第85話 結成、最強部隊?
魔王。
ゲームやファンタジーが好きなら聞いたことがある単語だろ。
で、この名を名乗る奴はだいたいラスボスが定職な筈だよな?
俺はこの状況に異議を唱えるぞ……、魔王が何でこのタイミングで登場するんだよ!?
絶対おかしいだろ!!
俺たち四人の前に立ちはだかったのは魔王ザディラム。
いや、このタイミングでラスボスが出て来るかよ。
こっちはレベル10の遊び人にチビ悪魔、魔界の子供、戦力になるのは元四天王のヴァイロンだけだよな。
周りの空気的に友好的な感じじゃないしコレピンチじゃん…。
「なあチップ、魔王って魔界に来れば会えるようなヤツなのか? なんか怒ってるっぽいしヤバい?」
「お、俺様だって魔王様を見たのは初めてッチェよ。この感じ、間違いなくアイツ強いッチェね。魔王軍をクビにした仕返しをしてやろうと思ってたッチェが今回は見逃してやるッチェ……、ジェジェッ!」
一人回れ右をして帰ろうとするチップの角を掴んで引き留めた。
この状況で一抜けは許さないからな!
「に、逃げようよ……、捕まったらお終いだよ金治さん。アイツには敵わないよ…」
背中に隠れたラディンがマントを引っ張って小声で訴えかけて来た。
確かに戦闘になったら俺たち即死なんだよなぁ。
俺は少し悩んだが頷く。
急いでクロノスに戻りたいけど死んじゃったら意味ないもんな。
「なら早く行くッチェ! ヴァイロンのおっさんなら一人でも逃げれる魔法を持ってるッチェよ! 俺様達は走って……、何だっチェかコレ!?」
振り返って来た道を走り出そうとするとそこには赤黒く輝く光の壁が発生し、行く手を阻んでいた。
「何なんだよ、ボス戦からは逃げれないってのかよ!? おいヴァイロン、何とか出来ないのか?」
魔王とにらみ合っていたヴァイロンも振り返る。
「それはザディラムの奴が張った魔法壁だ。私たちでは破壊する事すら不可能だろうな……。おいザディラム! 私たちは急いでいるんだ、道を開けてはくれないか?」
魔王は怪しい笑みを浮かべて答える。
「助けてやったのに礼も無しか。……答えはノーだ。我がはるばるこの街まで来たのはヴァイロン、貴様を魔王軍に再び加入させるためだ。予想外の副産物も見つけたがな」
ヴァイロンは長杖を魔王の方に向けて身構える。
「私は魔王軍になど戻る気はない! 既に妖精魔法の秘密はこの金治たちが解いてくれた。魔王軍の侵略行為も政略も私は興味がないからな」
険しい表情で言い放ったヴァイロンはフッと笑みを浮かべる。
「それに私に魔王軍幹部は重労働すぎる。個人的な研究は好きだが業務として働くと言うのは大嫌いだ!」
この半竜人、いい感じの事を言ってるようで要は働きたくねぇって言ってやがる。
素晴らしい四天王だな。
一方魔王は不思議そうな顔をして…。
「業務量に不満があるなら申し出てくれれば改善するんだがな……。いやそれ以前にだな、侵略行為とは何のことだ? 我が魔王になってからは侵略はしておらんぞ?」
……何言ってんだこの魔王。
魔王が地上を侵略してくるから人間対魔王軍の戦いになってんだろ。
どのゲームでもお馴染みの展開、……そもそもこの世界に来る前に女神クロムがそう説明してたしな。
不自然に静まり返る真夜中のブラックゲスト時計塔前。
ポカンとしてるヴァイロンの横に進んで声を掛けてみるか…。
「おい魔王……、ザディラムだったよな。何でこのタイミングで出て来たとか文句はいろいろあるけどまず一つ言わせてもらうぜ。自分の軍のやってることには責任持てよな! お前らがあっちこっち攻撃しかけて来やがるから俺たちは何度も死にかけてんだぞコノヤローッ‼」
調子に乗って俺が日頃思ってたことを叫んでやった。
俺はのんびり平穏に、異世界生活で遊んで暮らそうと思っていた。
しかし現実は王道の様なバトルの連続……。
半分はトラブルを引き寄せる女神クロムのせいだとしても根本的な原因はドラゴンやら四天王やらを行く先々にタイミング悪く派遣しやがるこの魔王様とやらのせいなんだよな。
悪意全開のラスボスならともかく、散々やっといて知らんぷりとは何てヤツだ!
許せねぇな!
「魔王様になんて口の利き方をするんだこの人間風情が! この四天王ゼラが貴様を処刑してくれる!」
いつの間にか魔王の隣に立っていたヤツがゴデゴデに装飾の付いた槍を突き出して来る。
ふと気が付くと骨の馬に乗ってこれまたガイコツ兵の騎馬隊が俺たちを取り囲んでいた。
四天王ゼラと名乗ったソイツは貴族っぽい青い服と騎士の鎧を合わせたような軽装備っぽい格好だが肌を出来る限り隠すようになっている。
その鎧の隙間から見える腕や顔は人間とも悪魔とも異なる銀色に輝く金属の様だ。
何のモンスターか分からないが四天王ってんだから強いんだろーなぁ。
「止めろゼラ! おい人間、我が魔王軍と戦っていた様だが……、攻撃されたと言うのはどういう事だ? 地上は魔王軍のものだろう?」
ったく何言ってんだかこの魔王は…。
「何で地上を既に手に入れた気になってやがるんだよ。人間と魔王軍との戦い、その決着はついてないだろ? 絶賛戦争中じゃねーか!」
どうにもこの魔王と話がかみ合わないな。
チップたちも不思議そうだ。
「おい金治、何言ってるっチェか? 魔王軍と人間の戦いは500年くらい前に魔王軍の勝ちで終わってるッチェよ。俺様は人間が革命を起こそうとしてるから止めて来いって言われたからフロントを襲ったッチェ。……おかしいッチェね?」
「私は魔法の研究だけの人生でしたから歴史には疎いのですが……、私は人間がフェアリーテーブルで魔界に攻め込む研究をしているから阻止して来いって言われて出向いたのですが…」
「おいヴァイロン、それはおかしいぜ? フェアリーテーブルでは強い筈の古代魔法だかも危険だから~って禁止されて便利魔法しか研究してないって話だったぜ」
俺はチップやヴァイロンと戦ったが目的と事実がずれてるなぁ。
……おかしい。
「我は人間が反乱を起こしているという情報を聞いてる。阻止するために魔王軍を動かしただけだが…」
「やっぱり何も分かってなかったんだね……。魔王軍も人間も……」
俺の後ろに隠れていたラディアがため息を付いて進み出た。
震え声でまだビビってるが相当勇気を振り絞ったんだな、見りゃわかるくらいに。
「僕は地上も魔界も見て来たんだよ。でも地上は人間たちが占領してるし、魔王軍が攻めて来る以外には災いなんてなかった」
俺の隣に立って声を上げる少年。
彼の言う通り地上は今のところ人間が支配してることになってる筈だ。
そして侵略して来てるのは魔王軍だ。
「だが報告では地上は既に魔王軍が…」
「自分の目で見たことがあるの? 報告だけで全てを知った気になって、実際はどうなってるか知らないでしょ? それだから駄目なんだよ! 魔王としても……、お父さんとしても!」
俺は思わずラディアを二度見した。
あーあ、と言った感じで顔を抑えるヴァイロン。
俺同様慌てふためいているチップ。
急展開過ぎない?
ゲームだったらプレイヤー置いてきぼり事案だよ!
「えっと、取りあえずまとめるぞ? 魔王軍は何か勘違いして地上を攻めていたんだろ。それでラディアのお父さんが……、あれなのか?」
再び訪れた静寂をゆっくり破って俺は誰とは言わず尋ねる。
「随分問題をザックリまとめたね、金治君。どうやらザディラムの勘違いで私たちは動かされていたらしい。ちなみにラディア様の父上は残念ながらあのろくでなしで合っている」
頭を抱えて辛辣そうな表情でヴァイロンが答えてくれた。
「そうだったっチェかぁ……、いやいや俺様は最初っから分かってたッチェよ! おい魔王、どうしてくれるっチェか!?」
絶対知らなかっただろうチップが見栄を張るが構ってる暇はないな。
「ラディアお前凄かったんだな……、いや、今はそんな場合じゃなかったよな」
「そうだね、急がないと。でもお父さんが魔王でも別に凄くないよ。数回しか会ったことがない他人みたいなものだから」
さっきまでの儚げな美少年からは予想もつかない凄まじい睨みを効かせて、そのお父さんこと魔王ザディラムを見るとチッと舌打ちしやがった。
うん、やっぱお前スゲェよ。
「それじゃあ魔王さんよ、俺たちあんたが間違って送った四天王のせいで捕まった仲間を助けに行くから通してくれよな。……って言うかベラムスを止めてくれよ」
俺がふと思いつきで駄目そうな魔王に頼んでみると予想外の答えが返って来た。
「ベラムス? そう言えば最近見てなかったな……、ゼラは何か聞いてるか?」
「いいえ魔王様、ベラムスから常務報告をこの2,3か月受けてません。それにクロノス・スタッフには現在軍を動かしてないはずです」
……ここでも話が合わないのかよ。
「頼むヴァイロン、アイツらでも分かるように説明してやってくれよ。俺は疲れたぞ」
「恐らくベラムスが単独で始めた侵略行為だったのでしょうね。いいでしょう、ザディラム、私の話を聞きなさい。まずクロノスの事ですが…」
----------
「ふーん、お前も大変だったんだなぁ。でもそんな贅沢で楽な暮らし出来るなら俺なら居座っちまいそうだけどな」
「そんないい物じゃないよ。僕は自由な人たちが、人間の冒険者が羨ましかったんだ。金治さんの冒険談も聞かせてよ」
「それなら俺様も話してやるッチェ! 題して遊び人金治対ドラゴンッチェ、これは面白いッチェよ!」
ヴァイロンが説明している間、俺たちは隅っこで座り込んで駄弁っていた。
ラディンは人間でいう貴族として豪華な暮らしをしていたらしい。
人間もモンスターも変わらず窮屈な暮らしは嫌いで自由が好きなんだな。
「おいその話だとお前が負けているがいいのか? それより説明が終わったからお前たちも来てくれ」
ヴァイロンに従って俺たちは再び魔王の前に並ぶ。
相変わらず凄まじい威圧感があるが表情はさっきと異なりおとなしげだな。
「ヴァイロンから話は聞いた、我の統治がままならぬが故どうやら多大なる迷惑をかけていたようだな。本当にすまなかった」
深々と頭を下げる魔王。
まさかファンタジーの世界に来て魔王に謝られるとは思わなかったな。
「ベラムスのやってることは放ってはおけない、全面的に協力することを約束する。どうかクロノスを救出するのに我々も手伝わせてくれ!」
右手を差し出して来る魔王様。
まさかの見方がついてしまったな。
これもラッキーで済ませちゃっていいのか?
「ああ、当然責任とって貰うぜ! ……まあ俺は仲間を救出出来ればよかったんだけど、魔王が仲間なら…」
俺はその大きな手を握り返しながら答える。
自問自答すると実感がわいて来る、魔王って最強じゃん。
……負ける気がしねぇ!
「みんないいか!? クロノス奪還クエスト、開始だぁ!」
響き渡る仲間……、というか軍勢の雄たけび。
最強クラスのモンスター軍団を従えて、俺は時計塔に踏み込んだのだった。




