第91話 終結、デジャブスパイラル
「スゲェなレイラ! 見たぜさっきの魔法……、ってレイラ?」
魔法が収まったのを確認して立ち上がる。
振り返るとレイラは膝をついて座り込んでいた。
「だ、大丈夫……よ、でもゴメン! 私の魔力不足だったみたい……まだアイツが…」
「フハーハッハッハァァ!! 究極魔法を使える奴がいるとはなァ、だがァこの俺様を倒すにはァちょ~っと魔力が足りなかったみたいだなァ! 貴様らまとめてブッ殺してやらァ!!」
不快な笑い声が上空から響く。
吹き飛んだはずのソイツはボロボロに焦げ付き、めかし込んでいた衣装も見る影がないほどだが空からゆっくると降りてきた。
……何でだよ? これはおかしいだろ……
「クソッ、さっきの魔法を食らって生きてるなんて……。四天王って何なんだよ…」
悔しそうにつぶやいて地面を殴るシオン。
……いや、そういうことじゃなくて……
「そんな、レイラお姉さま……。せっかく会えたのにここまでなんて…」
泣き崩れるセイラ、そんな彼女に寄り添うグラム。
……違う、感動ムードじゃないだろ?
これが物語だったら、ゲームだったら?
こんなに引っ張っといてさんざんピンチを繰り返して、思いつく限りのキャラが大集合して凄い技がドガン!
どこぞの戦闘力がインフレしてる漫画でも歴代最大の大技が出たらその戦いはおしまいだろ?
こんだけ人をあっちこっち走り回らせといて敗北?
……そんなの俺は認めねぇぞ…。
「おいベラムス、いい加減くたばりやがれっ! テメー一人でどれだけ尺取らす気だ!?」
俺は数歩前へ進み出ると円形のフィールドの真ん中に立つソイツを指さして叫んだ。
仲間たちの泣き声も敵さんの高笑いもすべてが静まり返る。
「ちょ、ちょっと金治!? 一体なにを言い出して…」
「いいからシオン。おい聞いてるのかベラムス! 多数対お前一人、どう見たってテメーが敵で俺たちが主人公サイドだろ! いい加減勝たせやがれってんだ! 帰れッ!!」
唖然とした表情を浮かべるシオンたち。
ここは何を言っても、お情けでも勝たせてもらうしかない。
いや負けと言うことで終わりでもいい。
罠にかかってたローレンスたち魔族はベラムスの後ろで倒れてる。
レイラはさっきの魔法どころか立ち上がれそうにない。
戦う手段はもう残ってないぞ?
……死なずに済むにはベラムスに帰ってもらうしかないじゃないか!
固まっていたベラムスは再び笑い声を上げて腕を胸の前で交差させた。
「フハハハハァ……、面白い! 俺様は敵ってかァ。ならば金治、いや主人公様よォ、テメェの物語はここでお終いだぜェ! 華麗なる俺様に殺されるハッピーエンドでなァ!!」
……あら?
バッと両腕を広げると黒い炎が俺とベラムスを囲む様に走る。
あっという間に一対一の決闘を強いるかのように炎の壁に囲まれてしまったのだ。
シオンもレイラも燃え盛る闇の炎の向こう側。
「フィナーレには最高の舞台だろォ? なんつーんだっけなァ、そう、お前ら流に言えば『正々堂々』戦ってやるぜェ」
……マズいな。
作戦通りならそれっぽいこと言えば俺の幸運でトントン拍子に事が進んでベラムスは撤退、俺たちの大勝利じゃないのか?
そう、いつもみたいに。
でもこれじゃあ……
戦うしかないか。
もう逃げ場は無い、泣き出したいけどそんな暇すらない。
こうなったらダメ元、がむしゃら攻撃…
「クッソォッ、上手く行かねぇな! ……ベラムス、俺がお前を倒す! 勝負だぜ!!」
震えるのも泣くのも後回し、拳を構えて叫ぶ。
俺の強さじゃ絶対敵わない相手だ。
……でも何もしないでおしまいなんて嫌だ、足掻いてやる!
これで終わりってんならワタルみたいに、ギンガみたいに……
最後の一瞬くらい輝く主人公に……、『勇者』になってやるんだ!!
カッッッ!!
凄まじい閃光が放たれた。
下半身が熱い…。
「いやなんじゃこりゃ!? 股間がひかっ、違うコレは?」
ポケットに手を突っ込んで熱い、ひし形のモノを取り出した。
眩しいくらいに青い閃光を放つその石、確かこれって…。
「なっ、テメェそのウゼェ光! 忌々しい伝説の……、ヒッ! それを近づけるんじゃねぇ!!」
そうだった、確か伝説の勇者がどうとかいうアイテム。
しっかし悪役お約束のセリフだなベラムス、センスがねぇぜ。
俺はニヤリと笑ってずんずん前へと進む。
「ほらほら、もっとよく見ろよ! 勇者のアイテム、お前ら悪魔の大っ嫌いなものだろ!」
害虫に殺虫スプレーをぶっかける時みたいなへっぴり腰で勇者アイテムを突き出し、怯えるベラムスの方へと歩み寄る。
……でもこっからどうしたもんかなぁ?
「金治! よく聞きなさい、それは『勇者のエンブレム』。でもそれだけじゃ意味がないわ。何でもいいから剣のガード部分にくっつけて!」
炎の壁の向こうからグラムの叫び声が響いてきた。
でも……
「そりゃいいけど俺、剣持ってねーぞ! さっき投げちまった!」
ベラムスに光を向けたまま、上半身を後ろへ捻って叫ぶ。
「これを受け取るんだ金治! お前の剣だ!」
ベラムスの向こう側の炎から声が聞こえたと思ったら上空から何かが落ちて来る。
ヒューン……、ザクッ、シュパーン‼
「うぉい、あぶねーだろローレンス! 危うく串刺しだぜ。でもサンキュー!!」
地面に刺さって激しい光を放ったソレは、俺がさっき投げた短剣『ミリオンスター』だった。
「えっと、ガードってのは…」
「剣のグリップと剣身……、あーもう! 剣の持つところと刃の部分の間にあるでっぱり部分よ! その石を縛り付けて!」
そんな丁寧に言わなくてもわかるぜ。
破れかけてた服の袖を引きちぎって勇者の石を短剣に縛り付ける。
その瞬間、刀身から凄まじい光が…。
「クッ、させねェ! 俺様は負けねェ、『ダークスパーク』ゥ!!」
ベラムスはとっさに後ろへ飛びながら呪文を叫ぶ。
巨大な黒い電撃が迫る。
「行くぜベラムスッ!」
……俺は不思議と負ける気が一切しなかった。
地面を蹴って飛び出すと迫る電撃に短剣を振り下ろす。
……なんだってできる、……何も怖くない!
上から下へと振り下ろした剣先から青い光が鞭のようにしなって飛び出す。
……俺は、勝つ!!
青い光は闇の稲妻を消し飛ばし、ベラムスをまっ二つに切り裂いた。
バシュゥゥウと音を立てて切り裂かれたベラムスは闇に溶けるように消えて行った。
眩しいくらいに光輝いていた短剣も勇者の石も光を静かに失う。
いろいろなものが終わるのを感じさせる。
そして歓喜の叫びをしながら駆け寄ってくる仲間たち。
この声が一番、戦いの終わりを感じさせてくれた。
「やったわね金治、さっすがこのレイラ様の仲間ね!」
「凄かったよ! さっきの技どうやったの!? 勇者のアイテムを使ったんだよね!?」
「見事だ、そしてありがとう。やはり私は君の仲間になって……、グッ!」
「見ました金治さん、あなたはやっぱり勇者…」
「まあまあの活躍だッチェね! チップ様の次に強いことを認めてやるッチェ!」
大騒ぎの仲間たちを割り込むように一人の男が目の前にやってきた。
ボロボロだが高そうなローブに金色の王冠を被った小太りの男は咳ばらいをして話し始める。
「ゴホン、金治君だったね? 吾輩はクロノス4世、ベラムスの奴に操られて多大な迷惑をかけてしまったことを謝りたい……。そして何より、国を守ってくれてありがとう!」
自慢の仲間たちに目配せされる。
本当に全てが終わった、……のかな?
ともかく今日の戦いは終わったらしい。
「ヘヘッ、どういたしましてだぜ。でもまずは早くここを出ようぜ? 英雄の凱旋っていえばもちろん宴だろ! グラム、扉を頼む」
グラムが笑顔で頷き、呪文を唱えて光の扉を出現させる。
次々に光の中へと入ってゆく仲間たち。
ピンチの連続だった長い戦いはおしまいだ。
……王道的な英雄、『勇者』ってのも悪くねぇよな。
今回だけだけどな!




