第92話 親子喧嘩は永遠に
時計塔での戦いは3日前の話。
クロノス・スタッフの街に戻ると四天王ゼラの部隊がベラムスの手下を一掃した後だった。
戦場となった街はボロボロ、でも大勝利を祝って盛大な宴がまだ続いている。
お祭り騒ぎであちこちに料理が並べられ、酔った奴らが転がっている朝。
今回の戦いをほかの街にも伝えるため、そして街を復興するための資材を調達するために早速キャラバン隊が出発することになった。
俺はいつもの三人とともにフロント行きのキャラバンに乗り込むところだ。
見送りに来たセイラ姫にさよならを言って…。
「金治様、もう行ってしまわれるのですか? それにお姉さまも…」
悲しそうな表情をするセイラ。
この国でもう少しのんびりするのも悪くない、でも…。
「そりゃ嬉しいけど俺、やっぱ英雄って柄じゃないんだよなぁ。それにめんどくさくなるっぽいし」
そう言って隣に目をやる。
「ああ、今回ほどの騒ぎになれば王都から調査が入るだろう。魔王軍との共闘、魔界への侵入など話が付かないうちは裏切り行為とされ一時的に牢獄行きもあり得るだろうからな。暫くの間は離れた方がいいだろうというのが俺たちの考えだ」
ローレンスが小難しい説明をした。
よくは分かんないけど面倒ごとは御免だ。
もらえるものは貰ったし、実質もう用はない。
「そうだセイラ姫にも一応、昨日の会議で決まったことを話しておくね。まず…」
シオンが思い出したように話し始める。
昨日の夜、魔王ザディラムやヴァイロン、クロノス王と一緒に状況の整理を兼ねた会議……、に参加させられた。
……まあほとんど寝てたから俺はあんまり覚えてないけど。
魔王軍の再編成が必要とかでザディラムたちは昨日の晩には魔界へ帰って行った。
四天王から裏切者がでたんだからそら大変だろうな。
ラディンたちとはもう少し駄弁りたかったな。
アイツ、魔王と仲直りできただろうか……。
「お~い、金治御一行様! フゥ、何もこんな隠れて出発なさることはないのに…」
ドタドタと駆けつけてきたクロノス王。
「理由はローレンス殿から聞いていますが……、せめて私たちだけでも見送りさせてくださいや。今度の礼を改めて言わせてほしい、ありがとう! ぜひまた遊びに来てくれ」
王様が差し出した右手に答えるように握り返す。
「どういたしまして! 街が直ったらお城の料理を食いにくるからな」
難しい言葉でお礼を言ってくるけどクロノス王も、後ろに立っているセイラもなんかおどおどしてるんだよなぁ。
理由は分かってる。
「なぁ王様、セイラもさ、レイラと話したいんだろ? ほら、レイラも隠れてないで出て来いよ。どうせもうバレてるんだし、今から逃げるんだからいいだろ」
ローレンスの後ろに隠れていたレイラがビクッとする。
「わ、私はそんな奴ら知らないわよ? 私はただの冒険者、王様やお姫様の知り合いはいないわ」
ソッポを向いて呟く。
コイツ往生際が…。
シュパーァァ……、ガチャリ…。
「そうでしょうね、レイラ様は金治さんのパーティに所属する魔法使い。失踪なされたレイラ姫、と同一人物であるはずがありません」
気まずい沈黙が流れたその時だった。
突如出現した長方形の光を開けて出てきたグラムは冷静にそう言い放つ。
「ハァ!? 何言ってるのグラムさん、レイラの事は貴方が一番知って…」
「貴方方のおかげで私は正体がバレた今もクロノスに使えることを許されました。そのことでお礼を申し上げたく思います」
シオンの口に指をあてて遮ると彼女らしくない丁寧な口調で続ける。
「昨晩、金治さんたちの冒険談はお聞きしましたがレイラ様とお話はできませんでした。ベラムスとの戦闘で使われた最強呪文。……貴女ほどの大魔導士がどのような事を望んで旅をしているのか、どうしてもお聞きしたく思いますわ」
そう言って意味ありげな目配せを俺たちに。
……なるほどな、いかにもなお膳立てって訳か。
「そう言えばレイラって初めて会った時から冒険者やってたよな。どっから来たのかとか聞いたことなかったし気になるなぁ、だよなローレンス?」
俺はニヤニヤしながら彼がわき腹に抱えた首をこずく。
「う、うむ……、そういえば聞いていなかったな。お前はどのような志で旅だったのだ?」
察したのかわざとらしく問いかけてる。
「わ、分かったわよ! 一度しか言わないんだからよーく聞きなさい!」
ローレンスの後ろに隠れていたレイラが顔を真っ赤にして飛び出してくると、クロノス王とセイラを指さして叫ぶ。
「私は自由のために家を出たの! 高い身分ならお金があるけど自由はない、平民だから貧乏だけど自由な暮らしができる……、そんな生まれで決まる理不尽認めないわ」
黙り込むセイラたち。
これは驚いたな、あのがめついだけに思えていたレイラがこんな考えを…。
「私の人生は国のモノでもパパのモノでもない。どう生きるか誰と結婚するか決めるのは私、身分なんかに捕らわれるのはお断りよ。……私は、お金も自由も両方手に入れるの! そのために窮屈なお姫様は捨てたのよ!!」
静まり返る空気。
……ヤバいなぁ、思っていたより自分勝手な理由だった。
感心した自分が馬鹿らしいぞ。
これじゃクロノス王も黙っていないんじゃ……、ほら王様震えていらっしゃる!
ここでレイラを連れていかれちゃったらお終いだ。
シオンやローレンス、セイラ姫も青ざめて見守っている。
言いたいこと言い切って背を向けているレイラ。
グラムに至っては笑いを堪えて顔を手で覆っていやがる。
そして王様が口を開いた……。
「す、素晴らしい子だ! 流石我が娘……、いやクロノスを救った英雄だ‼」
……は?
満面の笑みで叫ぶクロノス王。
「枠組みに縛られない自由な発想、私も……、いや親御さんもきっと誇りに思っているだろう。いやそうに違いない!」
その言葉に背を向けていて泣いていたであろうレイラも振り返り…。
「当然よね、私のパパもすっごい人なんだから! 嫌いだけど大好きよ!!」
この野郎、泣いてなんかいなかった。
隣で爆笑してる悪魔のシスター同様、笑いを堪えて震えてやがったのか!
この爺さん、レイラ並みに無茶苦茶だな。
「うむうむ、立派ついでに一つ頼んでもいいかの? 私の娘が今家出中でな、きっと今も夢のために笑ってるはずなのだ。もしも旅先で会ったら伝えてくれるかな、いつでも帰ってきていいんだぞとな! 勿論、クロノスを救った大魔導士と勇者様御一行も大歓迎だぞ」
その言葉にレイラは力強くうなずく。
「このレイラ様に任せなさい、しっかり伝えてあげるわよ! それじゃあさよならね、セイラもしっかり国を守ってね! ほら金治、早くキャラバンに乗らないとおいてかれちゃうわよ!!」
元気よくそう叫んで、キャラバン隊の列車に飛び乗っていった。
ガーンッ、ガーンッ‼
唖然としているとキャラバン列車の先頭から金属を打ち合わせる音か響く。
「ぷぷぷぷぷっ、ほら金治君、キャラバン出発しちゃうよ? 行った行った!」
グラムに押されてキャラバンの方へ進む。
「そうだ、早く乗らないと! ほら金治急ごう!」
シオンにせかされてハッとした。
「そ、そうだよな、出発だよな! じゃあな王様、セイラ! また来るからな!!」
俺たちは駆け出して客室に飛び込んだ。
それと同時にキャラバンの長い列車が動き始める。
「さよなら金治様! 絶対また来てくださいね、お姉さま‼」
セイラの叫び声を置いて、キャラバンは石造りの大門をくぐり、お花畑の間を駆け抜けて行く。
あっという間のさよならを理解しきる前に。
ふと見ると窓際でレイラが涙を流していた。
やっぱり悲しいよな…。
「あの、レイラ……、大丈夫か? やっぱもう少しクロノスにいた方が…」
声をかけると彼女は涙をサッと拭いて、ニッと笑った。
「金治のくせになに辛気臭い顔してんのよ! 大好きな人にも会えたし、何よりこれを見なさい。これだけの大金があれば何でも出来るわ‼ 最高の気分よ」
足元に置かれた金貨でいっぱいの袋を高々と掲げてブイサイン。
その笑顔は思わず俺たちをも笑わせる。
「やっぱレイラは笑ってなくちゃね、調子狂っちゃうよ! ……でもあれでよかったの?」
「そうだぞ、父上はああいっていたがやはり家族、きっちり折り合いをつけるべきでは…」
シオンとローレンスの言葉にやれやれといった感じで首を振った彼女は言う。
「喧嘩するほど仲がいいって言葉知ってる? 多分一生続けるわよ、大好きな人との家族喧嘩はね! ……さあ朝ご飯にしましょうよ。いっぱい持ってきたんだから!」
いつの間にかお城から料理をとってきていたらしく、レイラが持っていた風呂敷には大量の料理と酒瓶が入っていた。
ちゃっかりしてるなぁ。
それにこれはもう喧嘩ではないような……、まあいっか!
難しいことは理解できてないけど、レイラは家出中のお姫様。
無茶苦茶なのはクロノス王譲り、そんなお父さんとは喧嘩中。
でも俺が言えるのはコイツは最高の仲間だってことだけ、それでいいよな!
大騒ぎしているうちにクロノスの国境を越えていく。
━━花の都『クロノス・スタッフ』
自然あふれた美しい街並みの小さな国。
街の中央、時計塔に魔界への道はもうないけど今日も静かに時を刻む。
そんな平和な国は俺の仲間の大切な場所。
さよならクロノス、また来るぜ!




