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ラブリーキスキス・デスアンドチョコレート  作者: 岩崎シネマ
1章「これを絶望と言わずに何と言うんだ!」
18/20

#5「秘密はいつも暗い場所から」

【同日 午前1時33分 / 学食】


僕とキヨスクが着いた時、学食内には陰鬱な雰囲気が漂っていた。

みんなの顔を見れば分かる。

僕たちの唯一の希望、この学園からの脱出、この地獄からの逸出…それは不能。出口は見つからなかったのだろう。


「なんでこの学園の窓は、無駄に頑丈なんだよッ!!」


デス子が近くにあった椅子を何度も蹴りつけては、八つ当たりをしている。

どうやら窓ガラスを割って無理やり脱出を試みたようだが、殴ることに定評のあるデス子の力を持ってしてでも窓ガラスを割ることはできなかったらしい。


「まぁまぁデス子ちゃん、でもほら逆に言えば、頑丈だからかそ普段私達は守られているわけだし」


血夜来がそんなデス子をなだめようとするが、それは逆効果だった。


「守られてるって…こんな状況で閉じ込めらちゃ意味ねえだろッ!!」


「うーん、まぁ、そうとも言えるわねー…」


僕は辺りを見回してみる。

もちろん、毒味を探すために。


だが、学食内に彼女の姿は見えなかった。

他のメンバーは全員揃っている。彼女だけまだ戻ってきていないようだった。


「それで毒味と萌杉はまだ戻ってこないのか…。高貴な血筋のこの私を待たせるとは」


マーガリートがやれやれと言ったように大袈裟に両手を挙げる。


「いえ、あの二人…もしかしたら、出口を見つけて逃げ出したかもしれませんわね」


クビキリ―ナの言葉に、デス子の怒りが更に加速する。


「なんだとぉおお!あいつら勝手に…」


「デスってやる…この私がぜってーデスってやるッ!!」


デス子は近くにあった無抵抗で、何の罪もない椅子を蹴りつける。殴りつける。粉砕、玉砕。

そしてその狂気に満ちた目は何故か僕へと向かれる。


「なぁ、おとぎめいた。少してめぇのツラ貸してくれないか?」


「え…ぼ、僕?」


「あぁ、なんだかむしゃくしゃしちまってな。お前の顔、何だか殴り心地良さそうだし、一発殴らせてくれないか?」


あ、あれだ。デス子は指の骨をポキポキと鳴らしている。

確実にやる構え、確実にやる眼。

このままじゃ、ウィルスも感染していないのにデス子が凶暴化し、ここにいる全員を殺しかねない…いやそれよりも先ず手始めに僕を殺しかねない状態だった。


「い、いや…ちょっと待ってくれ。毒味については僕もよく分からないけど、萌杉については一つみんなに話さないといけないことがあるんだ」


「・・・んだと?」


僕はそう言って、萌杉が実は冥土に噛まれていて、症状が悪化し、『資材室B』に本人の意向で監禁したこと。

そして、学食に来る直前に、毒味を見かけたが家庭科室の方へ走り去ってしまったことをみんなに説明した。


毒味突然の疾走への疑問、そして萌杉が感染していたという事実にデス子の怒りも掻き消され、取り敢えずは僕の…僕たちの命の危機は過ぎ去った。


骨鳴らす両腕が降ろされたのを見て、僕は安堵の息を付く。

ちなみに、萌杉が教えてくれた桜薔薇の電話については、混乱を招くだけど判断し話さなかった。


「青・天・霹・靂(せい・てん・の・へき・れき)!!」


「まさか、萌杉が感染していたとはッ!?」


「ということはやはり…毒味が言っていたように、噛まれた者はゾンビとなってしまうということか」


鬼瓦の言葉に、ここに集まっていたみんながお互いのことを疑い合うように顔を見合わせていく。

噛まれた傷は無いか、実は感染していないか。萌杉のようにそれを隠してはいないか…。


このことを伝えれば、よりこの疑心暗鬼は強まってしまう。

Mr.パンダの思い通りになってしまう。

そんなことは分かっていた…でも隠すわけにはいかなかった。


何故なら噛まれただけで感染してしまうことがはっきりとしたんだ。

そのことをみんなが知って注意しなければ、よりこのウィルスの感染は広まってしまう。


「あぁ、恐らく…」


僕は唇を噛み締めた。

Mr.パンダの罠。

その正体に気づいていても僕たちには何も出来ない。

その上で転がされ、踊らされていることしか出来やしない。

悔しさ…なんて簡単な言葉で表していいのか分からないけれど、僕はその事実が堪らな悔しくて、苦しくて、噛んだ唇がヒリヒリと痛む。


「それに毒味だ…」


鬼瓦は難しそうな顔をしながら言葉を続ける。


「キヨスク、お前も毒味が走り去る姿を見たというのは本当か?」


「う…うん…」


「なるほどな。しかし毒味は何故、走り逃げ出したのだろうか」


「うーん…ど、どうしてなんでしょうか…」


毒味疾走の謎。

その疑問にまず最初に答えを出しのは、やはりアイツだった。


「愛よ!」


血夜来はそう言って深く頷く。


「乙女が涙を零しながら急に走り出すなんて、理由は一つしか考えられないじゃない。”失恋”よ!」


「し、しつれん!?」


「いや、別に毒味は泣いてはなかったけど…」


僕がそう言ったところで、血夜来の耳に僕の声は届くことはなかった。

彼女の頭の中ではもう既に、一人のアイドル『女苺毒味』が禁じられた恋愛に…そんなラブストーリーが勝手に作り上げられてしまっている。

愛は盲目とはよく言ったものだ…、いや彼女の場合少し違うかもしれないけど…。


「考えられる可能性は三つだ」


そんな茶番どうでもいいと血夜来の話を無視して今度は蛇邪丸が口を開いた。


「一つは、毒味が出口を見つけ、一人で逃げ出したという可能性」


「もう一つは、毒味も感染していたという可能性」


確かに、その可能性はゼロでは無い。

萌杉の様子を見て、自分もああなるのかと理解し逃げ出した。

説明は付かなくもない。でもーーー。


「うーん、でもー毒味んが噛まれるタイミングなんて無かった気がするけどなー」


辺芸子が僕と同じ疑問を口にした。

そう、毒味が噛まれ感染するタイミングは何処にも無かったはずだ。


「まぁ最後まで聞けよ辺芸子、これはあくまでも可能性の話だ」


「あっ、そっかー、ごめんごめん」


ただ、辺芸子の意見は最もである。

僕も二つ目の可能性は低い気がする。


「そして最後、三つ目の可能性はーーー」


蛇邪丸はそう言って邪悪な笑みを浮かべて呟いた。


「"毒味がMr.パンダ"という可能性だ」



-※-※-※-※-※-※-※-※-※-※-※-※-※-※-※-※-

【同日 午前1時37分 / 学食】


「それでは"マルヒトサンナナ"只今より作戦内容を伝えていく」


学食の机に広げられた学園内の巨大な地図。

それを取り囲む1年HELL組の生徒。

頭にはどこから見つけてきたのか、『安全第一』その言葉が白く輝く工事用ヘルメットを全員着用。

そして、図我によって作戦が全メンバーに伝えられていく。


いや、図我”隊長"によって…。


「A班、乙木・辺芸子は、地図でいうA-6…つまり職員室辺りの捜索を」


隊長が地図の職員室付近を赤ペンで丸く囲む。


「ラジャー!」


僕たちはそれを確認して、隊長に敬礼。


「B班、マーガリート・血夜来・エドガーは、D-3辺りを」


「ラジャー!」


隊長がそれぞれの班員と、探索ポイントを説明していく。


数分前、僕たちは消えた毒味の捜索をすることを決定した。

理由は蛇邪丸が提示した三つの可能性のうち、一つ目と三つ目で合った場合、ほっとくわけにはいかないと意見がまとまったからだ。


一つ目は、一人で逃げ出したという可能性。もし本当にそうであれば、僕たちも出口を見つける必要がある。

三つ目は、毒味がMr.パンダであるという可能性。これが一番厄介であり、ほっておいたら状況が更に悪化するかもしれなかった。


そして、探索は全員が2人から3人のグループになって行うことになった。

これは二つ目の、毒味が感染しているという可能性を考慮し、単独での探索は危険だという判断からだった。


「最後E班、隠不流・鬼瓦・そして俺だ…俺たちは、G-2辺りの捜索を行う」


「ラジャー!」


鬼瓦が勢いよく返事をするが、隠不流はゆっくりと手を挙げる。


「あー隊長、作戦前にトイレ行ってきてもいいー?」


「構わない」と図我は答えるが、鬼瓦は少し不服そうだった。


「作戦はもう始まるのだぞ、トイレなど先に済ませておけ」


「っても、生理現象だからどうしよもないんですけどー」


「…ぐっ!」


「まぁ音速、高速、爆速で戻ってくるからさー」


そう言って馬鹿にしたような笑みを浮かべながら、隠不流は学食を出ていく。

そして、三分程経った頃、彼女はやけにすっきりした顔で戻ってきた。


「お待たせー。いやぁー我慢してたから、盛りに盛ってたんですけどー!」


隠不流はスマホを取り出して、その画面を鬼瓦に見せようとする。


「鬼瓦も見る?ほら、めっちゃ盛ってな―い?」


「抗・拒・不・承(こう・きょ・ふ・しょう)!!そのようなものの見せるではないッ!!」


「じょーだんだよ、じょーだん…あはははははっ!!」


なんというやりとりだろうか…。

盛っていれば本当になんでもいいというのだろうか…。


「よし、全員揃ったな…」


「いいか、何か発見したら、スマホで全員に報告すること」


「何も発見できなかったときの再集合は1時間後にこの学食だ」


「それでは、只今より作戦を開始する!」


「時刻は"マルヒトヨンマル”」


「『レディーストロベリー作戦』開始だッ!!」


図我隊長の張り上げた声が学食内に響く。

それを合図に僕たちは行動を開始する。

僕と辺芸子は職員室の方向へと向かって走り出す。

”女苺”毒味…すなわりレディーストロベリーを見つけ出すために。

作戦の始まりだ。



-※-※-※-※-※-※-※-※-※-※-※-※-※-※-※-※-

【同日 午前1時45分 / 職員室】


「毒味ーん!毒味んいるー?」


暗闇に包まれた部屋の中、スマホの明かりを頼りに辺芸子が辺りを見回してみるが、返ってくるのは静寂だけだった。


『王輝明学園職員室』


普段、この学園の生徒がここに入ることは固く禁止されている。

校則としては禁止事項には入っていないし、先生からそう言われ続けているだけであって、この状況じゃ仕方あるまい。

僕もこの場所に入るのは初めてであった。


辺芸子と一緒にざっと部屋を確認してみるが、書類が散乱した職員が使っているであろう机が並んでいるだけで、人らしい影は見当たらない。


「ここにはいないみたいだな」


「うーん残念、ハズレみたいだね―」


辺芸子はそう言いながらも、職員室の中をうろうろと歩き回り、机の引き出しを開けては、その中を確認していたりした。


「あんまり勝手に触らないほうが…」


「乙木んは分かってないな―」


「分かってないって何を…?」


「アイテムは机やタンス、壺の中に隠されているんだよ!」


「…つぼ?」


どうしてだろうか…。

職員室を物色しているだけというのに、辺芸子のその目は、まるで他人の部屋をガサゴソと勝手に漁る勇者のそれに見えてくる。


「そろそろ違う部屋も探しに行こうか」


僕がそう言いかけた時だった。

あっ、と辺芸子が驚いたように声を上げた。

振り向くと、彼女は『二晩煎寺』と書かれた名札が置かれた机の前に立ち、一枚の紙を手にしている。


「ん?何かあった?」


僕が辺芸子の元に駆け寄ると、彼女は「これ…」と言って、二晩の机の引き出しから見つけたであろう一枚の紙を見せてきた。

それは1年HELL組についての"報告書"だった。


「…1年HELL組報告書…作成者…監視者?」


「なんだろうね…これ」


内容を読む前から、不快感にも似た気持ち悪さが、胸の底から込み上げてきた。

恐らく、『監視』と『報告』という言葉が連想させるものがそうさせているのだろう。


でも僕はこれを読まずにはいられなかった。

読んでも良い結果にならないと分かっていた。

でも人間とは眠れなくなると分かりながらも怖い話を聞きたいし、目の前の好奇心には抗えない、そういう生き物なのだから仕方がない…。


僕は辺芸子が持つその紙に印刷された文字を覗き込む。



==================================

タイトル:1年HELL組報告書_Vol.9

作成者:監視者

作成日:6月11日(水)


【1】国王選挙について

・結論、1年HELL組(※以降、当クラス)では本格的な殺し合いは未だ発生していない。

・「桜薔薇殺害事件」(※別途書類にて報告済み)は、犯人「又御万江 櫂」が死んだことで収束してしまう。

・しかし、☓☓☓☓促進プロジェクト「通称:1LDK計画」の準備は順調、現状問題無いと言える。


【2】テロリストについて

・結論、当クラスに潜んでいると言われるテロリストの情報は未だ掴めていない。

・現状では、その存在についての真偽も不明。

・当クラスの生徒として、クラスメイトたち監視は引き続き厳重に行う。

・加えて、テロリストの正体を暴くため、「1LDK計画」の計画を一部変更(※別途書類にて報告済み)。


【おまけ】☆★ 今週の占いコーナー ★☆

・クマ座のあなた:今週は『超凶運』…運気を変えるラッキーアイテムは”イヤホン"!

・タヌキ座のあなた:今週は『超最悪』…運気を変えるラッキーアイテムは”ベスト"!

・ネコ座のあなた:今週は『超絶望』…運気を変えるラッキーアイテムは”甘いもの"!

==================================



「なんだよ…これ…」


僕はその紙を読み終えると、まるで胸の中に溜まった絶望を吐き捨てるように呟いた。

それは辺芸子同じようで、紙を持つ彼女の手は小さく震えていた。


読んでも良い結果にならないとは分かっていた。

でも、これはその予想を遥かに越えた内容だった…。


「なんで…どうして…」


そして、辺芸子も小さな声で呟いた。


「辺芸子…タヌキ座なの…今週”超最悪"だって…」


「…えっ?」


「いや、僕もネコ座で今週”超絶望”らしいし、そういえばミカンもクマ座だからーーー」


って、いや、そうじゃない。

重要なのはそっちじゃない!


「占いコーナーなんてどうでもいいよ!それよりこっちだよ…!」


僕は報告書の【1】【2】の項目を指差した。


「これって…つまり、1年HELL組の誰かが”監視者”で、辺芸子たちをずっと監視しているってことだよね…」


信じたくはない。

でも、内容からすればそういうことになってしまう。


「それに、"今週"の占いコーナーって書いてあるから、この報告書は毎週1回の頻度で書かれているのかもしれない」


「…あっ!確かに」


「そして、この報告書はVol.9…9回目…毎週書かれていたとしたら、9週間前…つまり2ヶ月と1週間前から書かれている…」


それはもっと考えたくも無いことだった。


「それって…じゃあ…」


僕たちがこの学園に入学したのは約"2ヶ月と1週間前”…。


「監視者は入学した時からずっと、僕たちのことをずっと監視し続けていたということだ…」


僕はようやく気がついた。

いや…今まで目を背け、考えないようにしていただけかもしれないけど、ようやく思い知らせれた。突きつけられた。

否定も無視することももう出来ない。


この学園では次なる国王を決めるための選挙が、ただ行われようとしているだけだとずっと思っていた。

でも、本当は違っていたんだ…。


死んだはずなのに何故か繰り返されたあの日。

Kと呼ばれる裏切り者。超人類化計画。監視者。1LDK計画。

そして…テロリスト。


これはただの国王選挙なんかじゃない。

想像を超える何かは、僕たちの知らないところで既に始まっていた…。


「それに…このテロリストっていうのも気になるねー」


「なぁ…辺芸子」


僕は辺芸子の手から報告書を取り上げると、それを元あった二晩の机の引き出しに戻した。

辺芸子が不思議そうに僕のことを見る


「監視者のこと…テロリストのこと…今は秘密にしてくれないか?」


「秘密に?うーん…辺芸子はみんなに言ったほうが良いと思うけどなー…どうなのかなー?」


確かに二人だけの秘密にしておくには、あまりに重大過ぎる内容だった。

僕がそんなこと決めていいのか分からない。


「でも、こんな状況で自分たちの中に監視者やテロリストまで紛れているとみんなが知ったら…」


想像は容易かった。

ただでさえ疑心暗鬼に陥りやすい、むしろ陥ってしまっているこんな状況だ。

この話をみんなに伝えられたら、恐らく…。


「本当に殺し合いが始まってしまう」


「もちろん、黙っていても監視者やテロリストの思う壺だ」


「だから、みんなにはどこかで伝えないといけない。でも今はまだ…僕はそう思うんだ」


僕の説得に辺芸子は少し考えた後、首を縦に振る。


「確かに乙木んの言う通りかも…分かった!みんなに言うタイミングとかは乙木んに任せるね!」


「ありがとう…」


「必殺技は最後まで取っておくものだからね!」


辺芸子はそう言って、いつもの得意顔で僕の顔の前に人差し指を一本立てた。



-※-※-※-※-※-※-※-※-※-※-※-※-※-※-※-※-

【同日 午前1時52分 / 空き教室前廊下】


「ちょっとマーガリートちゃん…あなた歩くの早すぎるわよ…」


マーガリートの腕にがっつり組み付く…というよりも殆ど羽交い締めにしながら血夜来が不安げに呟いた。


「ちょ…血夜来、腕が…高貴な血筋のこの私の腕が…千切れてしまう…」


乙木たちが職員室で監視者の報告書を見つけた一方その頃。

静寂と暗闇が包み込む廊下を、B班がスマホの明かりを頼りにゆっくりと突き進んでいた。


幽霊、UMAにゾンビとパンダ。

どこから何が飛び出してくるか分からない緊張感は、彼らの足を一歩進むたびに重く遅くさせていく。


『カンッ!!』


異様なまでの沈黙を守っていた廊下に、突然の金属音が響く。

廊下の端にいつの間にか一定の感覚で並べられていた謎のボンベ。その一つをエドガーが気づかずに蹴ってしまった音。


「いやぁあああああ!!でたぁああああ!!」


だが、極限の緊張感に支配された彼らの五感は野生の獣のように研ぎ澄まされ、血夜来は反射的に絶叫を上げるとマーガリートの首に組み付いた。


「ち…血夜来…そこは首だ…息が…息ができない…」


B班のメンバーはマーガリート、血夜来、エドガーの三人。

深夜の学園を探索する彼らは、まるで人気番組『月曜スペシャル・藤岡殺しの探検隊』を彷彿とさせていた。


「…ハッ!?マーガリートちゃん…マーガリートちゃん一体どうしたの!?一体何があったの!?」


我に返った血夜来の目に先ず入ったものは、どうしてか白目で泡を吹き、意識を失いかけているマーガリートの無残な姿だった。


「これは…まさか幽霊…お化け…それとも怨霊の仕業!?」


「UMA!エイリアン!宇宙人!あるいは名状し難きもの!」


「どちらにしても許さないわ…マーガリートちゃんにこんなことをしたアイツらを、私は絶対に許さないわッ!!」


エドガーは溜息をついた。


「いや、僕の推理によれば、血夜来が首を締めてそれで気失っているだけなんだけど…」


マーガリート隊員の意識が戻るまでにかかった時間はものの数十秒。

だが、その時間ですら惜しいとでも言うように、彼が意識を取り戻すと、血夜来隊長の指示によりB班は直ぐに作戦を続行した。


どんなハプニングがあろうとも、彼らはその足を止めることは無かった。

どれだけ怖かろうとも、彼らはその足を止めることは無かった。

一歩進むたび、恐怖で足は竦みそうになる。それでも彼らは突き進んだ。

彼らをそこまで突き動かす原動力は一体なんなのだ。それは誰にも分からない…。


ーーーしかし、このあと彼らは目撃する!!ーーー


ーーーその歩みを止めるほど、恐ろしい光景を目撃するのであった!!ーーー



【金曜スペシャル『血夜来恋依恋の探検隊・怒涛の後半戦開幕!!』】



最初にその異変に気づいたのはマーガリートだった。


「おい、あれ…」


マーガリートが廊下の奥、指をさす。

血夜来は直ぐにマーガリートが指し示す方向にスマホの明かりを向けた。


それは一瞬のこと。

漆黒に包まれた廊下、LEDの明かりが円を描くようにぼんやりと広がり、それに照らされる人の影らしきもの。

だが、その影は蝋燭に灯された炎のように、揺らめきながらすぐに近くの空き教室の中へとふっと消えていく。


「あれは…人か?」


一つの人影。1年HELL組の生徒は今、全員がグループで行動をしている。

一人でこの学園内を歩いているものなどいるはずが無かった。

"女苺毒味"ただ一人を除いては…。


「ゾンビ感染者たちは全員部屋に監禁している。じゃあ、あれはーーー」


マーガリートが言い切る前にエドガーが口を挟む。


「僕の推理によれば、あれは女苺毒味だ」


それは『レディーストロベリー作戦』のターゲットの確認を意味していた。

B班の三人は直ぐに人影が消えた教室へと足早に向かう。


開け離れたままの鉄の扉。

空き教室の中は、窓から差し込む月明かりに青白く照らされていた。

それは不気味で、どこか神秘的な光景。

眠っているかのように沈黙し、均等に並んだ机と椅子。

そして、その教室の中で、三人を待っていたのは意外な人物であった。


「な、なんでお前が…」


エドガーが驚き声を上げる。


教室の中央、三人に背を向けるように立っていたのは、紺色の制服を羽織り、腰に刀を据えた男…。

"萌杉謙信"であった。


「お、おい…萌杉!お前大丈夫なのかよ、こんなところにいて…」


「というか、どうやって部屋から出たんだよ。資材室に閉じこもってたんじゃないのかよ」


エドガーは萌杉に声をかけながらゆっくりと近づいていく。

女の勘というものだろうか、高貴な血筋の勘というものだろうか、血夜来とマーガリートは教室の扉の前で足を止めていた。

何故だが萌杉に近づいてはいけないと直感がそう叫んでいた。


「僕の推理によれば、お前は教室にいたほうがーーー」


エドガーが萌杉の肩を叩く。

萌杉はゆっくりとその顔を振り向かせた。


月光に照らされたその顔は、あの時教室で見た磯烏の顔と…あの時保健室で見た冥土の顔と全く同じだった。

死体のように青白い肌には、青い血管が顔中に浮かび上がり、大きく見開かれた黄色の瞳孔がエドガーを睨みつける。

エドガーは声を上げる暇も無かった。


『あ”あ”ぁ”ぁ”あ"あ!!』


腹の奥底から突き上げてくるような、人間のもとは到底思えない唸り声。

その声と共に萌杉はエドガーの首筋に躊躇無く噛み付いた。


真っ赤な色をした液体が、エドガーの首筋から馬鹿みたいなほど簡単に溢れ出してくる。

それは一見トマトを押しつぶしただけのようにも見え、血夜来たちは目の前の光景を一瞬で理解することは出来なかった。


「うわぁあ"あ"あ"あ"あ"あ"!!」


少し遅れ、エドガーの絶叫が教室を切り裂いた。

それはまるで、焼いた鉄を何度も体に押し付けられ、拷問を受けているかのような声。

生者が絞り出す、最後の叫喚だった。


「僕の…僕の推理によれば…こいつはもうゾンビだぁあ"あ"あ"あ"あ"!!」


エドガーの叫び声は二人を現実へと連れ戻す。

一刻も早くこの場から逃げ出さなければならない。

そんな本能が頭の中で警鈴を鳴らし続け、他のことは一切何も考えられなかった。


「そんなこと見れば分かるわよぉおお!!!」


血夜来の声と共に二人はその場から逃げ出した。

教室の扉を閉めることもなく、エドガーのことは置いてきたままで。

エドガーはどうなる?助けなくていいのか?

そんな当たり前の疑問すら今の二人には考えることも出来なかった。


思考は停止し、ただ本能と恐怖に突き動かされた血夜来とマーガリートの足が、学食へと向かって夜の廊下を疾走させる。

後ろから萌杉が追ってくる様子はない。


二人は走り続ける。

教室は徐々に離れていく。

それでも二人の耳には届き続ける。

耳にこびりついては離れなかった。

生きたまま肉を食い千切られていくエドガーの断末魔が…。


【金曜スペシャル『血夜来恋依恋の探検隊・完』】

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