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ラブリーキスキス・デスアンドチョコレート  作者: 岩崎シネマ
1章「これを絶望と言わずに何と言うんだ!」
16/20

#3「疑心暗鬼は少女から」

【同日 午前0時44分 / 学食】


学食でミカンを取り囲む1年HELL組の生徒たち。

その視線はまるで化け物を見るような目つき。

二日前、椅子に拘束された僕を睨みつける、あの時の眼と全く同じだった。


「だからみんな!ミカンが感染してるって、どうしてそうなるんだよッ!?」


僕はミカンの横で声を張り上げる。

でも、どれだけ否定したところで状況は何一つだって変わらなかった。


「毒味さんの話が本当なら、あれは”ゾンビ”と呼ばれるものなのですよね」


クビキリ―ナが巨大なハサミを構えながら淡々と話始める。

月光を不気味に反射する鋭利な刃が二つ。その刃の向き先はミカンの首。


「そして、ゾンビは噛まれると感染する。つまり、噛まれた者までゾンビになってしまう。ちなみに、ゾンビ化までの時間はどれくらいなのですか?」


「うーんとねー。映画の設定によって一瞬だったり、数時間だったりバラバラなんだよねー」


毒味は可愛い子ぶるような仕草でちょこんと首を傾げる。


「でもね、一つ言えることは噛まれたら、”絶対に”ゾンビになっちゃうんだー」


「ほーらやっぱり!」


毒味の説明に、デス子が声を上げた。


「そいつも磯烏や冥土と同じように、そのうち、私達に噛み付いてくるぞ!デスってくるぞ!!」


そして他のみんなをより一層に煽っていく。

眼前に並ぶクビキリ−ナ、毒味、そしてデス子。

歌って殺す地下アイドル『ラブリーキラーズ』の連携プレイは、流石の一言であった。


「というわけでミカンさん、あなたに恨みがあるわけではないのですが…」


「ここにいる全員の安全の為、輝かしき未来の為、あなたのお首チョキンとさせていただきますわ」


クビキリ−ナの目に迷いは無い。

他のみんなもそれを止めるつもりは無い。


「いや、待ってくれ…!!」


僕はミカンを庇うようにクビキリ−ナの正面に立った。

でもまぁ…クビキリ−ナが本気を出せば僕なんか一瞬で殺されてしまうんだろうけど…。


「確かに僕も小さい頃ゾンビが出てくる映画を見たことがある」


名前は正確には覚えていないけど、『なんたらオブ・ザ・デッド』とかいう映画だったと思う。


「今回の状況は映画で見たものと酷似している」


「でも、映画とはっきり違う点が一つある」


ハサミを構えたままクビキリ−ナが目で問いてくる。それは一体何なのかと。


「冥土は噛まれてなかった。もし本当にあれがゾンビだったら、冥土はどうして噛まれてもいないのに、ああなったんだ!」


噛まれてもいない人間までゾンビになっている。

つまり映画のルールをそのまま当てはめて、ミカンがゾンビになるとは限らなかった。


「冥土も磯烏に実は噛まれていたとかじゃなーいのー」


隠不流が興味なさそうにスマホをいじりながら口を挟む。


「それか、風邪みたいに磯烏の唾液から感染したとか…やった4万『イイネ』ゲットー!」


「唾液感染って、それじゃあミカン以外だってーーー」


「乙木迷太、お前は馬鹿じゃない。本当は分かってるんだろ?」


僕が反論を言い切る前に、蛇邪丸がその言葉を静止した。


「やわな体の磯烏と冥土であれだ。それがもしミカンとなれば、ここにいる全員の力を持ってしてでも止めることはできないかもしれない」


「つまりここで先手を打たなければ、全員が死ぬ可能性があるんだよ。なぁそうだろ?お前だって本当は分かってるんだろ?」


僕は何も言い返せない。

確かにあれがもしゾンビでない何かだとしても、発症条件が今はまだ分からない。

つまり、ミカンが絶対に発症しないとは言い切れななかった…。


「でもね、毒味にはまだ一つだけ分からないんことがあるんだけどー」


「このゾンビウィルスをバラまいた犯人って、毒味たちをこんな時間に集めた"なんたらミックス”とか言う人なんだよねー」


なんたらミックス…ではなくパンデミックだ。


「あぁ、そう考えるのが妥当であろう。パンデミックと名乗る者だ…ゴホッ…ゴホッ」


僕の代わりに萌杉が訂正してくれる。


「…ゴホッ…ゴホッ」


そういえばこの学食に到着したぐらいから具合が悪いのか、時折萌杉は咳き込むようになっていた。


冥土がいれば風邪を引いていないか、よもやインフルエンザにでもかかっていないか、直ぐに診察してくれただろうけど彼女は保健室に閉じ込められている。


「そう!その”パンダミックス"さん!」


いや…だから、と萌杉が再びパンデミックの名前を訂正しようとするが、毒味は萌杉の言葉など聞かずに話をどんどんと進めていってしまう。


「パンダさんは、一体何が目的でこんなゾンビウィルスをバラまいたんだろうねー」


「もしかしたらあれかなー、ゾンビが好きなのかな―」


"好き"その言葉に血夜来がアンテナのように肩をビクッと震わせ、いち早く反応したとこに僕は気がついていた。


「そう毒味ちゃん…全ては愛よ!」


いや、それだけは無いと思うんだが…。


「パンダミックスの目的はおおよそ察しがつく」


そう言って、蛇邪丸が悪意に満ちた笑みを浮かべた

この状況をまるで楽しんでいるかのような笑みを。


「パンダミックスはゾンビウィルスをバラまいた」


「或いは、一見そうと”思わせる”ウィルスをバラまいた」


「そうなれば、俺達は自ずととお互いを疑い合う、目に見えないウィルスにかかっているのではないかと、疑心暗鬼に陥る」


「だが、疑わなければ生き残ることも出来ないのが現実」


「そして、パンダミックスは笑っている。心の中で俺たちを嘲笑っている。見えない恐怖に怯える俺たちをな」


そして、蛇邪丸は僕たちのことをゆっくりと見回して呟いた。


ーーーパンダミックスは恐らくこの中の誰かだーーー


「奇・々・怪・々(き・き・かい・かい)!!我々の中にミックスパンダが紛れていると!?一体…一体それは何故にだッ!?」


「簡単さ。やつは先ず手始めにこのクラスで一番"化学に精通する"磯烏を感染させている」


「もしやあれってことー。化学の力で感染を止めさせないため的なー?」


隠不流はようやくキルスタグラムに届いたコメントへの返信を終えたのか、スマホをポケットに仕舞い込む。


蛇邪丸は蛇のように細長い首を縦に振った。


「あぁ…ミックスパンダは恐ろしく狡猾で用心深い」


「磯烏を潰し、万が一にも抗体薬を作られる可能性を排除したわけだ」


「そして、磯烏が化学に精通しているこということを知っている人物。つまりはーーー」


蛇邪丸が最後まで言い切る前にエドガーが口を開く。


「磯烏を最初の標的にしたということは、ミスターパンダは、このクラスの生徒の特性を知っているということ…」


「つまり僕の推理によれば、Mr.パンダはこの中にいる!」


いつの間にか…いつの間にか、パンデミックの名前は『Mr.パンダ』へと変わっていた…。

しかも"ミスター"と勝手に男にされている。


というか今はそんなことだって、エドガーの推理と称して人の話をまとめただけのいつものこのやり取りだってどうだって良かった。


蛇邪丸の言う通りだ。僕もそんな気はしている。

僕たちの中にMr.パンダが潜んでいると…。


蛇邪丸の不気味な笑みが暗闇に浮かぶ。


「話を戻せばヤツの目的は、俺たちの疑心暗鬼、そしてそこからの…”殺し合い"だ」


「こ、殺し合い…ですか…」


キヨスクが怯えながら声を震わせる。


「あぁ、それはもう始まっているんだよ。実を言うとな、ニ晩が持っていた拳銃があの教室から消えていた」


「…えっ?」


「教室から逃げ出したときに、恐らく誰かが、混乱に乗じて持ち去ったのだろう」


「なんで…なんでそんなことを…?」


「決まってるじゃないか…みんな自分の命を守りたいんだよ!誰も他人を信じられはしないんだよッ!」


学食の中に蛇邪丸の笑い声が響き渡る。

地獄の底から放たれたようなその笑い声は、胸の中で鈍重に伸し掛かる。


僕たちの中に潜むMr.パンダ、持ち去られた拳銃。

お互いを感染しているんじゃないかと疑い合い、啀み合う猜疑心。


「Mr.パンダから深夜の学園に呼び出された時点で始まっていたんだ!このクラスでの殺し合いがッ!!」


「クククッ…」


蛇邪丸の言葉に黒幕は笑う。デス子は笑う。クビキリ―ナは笑う。

驚くもの、怯えるもの、興奮するもの、蛇邪丸の言葉がこのクラスに生み出した感情は様々だった。


ただ一つ共通して言えることは、この状況を好こうが好かまいが、どちらにしてもここが地獄であるということに代わりはない。

あと4時間、逃れることのできない地獄であるということに代わりはなかった。


「確かに蛇邪丸の言う通りなのかもしれない…」


僕は声を絞り出す。

色んな感情に押しつぶされになった僕の声は消えかけた蝋燭の灯りのように力なく揺れ、でもこの暗闇と静寂に包まれた学食の中にいるみんなの元に届くのには十分だった。


「僕たちが疑心暗鬼に陥り、殺し合い、そして生き残ったものまで恐らくウィルスに感染させるつもりかもしれない…」


「このままじゃ、Mr.パンダの思う壺だ…」


ミカンの視線が僕へと移る。視界の片隅でそのことに気がつく。

でも僕はそれに気が付かないフリをして話しを続ける。


「僕にだって分からない。ミカンが感染しているのか、そうじゃないのか」


「磯烏や冥土みたいになってしまうのか、そうじゃないのか」


「でも…でも今はいつものミカンのままだ」


僕の言葉に溜息をついたのはデス子だった。


「おとぎめいたー、お前は相変わらず頭ん中がお花畑なやつだねー」


「蛇邪丸も言ってただろ?それでも疑わないと生き残れないのも事実」


「デスるかデスられるか、もう殺し合いは始まってるっつうのッ!!」


そんなこと分かっている…分かっているんだ。

この世界が、そんな希望的観測で済むような場所ではないことは僕にだって分かっている。

この世界は現実。昔見た映画のように都合良く物事を考え、それで済むような場所ではない。


「だから提案だ…」


ーーーミカンを監禁しようーーー


僕の言葉は蝋燭が最後に見せる灯りのように、勢いをつけて燃え、そして消えた。沈黙。


僕は最後までミカンを見返すことが出来なかった。

僕を見ている彼女の表情を確かめる勇気なんて僕には無かった。

握り締めた掌に食い込んだ爪が痛みを増す。


感染しているかもしれない…だから監禁しよう。

友として、親友として、僕の提案は最低で、糞で、終わっている、そんなこと十分に分かっている。

でも僕にはこれ意外の方法が何も思いつかなった…。


「乙木殿…」


驚いたように萌杉は呟き、他のクラスメイトたちも似たような顔を浮かべていた。僕からそんな提案が出るとは思ってもいなかったのだろう。


そして、ミカンは僕の提案通り、学食の隣にある『資材室A』に監禁されることになった。

最後まで、ゾンビとなって凶暴化する前にミカンを殺してしまったほうが安全ではないか…という意見はあったが、血夜来や辺芸子、鬼瓦やキヨスクが説得を手伝ってくれたこともあり、なんとか監禁という形で収束した。


まぁ、監禁と言っても手足を拘束するまではせずに、外側から鍵をかける程度のもの。

万が一の場合でも、資材室の扉は教室同様に鉄製だから大丈夫だという僕の主張はなんとか通ったわけだ。

それが最低な友である僕が出来る、せめてもの償いだった…。

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