を持ってはいけない。そういえば、今まで1人だったからこういった経験はなかった。
「もうすぐ着くからそれはダメだな。何かあったのなら後で聞くから、そろそろ着くぞ。」
「そういうことじゃないのに。」
しおりは聴こえるか聞こえないかの声で囁いた。何か言ったのは聞こえたが何を言っていたのかはわからなかった。
「ん?」
首を傾げて、自分が少し聞き返すと、
「大丈夫です。行きましょう。」
しおりは自分から離れて、扉が空いたエレベーターから出て行った。
服屋さんが並ぶ階には、さっき見た流行のスイーツの店ほどではないがある程度の人がいた。その誰もが必ず、2人1組で手を繋いでいた。カップル感丸出しで、過剰にイチャイチャするカップルもあった。
「こんな光景、子供には見せられないな。」
「そうですね。若い体を手に入れた人が、新しい恋始めてるんですよ。地上での組み合わせになることはあまりありませんから。それで舞い上がっているんじゃないですか?最近、ニュースにもなってましたし。」
「結婚とか付き合うってそんなに嫌なことなのか?生きていた時の俺は結婚したこともなければ、お付き合いもなかったから、わからない。」
「そうなんですか?」
少し驚いた感じでしおりが自分に詰めてきた。
「生きてた頃はそんな余裕がなかっただけだ。もともとそんなに興味もなかったし。でも、仕事上いろんな人の人生を見るとこういうのもいいのかもしれないと思うだけだ。」
「そんなことも思うんですね。少し意外でした。」
「ずっと1人だったからな。寂しくなることも少なくなかったから、羨ましいのかもしれないな。さて、この雰囲気は少し苦手だからさっさと買い物済ませて、帰りたいのだが。」
「わかってますよ。行くところの目星はついてます。ついてきてください。」
濃いピンク色の雰囲気の中を押しのけて並んで歩いた。




