第88話 乗り込め決戦の地
悪魔グラムに引っ張られて光の扉を潜るとどこかの部屋に出る。
見た感じ城の中のどこかだな。
窓の外では鎧たちがガチャガチャと走り回ってる音が聞こえる。
「ふぅ、何とか危機一髪ってとこね。……貴方、元四天王ね。何でここにいるか問い詰めたいところだけどそんな暇はないわね。このチンチクリンはなに? 敵?」
「チンチクリンとは何だッチェか! 俺様は元魔王軍の天才軍師、チップ様ッチェ!」
地団駄を踏むチンチクリンにかまってる暇はない。
「金治君、この女性は何者なんだ? 私の正体を知ってる人間がいるとは思えないのだが」
けげんな表情で問いかけるヴァイロン。
「まあ待てよ、まずコイツらは俺の仲間だ。助けてくれてありがとな、グラム! 早速で悪いけどシオンたちどっかに捕まってたりしない? 助けに来たんだけど」
グラムは微笑んで頷く。
「相変わらず無茶苦茶ね。それに金治が背負ってるその子……、訳ありね。まあいいわ、私はグラム。この通り貴方たちのお仲間よ」
そう言ってフードを外して角を指さして見せる。
「僕の事も知ってるなんて……、ベラムスの手下じゃないみたいだけどお姉さんは…」
虚ろ気なラディンに意味深な笑みを浮かべる悪魔シスター。
「でも金治、貴方運がいいってのは本当だったのね。最高のタイミングで来てくれたわ。貴方の仲間、子音とローレンスはギリギリ無事よ」
「ギリギリって……、どういうことだよ?」
グラムに続いて窓から下を見下ろすとそこはクロノス城の裏手にある兵士の訓練場。
その真ん中に巨大な二本の十字架が立てられているのが見えた。
十字架に張り付けられてる二人の人物は物凄く馴染みある顔ぶれだ。
あいつら…。
「シオン! ローレンス! おいグラム、あいつら何やってんだ?」
「分からない? さっきまでちょうど処刑されそうになってたのよ。でも幸か不幸かいざ切り裂かれるっていうタイミングで警備モンスターに見つかるマヌケな侵入者が現れたの」
ヴァイロンたちと顔を見合わせた。
つまり危機一髪、運よくシオンたちは助かったって訳だ。
思わず笑いがこみ上げてきちまうな!
「それで、今なら貴方たちを探してベラムスの手下は走り回ってるからあの子たちを助けるチャンスな訳だけど、出て行ったら戦闘は…」
「サンキュー、グラム! さあ助けに行こうぜ!」
「え……? ちょ、ちょっと金治さん!?」
俺は窓から飛び出した。
ラディアを背負ったままだけど魔法のマントのおかげでかなり身軽だ。
建物の二階くらいからなら余裕で飛べる訳だ。
誰もいない広場のような場所の真ん中、二本の十字架に駆け寄る。
驚きの表情を浮かべる張り付けられた二人。
「助けに来たぜシオン、ローレンス! 今紐を切るからな」
ラディアをその場に降ろして短剣を手にし…。
「き、金治! 生きてたんだね! 僕、てっきり魔法陣に吸い込まれて死んじゃったかと……、いてっ! 丁寧に降ろしてよね!」
「おおお、まさかこうしてまた会えるとは! 俺は信じてたぞ金治、絶対助けに来てくれると……、おおぅ! あ、ありがとう金治。あと上に縛られてる首も取ってくれないか?」
ザックザクと彼らを縛っていた太いロープを切り裂く。
生意気に叫んでるし、全然元気みたいだな。
……よかった!
「そうだ、早速で悪いけどこいつらに回復魔法をかけてくれ! 頼む!」
息を切らして涙目のラディアと一足遅れてきたヴァイロンを指さす。
「こいつ確かフェアリーテーブルの時の! 嫌だよ、敵じゃん! ……まあ取りあえずこっちの子供には、『ヒール』!」
暖かな緑色の光がラディアを包み込む。
スッと顔色が良くなった。
「あ、ありがとうございますシオンさん! 凄い、ずっと楽になりました」
「うん、魔力は回復出来ないけど体力は回復したから大丈夫なはずだよ。自分の持つ魔力以上に魔法を無理に使うと体力をすり減らす、気を付けることだね」
珍しく敬われ上機嫌のシオン。
「なあ頼むよシオン、ヴァイロンも治してやってくれって。今は俺の仲間だからさ。べラムスに仕返しするためにも戦力はあったほうがいいだろ?」
暫く悩んだがため息をついて頷く。
「しょーがない、金治がそこまで言うなら助けてやるよ。僕はまだ君が僕の故郷を攻撃したことを許してないからね。『ヒール』!」
「ありがたい……! その、フェアリーテーブルの事は本当に済まなかったよ。詫びになるかは分からないけどクロノス奪還に全力で協力させてもらう。私も共に戦わせてくれ!」
頭を深く下げられ驚くシオン。
「そ、そこまで言うなら仕方ない。金治が仲間だっていうんだから特別に信じてあげるよ。裏切ったら許さないからな!」
「のんびり話している暇はなさそうだぞ! あの変な鎧は何なんだ? モンスターの一種みたいだが友好的って訳ではないようだな」
剣を構えるローレンス。
俺たちの周りは既に鎧の奴らに囲まれていた。
「そ、そうだよ金治! 僕ら牢屋に入れられた筈なのに気が付いたら貼り付けにされてて変なモンスターに囲まれてるし、景色が白黒だし……」
そういえば時間が止まったクロノスでなんでこいつらは動いてるんだ?
まあ、無事だしいっか…。
「この鎧はベラムスの手下だとよ。手加減無用だ、やっちゃえローレンス! ヴァイロンも頼む!」
無敵の仲間に復活した元四天王。
俺を守ってくれる仲間は十分、負ける気はしないね。
「おうよ、何だか知らんが任せろ! ハァァァアッ、『フレイム・ドーン』ッ!」
「私に命令するとはねぇ、まぁいいだろう。『ダーク・ヘル・メテオ』!」
ドゴゴゴォォォォォォオオンッッッ!!
それぞれ反対の方向に凄まじい炎が巻き起こった。
(元)人間最強クラスと魔界最強クラスの必殺技が俺の支持一つで発射されて敵の軍勢を吹き飛ばした。
これはすっごく気持ちいいな!
「す、凄い……。貴方はローレンス、ローレンス・ディノバルド! 50年前に死んだはずの英雄……、金治さんの仲間って…」
「これが四天王の実力、想像以上だ。金治、確かフェアリーテーブルでコイツと戦ったって言ってたけどよく勝てたね」
その光景にタジタジになってつぶやくラディアとシオン。
「まあな、俺の自慢の仲間だぜ!」
強いやつの力を我が物顔で借りることに躊躇はないぞ。
使えるものはなんでも使う、それが俺のポリシーだ。
「おい金治、調子乗ってる場合じゃないッチェよ! どんどん鎧のヤツらが集まってきてるッチェ! どうするッチェか!?」
マントを引っ張ってチップが叫ぶ。
「よっし、鎧は無視してベラムスを倒しに……、ベラムスってどこにいるんだ?」
シュイィーン……、ガチャ…。
「ちょっと貴方、話は最後まで聞いてほしかったわね! ベラムスの馬鹿に喧嘩売りに行くんでしょ? 特別に案内してあげてもいいわよ」
俺の問いに答えるように光の扉が目の前の空間に現れ、角をはやしたシスターが偉そうに扉を開けた。
どうやら行き詰まりはなさそうだ。
「頼むぜグラム、俺たちをベラムスまで! ほらお前ら、ドアに飛び込め!」
「ちょ、ちょっと勝手に……、キャァァアッ!」
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光の空間に飛び込み、その先にある扉を開けると…。
「よし先ずは……、ってなんじゃこりゃ! 空中!? 止まれお前ら、落ちる!」
扉の前に地面はなくはるか下のほうに建物らしいものが広がっている。
目の前には……、真っ白な丸い壁?
「少しは落ち着きなさい! 貴方がこれから入るのはベラムスの部屋、アイツ自分の部屋を魔法で作ってるの。きっとそこにいる筈よ」
落ちかけた俺を引っ張り上げながらグラムが説明する。
「ここは大時計の正面、つまり時計塔広場の上空よ。まあ針はなくなってるみたいだけどね」
確かに正面の白い壁と思っていた丸いもの、端っこのほうを見ると数字が等間隔に描かれていた。
「そうは言ってもベラムスの部屋ってのはどこなのさ? どこにも入り口は…」
シオンが質問仕掛ける口に手を当てて遮ると…。
「入り口は目の前よ。魔法の部屋って言ったでしょ、飛びなさい!」
「え? ちょっ……」
グラムは素早くシオン背後に回って扉の外へと突き飛ばしたのだ。
何か叫びかけたようだが扉から飛び出し、針のない大時計にぶつかった……、と思ったらそのまま白い文字盤の中へとすり抜けていく。
「なるほど、大時計に隠し部屋というわけか。行くぞみんな!」
「おうッチェ、俺様のが四天王にふさわしいッチェことを証明してやるッチェよ!」
そう叫んで飛び出して白い壁へと消えるヴァイロンとチップ。
「おい待て…」
「お父さんの、いや魔王軍の悪だくみは僕が止める! 先に行くね」
覚悟を決めた主人公みたいなセリフを吐いて飛び出してゆくラディア。
「さあ金治、俺に掴まれ! ベラムスの奴に仕返しと行こうじゃないか」
掴まれといって俺を脇に抱えるローレンス。
「恐らくセイラ姫もこの先にいる筈よ、ついでに助けてあげて。代わりとは言いませんけど貴方のお仲間……、もう一人のお姫様は私に任せて!」
いい感じの雰囲気に言ってウインクするグラム。
「レイラのことか、頼むぞ……。じゃなくてこれは…」
「今こそ決戦の時だ! 大丈夫、お前のことは命に代えてでも守ってやる。行くぞ!」
なんでこの世界の仲間は俺の話を肝心な時に聞いてくれないんだ?
なすすべなくローレンスに抱えられて、白い文字盤をくぐる抜けた。
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不思議な空間に降り立つ。
足元には白いよくわかんない材質で出来た円状の床、上のほうや遠くは紫色の靄っぽいものがどこまでも続いている。
どう見ても現実にある空間じゃないことは確かだが……、それどころじゃない。
俺は薄々察していた事が見事現実となっている光景に思わずため息をつく。
先に飛び込んだ奴ら、俺を抱えていたローレンスまでもが黒い結界のようなものに縛られて苦しそうな表情を浮かべてうなっている。
束縛の魔法かなんかだろうものを受けた仲間たち。
こいつらこれだけ人数いてこれだ。
……うん、そうだよな。
さんざん街中で暴れまわった無茶苦茶強力なパーティが自分の城に攻めてくるっていうのが分かってるのに何もせずに待ってるほどの馬鹿はいないよな。
罠の一つくらいあるよなぁ。
「金治、大変だよみんなが……。強力な魔結界だ。どうしてこんなところに…」
「へっ、シオン? 何でお前だけ無事なんだ?」
絶望して立ちすくんでいると慌てて駆け寄ってくる子供が一人。
そういえば俺もなんともないな。
「何でってこの結界は……」
「ヒャーハッハッハァ! 最強の騎士に元四天王、魔王の子までそろって全員が子供だましの罠にかかるマヌケだとは大笑いだ!」
不快になる笑い声が響いてきた。
慌てて振り向くと俺たちがいるのと反対側にクロノス王の姿が。
「おおっとぉ、このダサい姿はもう必要ねぇなぁ。俺様直々に処分してやるぜぇ!」
黒い煙を吹き出し、倒れた王様の上に派手な男が現れる。
捻じれた角に紫色のパーマヘアーに色白の肌、間違いなく俺たちが時計塔で戦ったベラムス本体だ。
頼りにしてた主力たちは全員戦闘不能。
僧侶と遊び人で戦える相手か?
……絶対無理なんだよなぁ、積んだなコレ。




