第84話 魔王降臨
玄関から外を覗くと赤い目を光らせた巨大な怪物が一頭、徘徊しているのが見えた。
ライオンっぽい鬣の付いた頭に鳥っぽい大きな羽、鱗っぽい尻尾といろいろな生き物を繋ぎ合わせたような姿をしている。
「あれは俗に言う『キメラ』だ。私の魔法でも倒せないことはないが派手なスキルを使えば仲間が集まって来る。夜の間だけどこからともなく現れる、我々悪魔も恐れている連中だ。街の中心、時計塔まであの怪物を掻い潜って向かうのは無謀だと思うがな」
ヴァイロンはため息交じりに説明してくれる。
キメラ、これまたファンタジーの超王道モンスターだな。
確かにあんなのと戦ったら確実に死んでしまうだろう。
でも早くクロノスに、仲間を助けに行かないとアイツらが死んじまう。
俺はジッと白髪の少年を見つめた。
「う、うん。僕の魔法なら大きな音を立てずにやれる筈……、だよ。ベラムスを止めるんだ。僕が金治さんを時計塔まで導くよ!」
ラディアは震える声でそう呟くと前へと進み出た。
魔界の夜には怪物が出る。
ヴァイロンもチップも今から夜になるこの時間に外に出るのは自殺行為だと止めて来た。
しかし地上も魔界も時間の流れは同じだと言う。
時間法なんかを作ったベラムスは予想通り支配するのが大好きな上、気に入らない物は消す独裁者気質を持つ最悪な悪魔だと元同僚は教えてくれた。
夜が明けるまでのんびりしてたらシオンたちが危ない。
急ぐ俺を手伝うと言い出したのは物陰で震えていたラディンだったのだ。
彼は魔王軍のためにベラムスを止めると言い出したのだった。
意味は分かんないけど助けてくれるなら大歓迎だ。
チップとヴァイロンも仕方ないから付いて来ると言い出したしラッキーか?
ラディアは進み出ると両腕を突き出し、集中する。
俺たち三人はその様子を息を飲んで見守った。
「やって見るけど……、駄目だったらごめんね。ンッ、『シャドー・スパイク』ッ!」
ラディアが叫ぶと彼の手から黒いオーラが発生する。
黒いオーラは音もなく地面を影のように伸びてキメラの周囲を囲み…。
「今だ! いけっ!」
ドガガガガガッッ‼
ラディアが拳を空高く突き上げると地面を這うように伸びた陰から無数の黒い槍が突き出した。
無数の黒い槍に貫かれたキメラは声を上げることもなく絶命したようだ。
中々にえげつない絵面だな。
「す……、すっげぇな! ラディアお前スゲェじゃん! これなら時計塔、あれだな。結構遠いけどキメラが居ても大丈夫だろ。行こうぜ!」
俺は思わずヴァイロン家を飛び出してラディアの肩を叩いた。
この世界に来ていろんな魔法を見て来たけど威力、速さ共に最大クラスに凄かったのだ。
絶望の中には何時でも希望があった、今回はコイツだな!
「そ、そんなことないよ……。でも僕もクロノスを守るの、金治さんと一緒に行くよ! ……失敗したらごめんね」
相変わらずおどおどしているが彼も何か覚悟したみたいだ。
……会ったばっかりの俺を助けて、手伝ってくれるなんて親切で強いなんて将来はかなりのイケメン野郎になるんだろうなぁコイツぁ。
ヴァイロンも満足げに頷き、俺らの隣に立つ。
「凄いのも当然だ、ラディア様は特別だからな。それよりもう少し静かに話せ! キメラ全部と戦ってたら何時まで経っても時計塔まで進めないぞ」
そんな彼の言葉を全く効いていないチップは俺たちの前に出て歩き始める。
「ヴァイロンオメー何言ってんだっチェか、このチビ強いんだから大丈夫だッチェよ! さあ俺様について来るッチェ! いざとなったら俺様が……、ッチェッチェ!?」
威勢よく歩くチップの前に大きな獣が立ちふさがっていた。
もの凄い敵意を俺たちに向けてるキメラだね。
「ひっ、こ、怖いッチェ! 死んじゃうッチェ! 助けろッチェ‼」
「だから言っただろこの馬鹿が! みんな俺の後ろに!」
杖を構えるヴァイロン。
さあ、夜の魔界でスニークミッション開始だ!
……もう破綻しかけてるけど。
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30分ほど隠れたり不意打ちでキメラを倒しながら夜のブラックゲストを進んだ。
かなり遠くに見えていた高い時計塔もだいぶ近づいて来たな。
地上で見るよりずっと巨大な月が夜空では輝き暗くはない。
一見順調に見えるけどそれはついさっきまでの事なんだよなぁ。
「ひぇぇぇえっ、追い付かれるッチェ! おっさんとチビで何とかするッチェ!」
「無茶言うな馬鹿チビがっ! あんな大量のキメラを一掃する魔法は詠唱に時間がかかるんだ、走りながら撃てるか!」
「僕もう……、限界ですぅ……。ひぅ、マントを嚙み千切られました!」
「おい掴まれラディア! ああもう、時計塔まで逃げきれないよなぁ。どっかアンチでもないのかよ!?」
魔界の街ブラックゲストを爆走する俺たち四人。
それを追いかけて来るは大量のキメラ。
俺は魔法のマントの助けもあってラディアを引っ張ってもそれなりの速さで走れているがそろそろキツイぞ…。
立ち並ぶ不思議な外見の家々からは時折顔を覗かせて俺たちを見ているモンスターの姿が見える。
……見てるなら助けてくれよ。
「流石にこのまま時計塔までは厳しいか! こうなったら仕方ない、適当な家に飛び込むぞ!」
先導するヴァイロンが叫んだ。
「それしかないッチェね! 金治は知らないッチェよね? 魔界の建物にはモンスターが入って来ないように結界が張ってあるッチェ、だから建物に入れば安全ッチェよ!」
こんな時にでも自慢げな顔でこっちを見て来るチップ。
「理屈はどうでもいいっての! もうあそこでいいや、飛び込むぜ!」
俺はラディアを抱えて前方にあった家の窓に飛び込んだ。
チップとヴァイロンも後に続いて転がり込む。
「いつつつつ……、うおっ!? 家の中にもモンスター!」
「モンスターとは失礼ね! 私は悪魔……、って貴方人間!? それにヴァイロン様まで! ……でもバカチップは余計よねぇ」
起き上がると緑の鱗っぽい肌で頭に角を生やしたヤツと目が合って思わず叫んだ。
ソイツはどうやら悪魔で声的に女性らしい。
流石魔界の街、いろんな悪魔が居るんだなぁ。
「失礼お嬢さん、急いでいるものでお暇させてもらいますよ。……おっと、外は危険ですから窓は開けないことをおすすめしますね。ほら金治君、ラディア様も急いで!」
俺がポカーンとしているとヴァイロンが背中を押してきた。
気になるけど観光してる暇じゃなかったよな。
「お邪魔しました! 行くぞラディア、チップ!」
「う、うん。お邪魔しました……、うわっ!」
俺はラディアを引っ張って再び駆け出した。
トカゲの女性の家を通り抜けたおかげでだいぶ近道できたみたいだな。
俺たちは運よく時計塔の入口まで真っ直ぐ続く道に飛び出した。
「やったッチェね! 後はあそこまで行けば……、チェチェ!? キメラが来てるッチェよ!」
振り返ると再びさっきのライオン頭どもが迫って来ている。
「うぉぉぉおい! 走るぞコノヤローッ‼」
もう自棄だ!
走る俺たち、迫るキメラども。
時計塔の入口まであと少し。
その時だった、骨の馬に乗った騎馬隊の様な連中が塔の脇から現れて立ちはだかる。
先頭の一人が骨馬から降りると2m近くありそうな巨大な剣を頭上に掲げた。
ヤバい感じはした、しかし俺たちはひた走る。
一瞬の出来事だった。
ソイツが剣を大きく薙ぎ払うと巨大な闇の衝撃波が発生し、俺たちの頭上を切り裂いた。
俺たちは思わず伏せる。
その直後背後で凄まじい閃光と爆発音が響き渡ったのだ。
振り向くと消し炭になったキメラたちの残骸が……。
「お前は人間だな、なぜ魔界に居る? ……まあいい、夜は危険だ。知らないと言う事はないだろうヴァイロン。こんなところで何をしている」
俺たちの前に進み出て来た大剣の男が話しかけて来た。
ソイツはパッと見、長身で40代くらいの男性だろうか。
灰色っぽい肌に靡かせた白い髪、羽織った足元まである黒っぽいロングコートは赤い模様が怪しく輝いている。
頭にあるねじれた角から悪魔であることは予想がつくがそれ以前に威圧感が凄い。
こう、赤く輝く目が全てを飲み込む様だ……。
ヴァイロンは身構え、チップとラディアが俺の後ろに隠れやがる。
「お、おいヴァイロン、あのおっさんお前の知り合いか? モノスゲー怖いんだけど、ぜってぇヤバいヤツだろ」
俺は隣に立って怖い顔をしているヴァイロンに訪ねる。
彼はしばらく間を置いた後、苦しそうに答えた。
「コイツは魔王。……魔王ザディラムだ。気を付けろ、私たちでは敵わない相手だ……」




