第86話 モノクロのクロノス
光に包まれて俺たち四人が降り立ったのは見覚えのある部屋だった。
大きな歯車が幾つも回転し、部屋中には張り巡らされた魔法陣。
どうやらクロノス・スタッフの時計塔に戻って来たみたいだな。
「本当にブラックゲストと地上が繋げられていたとはな。それにこの部屋全体が術式になっている……、魔界の魔力を流せば君が言っていた様に国一つを操ることも可能だろうな」
「凄いッチェねぇ、ベラムスのヤツウザいだけかと思ってたッチェけどこんな魔法が使えたんだッチェね」
顔をしかめて部屋を見回すヴァイロンとなんだか楽しそうなチップ。
そして相変わらず不貞腐れてるラディン……。
「元気出せよラディア。魔王…、じゃなくてお前の親父も何かに騙されてたっぽいし許してやれよな。魔界の王の癖に騙されて軍を動かして統率もままなってないだけじゃ……、いややっぱかなりダメダメだな」
ラディアの父は魔王ザディラム、そう言えば二人とも同じような白髪に黒っぽい肌、目の色も同じだったしどっちもスゲー美形だったな。
改めて彼の父親がやったことを口に出してみたが酷い。
ラディアはかなり嫌ってるみたいだが当然の気がしちまうんだよなぁ。
「違うよ、魔王として駄目なのは勝手だけど偉そうに父親面してる辺り許せないんだ。何年も会って無かったのにさっきアイツは何て言ったと思う? 『ここから先は危険だ、子供の行くところじゃない』だってよ。僕が魔法を使える様になってるのも知らなかった、それで謝罪もなしだ。あんな奴伝説の勇者にでも討伐されちゃえばいいんだ!」
怒鳴り散らして悪態をつく少年、随分ご立腹なご様子で。
何だか金持ちのとこの子供が言いそうな案件だ。
さっきまで怯えていたか弱い美少年って感じだったのに魔王に会ってから鋭い目つきで睨み付けてるし俺たち三人は何も言い返せなくなってしまっている。
いや、眼光だけならさっきの魔王と同じなんだもんな。
ひとしきり叫んで落ち着いたのかラディンは深呼吸して話始める。
「ごめんね金治さん、もうザディラムの事はいいよ。今はこの部屋を何とかしなくちゃ。アイツらに頼ってても一生クロノスはこのままだもんね」
彼の言葉を聞いて部屋を見回す。
因みに魔王様とその御一行は軍を連れて時計塔には入れないとのことで別行動になったのだ。
……信じていいんだよな?
魔王軍がバックについてるって事で強気になって戻って来たけど不安になって来たぞ。
「いやいや、考えてもしゃーないよな。ラッキーな事にここには誰も居ないみたいだけどまずどうするんだ? 早くシオンたちを助けに行きたいんだけど……」
……ヤバいな。
俺はシオンとローレンスを置いて魔界に飛ばされてしまった。
何故か彼らはベラムスに捕まったとばかり信じ込んでいたが殺されちまっててもおかしくないんだよなぁ。
それにどうやって助けるか全く考えてなかった。
「仲間が心配なんだな。不安なのは分かるがまずこの部屋を何とかしないとどんな効果があるか心配だ」
ヴァイロンが肩を叩いてそう言った。
「何とかするってどうすんだよ。魔法の効果を消す呪文でもあるのか?」
彼も元魔王軍四天王、そして魔法の天才だ。
何か強力な魔法で知的な打開策を……。
「どうするって決まっているだろ、この部屋を破壊する」
「は? んな適当な方法で……」
「それが正解だろうね。この量の複雑な術式を解除していては時間が足りないよ。どうやら時計塔自体が魔法陣の一部になってるっぽいし壊しちゃうのが早いね」
冷静なトーンで無茶苦茶を言いながら魔法を放とうとする二人。
壊すってこの時計塔をか?
こういう雑な作戦は嫌いじゃねーが嫌な予感しかしねぇ!
「おいおいおいおい! そんな脳筋な方法で大丈夫かよ!? もっと安全に……」
「時間をかけている暇はないぞ、君たちも攻撃だ! ハァァァ……、『ブラックボム』ッ‼」
ヴァイロンが叫ぶと黒い光球が杖から発射され……。
ドッゴォォォォォォンッ‼
巨大な歯車の一つに当たると凄まじい爆発を巻き起こし、ガラガラと大時計の部品が崩れ落ちる。
躊躇ねぇなぁ…。
「僕も行くよ。発動、『グラ・クライム』ッ!」
ラディアも呪文を叫び、床に手を付けると今度は反対方向にある歯車に向かって衝撃波が床を走り抜けていく。
バキバキバキ、ズバァーーンッ‼
衝撃波が当ったと思ったらその歯車は内側から破裂するように弾けた。
……こいつらなんつー魔法ぶっぱなしやがるんだ。
「金治! 俺様たちも負けてられないッチェよ! 『ギガ・ヤミボルト』ッチェ‼」
チップも叫んで、角から黒い電撃を発射する。
……どうやらもうやるっきゃないみたいだな。
「ああもう、時計塔ぶっ壊したら絶対怒られそうだけどもうやってやる! これも全部魔王のせいだからな! 俺は知らねぇぞ!」
もう自棄になって俺は魔法の短剣を手に近くの機械を真っ二つに切り裂く。
後の事を考えてる暇はもうねぇ!
弁償って言われたら請求先はザディラムにしとくからな!
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暫く俺たちが機械室で暴れていると部屋に敷かれた魔法陣が激しく点滅して光を失った。
部屋が突然暗くなる。
「皆私の近くへ、『ブライト』! ……どうやらベラムスの魔法陣は止められた様だな。しかしなんだ? 妙に魔力の流れがおかしい」
魔法で杖の先端を光らせたヴァイロンのそばに集まる。
大時計の機械は無茶苦茶に破壊され、魔法の光も完全に消えている。
しかしヴァイロンは不安気だ。
「そうっチェか? この部屋の変な魔法はなくなったッチェよ、後はベラムスをやっつけるだけッチェね! とっととやって帰るッチェよ!」
「待って、ヴァイロンさんの言う通り何か変だよ。きっとこの部屋の魔法陣が効果を失ったから異変が生じたんだ。急いで外に出てみよう! 金治さん、出口は分かるよね?」
怪訝そうな表情で問いかけて来るラディア。
「何かヤバいのか? 俺には分からないけど。取りあえず出口はこっちだぜ」
らせん階段を駆け下りて外へと飛び出すと不思議な光景が広がっていた。
街が破壊されていたりするわけではない。
時間も夜ではないし、太陽らしきものが空には見える。
しかし全ての景色がまるで昔のテレビでも見てるかのように白と黒だけの世界だった。
色があるのは俺達だけ、街の景色も空も全て色が無くなっていたのだ。
……どっかでこんな事あったような。
「何だっチェかコレ!? 色がないッチェ! ……この街は変わってるッチェね」
「そんな訳ねーだろ! どうなってやがるんだ? 夜、じゃないよな…」
「確か魔界と地上は昼と夜が逆の筈だ、今は昼間の筈だよ。……ねえ金治さん、あれ見てよ。ここの人間は特別って訳じゃないよね……?」
ラディアが震えながら指さす方、大通りの方にはたくさんの人が立っていた。
彼らも景色同様に色がない。
……いやそれだけじゃないな、見渡す限り街の人々の動きが泊まっている。
まるで写真でも見ているような風景だ。
「これは……、全てが止まっているのか? 時間を止める魔法など無い筈だ。もしや時計塔の魔法陣を止めたことでもともと効果を及ぼしていた範囲に異変が起きたというのか!? いやそんなことは……」
ヴァイロンでも分からない状態なのか。
それに時間を止めるって…。
「そうだ、俺はコレを見たことあるぜ。魔法の神様に会った時も同じように周りの色が無くなって時間が止まってたんだ。でも今回は神様のせいじゃない」
俺がこの世界に来て最初の1週間くらいの時だった。
レイラとパーティを組んで、シオンがクエストを依頼して来てアンデッドモンスター討伐のクエストに出向いたんだよな。
『神様の箱』を開けたら魔法の神様が出て来て時間を止めた。
その時の状況が正しく今のクロノス・スタッフなんだ!
「魔法の神様……、『神様の箱』の伝説か。まさか本当に実在していたのだな。その話は非常に興味深いが今はそんな場合じゃない。街を見に行くぞ!」
ヴァイロンの掛け声で俺たちは走り出した。
街の人々はまるで石にでもなったかのように固まっていて、押してもビクともしない。
活気があふれていたであろう商店街もそのまま止まっている。
シオンたちと来た魔法雑貨の店も色を失い、カラフルな道具でいっぱいだった店内もモノクロだ。
店長もその娘とか言ってた女の子も色を失い止まっていた。
……クロノス全てが止まっちまったのか?
俺たちが通りで話し込んでるとガシャガシャと金属がぶつかる音が近づいて来た。
周りを見渡して身構える。
「見つけたぞ、反逆者どもだ! お前ら武器を捨てて降伏するんだ! ベラムス様の命において貴様らを逮捕する‼」
その時、路地から全身を銀色の鎧に身を包んだ奴らが現れた。
それはお城の兵士たちだった。
彼らは槍をこちらに突き出し、曇った声で叫ぶ。
時間が止まったクロノスで出会ったのは敵の手下たち。
……最悪だ。
「ベラムスの手下か! 自分の魔法で自爆はしないように細工はしてあったみたいだな。ここで捕まる訳には行かない、隙をついて逃げるぞ!」
俺たちは武器を手に身構える。
「クッソ、逃げるってどこに行くってんだよ! 魔界に行く前に追っかけられた時は馬車で国の外まで行けたけど今は全部止まっちまってるぜ! ついてねーなぁ…」
「でも逃げないと、ベラムスに捕まったらただじゃ済まないよきっと。……アイツのせいで国が一つ壊されちゃうなんて許せない、僕は戦うよ!」
アイツってのは魔王、コイツの親父の事だろうな。
ラディアの奴震えてる癖に強がりやがって。
「このチップ様を逮捕するとは生意気ッチェね! 金治、俺様たちも負けてられないッチェよ!」
この野郎、いつも無駄に元気だな。
……ついてなくてもやるっきゃないか。
恐らく適当に隙をついても逃げられないだろう。
だったらここは正面突破…。
「しゃーない、戦うぞ! アイツらをぶっ飛ばして仲間を助ける、ついでにこの国もな! 魔界の連中のせいでこうなってんだからお前ら手伝えよな‼」
俺の叫びにニヤリと笑い頷く三人。
隣にはつよ~い仲間が居る。
それに俺は超ラッキーな筈だ。
ピンチなんかもう慣れたぜ、毎度おなじみ逆転タイムはここからだよな?




