第89話 魔王参戦、最後の魔法
ゆっくりとこちらへ歩み寄ってくるのは今回の事件の元凶、悪魔ベラムス。
無敵に思えた仲間たちは怪しい光の結界に縛り付けられて呻いている。
動けるのは俺とシオンだけ…。
「な、なぁシオン、これヤバくないか? ローレンスたちはどうなってんだ?」
「ヤバいよ、物凄くヤバいよ……。みんなが掛かったのはモンスターを捕まえる、闇の魔力に反応する罠魔法なんだ。元四天王さんたちは悪魔だから当然としてローレンスもなんだかんだ言ってアンデッド系のデュラハン、効果は抜群だよ。……クッ、もの凄く強力で外せそうにない!」
バチッッ!!
シオンがラディンの足元に輝く魔法陣に触ろうとすると黒い電撃が飛び散った。
「何でみんな警戒せずに飛び込んじゃうかな。こっちの動きがバレてるなら罠があるのに決まってるじゃん!」
「そうなんだよなぁ、こいつら話聞かないでズカズカ進みやがって。おいローレンス! ヴァイロン、ラディア、チップ! ……ダメだなぁ」
何か答えようと呻くがロクに声も出せないようだ。
「無駄だよ。この罠は本来僕らエルフがモンスターから身を守るために開発した魔法なんだ。掛かったモンスターが仲間を呼ばないように束縛して声すら出させないのさ!」
この野郎、最後の辺り微妙に自慢気に言いやがったぞ。
動けない奴らを頼ってられないか…。
俺たちはローレンスの陰に隠れるようにして覗き込む。
歩み寄ってくるベラムスに黒い光のようなものが集中しており、いかにもこれから必殺技を放ちますって雰囲気をバリバリ放っている。
「ど、どうしよう。アイツ動けない僕らをまとめて吹き飛ばすつもりだよ……。このままじゃ全滅…」
「分かってるっての! 俺は頼りにしてた仲間が全滅してる時点でもう諦めてるぜ。でも黙って殺される気はないよな? 行くぜシオン!!」
シオンのセリフを遮って俺は動けない仲間たちとベラムスの間に飛び出した。
隠れてたって殺される、逃げ場は無い、どこにいても怖いんだから前に進むしかないじゃないか!
「やいベラムス、俺を犯罪者扱いしやがって! 仲間にも! ……おまけにクロノスの街をあんなことにしやがって、元に戻してくださいお願いします!!」
深く頭を下げる。
全員が罠にかかったと思っていたであろうベラムスは飛び出してきた俺に驚いた表情を浮かべたがすぐに悪そ~な笑みに変わりやがった。
怖い!
「何お願いしてるんだよ金治! お願いなんて聞いてくれる相手じゃ…」
「フッフフフフ、いいでしょ~う! まさか人間がここに入って来るとは想定外でしたが礼儀正しい子は嫌いじゃありませんねぇ。俺様が直々にクロノスの時間停止を解いてやるぜぇ!」
う~ん、予想外に物分かりがいいじゃん。
もしかしてコイツ、そんなに悪い奴じゃない…。
「バァット! クロノスの城下町には俺様のかわい~い手下のシルバーメイルたちが徘徊してるぜぇ? 今時間を動かしたら面白いものが見れるでしょうねぇ」
ハッとして隣を見るとシオンが真っ青な顔で首を横に振る。
「ベラムスやめろぉぉっ!! そりゃマズい! やっぱ無しで!」
「うう~ん? 君の頼みだろ? なに、遠慮することはないぜぇ! 『クロック・オン』ッ! さあ、祭りの始まりだぜぇ!!」
パチンッ! とベラムスが片手を高く上げて指を鳴らす。
その手を中心に光が波のように広がり周りの靄みたいな空間が激しく点滅した。
……やっちまったか。
これじゃクロノスはお終いだ。
崩れ落ちるシオン、高笑いするベラムス、束縛された仲間たちも悔しそうだ。
俺のせいか……、いやまだだ。
何とかなりやがれ!
半分自棄で真上に手を伸ばす。
そのとき遥か上空、真上の辺りが強く輝いて……。
「ここまでだベラムスッ! 魔王ザディラムの名において貴様を断罪する!」
天井の靄を突き抜けるような光の中から現れたのは物凄い威圧感を放つ銀髪の男。
ドラゴンの翼を背中から出し、ゆっくりと降下して来る。
ベラムスはなお悪そうな笑みを浮かべる。
「これはこれは……、魔王様。俺様の作戦はお気に召しませんでしたかぁ? 外の人間狩りはご覧に…」
「残念だったな。クロノスの街にいた使い魔どもは今頃我が軍に駆逐されているだろう。貴様のふざけた作戦はこれまでだ! 魔王軍は……、私は争いは求めない」
空中で決めポーズをする魔王、なかなか決まってるじゃん。
ピンチからの逆転、思わず笑っちまうぜ。
でもよ…。
「おい魔王様よ! かっこつけてるのはいいけど真上で飛ぶなよな、パンツか褌か知らねーけど丸見えだぜ!」
「なっ、金治!? 魔王にそんな軽々しく……、それよりアイツと知り合いなの?」
うろたえてキョロキョロするシオン。
そういやコイツとローレンスは魔界行かなかったもんな。
最強の仲間、本来のラスボス。
俺は勝利を確信してゆっくりと降りてくるソイツに手を振る…。
「フッ、よく持ちこたえてくれたな人間……、いや金治よ! ここから先は私に任せてほしい。これは魔王軍のもんだ、いっ!? ……グッ、なんだと!?」
バリバリッ、バシュゥゥウ!!
ザディラムが俺たちの前に降り立った瞬間、凄まじい電撃が彼の足元から走り、黒い光が彼を縛り付けたのだ。
彼が苦悶の表情でもがくたびに激しいスパークが飛び散る。
「な、なんだよ、どうしたってんだ!? おいザディラム!」
近寄ろうと足を踏み出した時、シオンが俺のマントを引っ張って止める。
「待って金治、それはローレンスたちが掛かったのと同じ魔封じの罠だよ! 触るのは危ない! ……話は理解できてないけど確かソイツ、魔王って言ってたよね? だったら闇の力は誰よりも強いはずだよ、魔封じの罠は闇の魔力が強いほど強力な束縛になる高度な魔法なんだ」
魔王が罠にかかった?
……んな馬鹿な。
「ほほ~う、勤勉だねぇエルフ君」
楽し気な声の方を振り向くとベラムスがパチパチと拍手しながらニヤついていた。
「そんな子供だましの罠に全員かかるとは俺様の予想通り魔王軍はアホばっかりだったなぁ! ここで魔王を殺せば魔王軍は俺様のものだぜ! 地上も魔界も俺様だけのものだ!!」
高く上げられたベラムスの右手にドス黒い光が集中して行く。
……これ、絶対ヤバいヤツだ。
今度こそ助けてもらえる当てがないぞ!?
「お、おい待てよベラムス、俺たちはどうなるんだよ!? 魔王軍と関係ないか弱い遊び人だぜ? 助けてくれよ、なあ!」
必死に叫ぶとベラムスは俺たちの方を見てああ、といった表情を浮かべる。
「俺様が地上を征服した暁には人間は一人残らず殺すつもりなんだぜ。栄えある俺様に殺される人間第一号として胸を張るがいい!」
「ちょっ、テメッ、ざっけんなよ!?」
慈悲はないのかよ……。
「もう、ダメだ…」
隣ではシオンが膝をついて項垂れる。
終わり……、なんて嫌だぜ!
俺は必死に考えるが今までピンチを抜けたときみたいなトンチは浮かばない。
ここまでの連戦で疲れた、『ワン・モア』の魔法もあと1,2発が限界。
頼みの綱だった仲間たちは全滅。
前方で大技を放つ準備をしているベラムス、駆け寄って攻撃しても……。
……うん?
ベラムスの後ろ、俺たちがいるのと反対側にも誰か居る?
「金治……、私の、後ろへ……。早く、隠れるんだ……」
振り向くと声の主は魔王だった。
凄まじい電撃を浴びながらも力を振り絞って一歩踏み出したのだ。
体中から煙を上げて、動くたびに床から出る電撃で苦しそうに呻いている。
その後ろで捕らわれている仲間たちも驚きの表情を浮かべていた。
「おい! 隠れろってお前ボロボロじゃねーか! 何ができるってんだよ」
「さすが魔王だ……、魔封じの罠にかかって動くなんて。でもその状態じゃ…」
シオンとともに傍に駆け寄るが罠の電撃が飛び散り近寄れない。
「ヘッ、驚かせてくれるじゃねーのよ。喋れただけでも褒めてやるぜ! だがなぁ、これでテメーらはお終いだぜぇ!」
これを見て慌てたのかベラムスが両手を上にあげると巨大な闇の球が彼の上空に生成されてゆく。
いよいよ終わりか!?
「ベラムスッ! 私は……、魔王として仲間を、友を……、息子を守る! たとえこの身が砕けても構わない! 『ドラゴ・フォーゼ』ッッ!!」
魔王ザディラムの強い、叫びが響き渡る。
彼が呪文を唱えると凄まじい光に包まれ、バキバキと体が変形してゆく。
どんどん大きくなりついには見上げるほど高くなる。
光が弾けて中から現れたのは、巨大な二枚の翼、長いしっぽ、紫色の鱗を全身に纏った超特大のドラゴンだった。
「ド、ドラゴン変身の魔法! 勇者伝説に出てくる魔王の切り札だ……、本当に実在していたなんて。これなら…」
「スッゲー、魔王なんだな、やっぱ。ラスボスの変身とかさっきのセリフとか最終回ものじゃん! 行け! アイツを食っちまえ!」
シオンは驚きへたりこみ、俺は調子に乗って前方を指さす。
しかし絶対無敵の風貌をした魔王ドラゴンはベラムスに噛みつく……、ことはなく俺たちを守るように立ち上がる。
いや、この状態ならチョンって触ればベラムスなんて粉々だろ?
不思議に思ってベラムスの方を向くと彼も不思議そうな表情を浮かべていたが…。
「ハッハーン、そうかそうかぁ! デカくなっても罠の効果は消えてないから動けないと。だったらまとめて消えてもらうまでだぜぇ! 動けないドラゴンなんてただのデカいトカゲじゃん!!」
ベラムスは悟ると高らかに笑いながら腕をクロスさせて魔法を操る。
上空に生成されていた巨大な黒い魔法がグルグルと渦巻き始めた。
俺は思わず頭を抱え…。
「もしかしなくてもデカくなっただけで状況変わってなくね!? ヤベーよな? ヤバいな! 何とか……、そうだ! 『ワン・モア』ッ!!」
とっさに巨大なドラゴンの足元に向かって呪文を叫ぶが地面から噴き出す電撃に見事遮られる。
「無駄だよ金治、魔封じの罠は戦闘用のものでかかった対象への補助魔法を無効にするんだ! 設置に時間はかかるけど無茶苦茶強力なんだよ…」
絶望ムードのシオン。
なんでそんな無駄に高性能なんだよ!
何とかしなきゃ、このままじゃマジで全滅だぜ!?
死んでたまるか!
でも俺かシオンに『ワン・モア』をかけてもローレンス含めて罠にかかってる奴らは終わりだ。
自分にかけて盾になるってのも不可能じゃないけど上空から降ってくる魔法を俺が先に受けるってのはどうやっても無理そうだな。
ダイスの腕輪でパワーアップしてもなぁ……。
やっぱりピンチを助けてくれるのってゲームだったらアイツだよな?
「死ねぇっ、この俺様こそが魔王! この世の支配者だぜぇ!!」
ベラムスが叫ぶと上空に浮かんで渦巻いていた巨大な闇の魔法が俺たちに向かって落下を始める。
もう迷ってる時間はねぇ!
「一か八かはいつものことだよな、ここは王道に賭けるぜ! さあシオン、お姫様を助けに行こうぜ!! 死んじまうまで足掻くまでだ。『ワン・モア』ッッ!!」
俺は短剣を片手にベラムスに……、いや、その向こうに見えた人影に向かって駆け出す。
最後の力を魔法に込めて唱えてた。
待っててくれよ、セイラ姫!




