第83話 ブラックゲストへいらっしゃい
「いい加減起きるッチェ! 何時まで寝てるっチェか!」
耳元で誰かが……、何かが叫んだ。
どうやらここはベッドの中。
しかし聞いたことある声だな、この特徴的な…。
「ここはどこだ……、って言うかお前はチップ! 何でここにいるんだよ!?」
ベットから飛び起きて思わず身構えた。
近くに置かれた椅子の上に立って騒いでいるのは薄い紫っぽい色の体をした二頭身ほどのゆるキャラっぽいヤツ。
頭にはバイキンの絵で描かれる様な矢印っぽい角が二本、同じ形の長い尻尾。
そして特徴的な声と語尾。
間違いない、結構前にフロントにドラゴンをけしかけて来た悪魔のチップだ!
「起きて早々騒がしいヤツっチェね。よく聞くッチェ、このチップ様が溺れてたマヌケな人間のお前を助けてあげたッチェよ! 感謝するッチェ‼」
椅子より高いテーブルの上に飛び乗って偉そうに胸を張るチップ。
そうだ、確か俺は時計塔で魔法陣を切りつけた筈が何故か落っこちて水の中に…。
「そ、そうかありがとなチップ……。ところでここはどこなんだ? クロノスだよな、これお前の家か?」
「フッフッフ、そうッチェよ。俺様の自慢の家ッチェ……、痛いッチェ‼」
チップは後ろに立った人物に杖で頭を引っ叩かれてのた打ち回る。
「全く、君は何でそういつも見栄を張るんだい? ここは私の家だし彼を助けたのも君じゃないだろ。……フフッ、意外に早い再開だね。また会えてうれしいよ金治君」
微笑みながら頭を撫でて来るソイツは出来れば会いたくない部類のヤツだ。
長身のその男は長い髪に黒いローブ、片手に持った大きな杖。
何より目立つのは半身を覆う赤い竜の鱗。
「お、お前はヴァイロン!? 何でお前がクロノスに居るだよ!?」
魔王軍の四天王ヴァイロン、それに悪魔のチップ。
何だよここ、クロノス・スタッフって敵の本拠地か何かなのか?
「まあまあそう強張んなくても大丈夫だよ。ほらこっちにおいで、特製のスープを御馳走しよう。……安心してくれ、もう私たちは魔王軍じゃないからな」
手招きするヴァイロンに続いて隣の部屋に向かう。
そう言えばコイツ、魔王軍抜けたって言ってたっけな。
ふと気が付いたが俺の服が着替えさせられてるし助けてくれたのは本当らしい。
しかしなんだか不思議な感じの家だな。
怪しい置物や図表みたいなのがあちこちに置かれ、そこら中に分厚い本が山積みにされている。
空気も建物の作りも何か不自然な……、こう怪しい感じだ。
チップに急かされて俺はヴァイロンの跡を追った。
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テーブルに着くとヴァイロンがスープの入った厚皿を目の前に置く。
いい匂いはするけど……、見るからに紫色で毒々しいんだなぁ。
「ん? どうしたっチェか、ヴァイロンは堅物だけど料理の腕はピカイチッチェよ。このブラッドスープ魔界風もイケるッチェ!」
幸せそうに大きなスプーンを頬張るチップに習って怪しいスープを口に運んでみるがなるほど、コクのある甘味が広がるシチューみたいな味だな。
外国の料理の様な初めての味だが中々に美味しい。
「おおっ、見た目はアレだけど旨いじゃん! 四天王でイケメンで料理も出来るってヴァイロンお前……。そういやチップは何でヴァイロンと一緒なんだ? お前は魔王軍だろ」
一口食べたら空腹が沸き上がって来て無限にかき込んでしまう。
ヴァイロンは笑みを浮かべてチキンの様な揚げ物が盛られた皿をテーブルに置く。
「うむうむ、気に入ってくれたようで何よりだ。遠慮しないで食べてくれ。それとチップはだな……、あんまり言うと不貞腐れて面倒なんだが要はリストラされたんだ、魔王軍からな。フロント侵攻の作戦がポシャったのが痛手になったのかどんどん部署変えされてついにはなぁ」
哀れそうにそう言って深いため息を付く。
ああ、コイツ役に立ちそうな感じはしなかったもんなぁ。
「何ッチェか、金治の癖にその憐みの目は!? 俺様はちっとも悔しくないッチェよ! ショボい魔王軍なんてこっちから願い下げッチェ! 今はヴァイロンから技術を盗んで最強の悪魔にならなくちゃいけないから忙しいッチェよ!」
生意気にそう言い切って急いで料理を口に突っ込むチップ。
そんなチビ悪魔の頭をヴァイロン小突く。
「おい、今は魔王軍を悪く言うのは止めろ。アイツが居るんだからな」
さっきから視線が気になってたがアイツか。
ヴァイロンの指さす方、扉の陰から俺たちを見つめる一人の少年。
小学生くらいの背丈に灰色っぽい肌、長めの白い髪の間からは短いが二本の角が生えている。
アイツも悪魔だろうな……、ってかどっかで見たな?
「アイツは恥ずかしがり屋なんだ、多目に見てくれ。……いや、紹介するべきだったな。金治君を助けたのはあの少年、ラディアなんだ」
ヴァイロンの言葉に俺は立ち上がってその少年に歩み寄る。
ビクッとして逃げようとする姿を見て慌てて立ち止まった。
「待てよな! 俺は金治、天勝金治だ。助けてくれてありがとう! お前確か俺が水に落ちた時目あったよな? ……そもそもあそこはどこだったんだ?」
俺は出来る限り驚かさないようにお礼を言った。
このラディアの気持ちはよく分かる。
得体の知らないヤツ、しかも年上の奴なんか怖いに決まってる。
俺がコイツくらいの年齢ならビビッて覗き見る事すら出来なかっただろう。
少年はゆっくりと扉の陰から出て来る。
うん近くで見てはっきりと分かった、これが美少年って奴か!
「えっと、あの……、初めましてラディアと言います。ヴァイロンさんとチップさんのお友達なんですよね? 魔界で人間に会うとは思わなかったので……、少し驚いてしまいました」
しどろもどろ答えるラディア。
カワイイな……、じゃなくて今魔界って言ったか!?
「お、おい、魔界ってどういう事だよ? ここはクロノス・スタッフの時計塔の裏かどっかだろ。俺はさっきまでクロノスに…」
「何言ってるっチェか? ここは魔界の街、『ブラックゲスト』ッチェよ。クロノスって地上の国ッチェよね、こことは関係ない場所ッチェね」
呆れ顔でチップが呟く。
「魔界の街って……、実際さっきまで俺はクロノスに居たんだぜ!? それが何で魔界なんだよ! もしかして俺、死んじまったのか? 魔界ってあの世なのか!?」
顔を見合わせる三人。
俺はおかしい事言ってないだろ?
「あ~、なんだその魔界はあの世とは違うんだが……。遊びに来たわけじゃないのか? 魔界と地上は何かの間違い程度じゃ行き来出来ない筈なのだが。取りあえず何があったか説明してくれないか?」
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ヴァイロンに宥められて俺は思い出す限りを話す。
クロノス・スタッフで問題が起きている事、悪魔ベラムスと戦った事、そして国を操る魔法陣を切りつけて水に落っこちた事。
最初は俺の話より料理に夢中だったチップも驚きの表情で聞いていた。
「で、今俺はここでお前らにあった訳だ」
「なるほどな、ベラムスの奴か……。話の感じからほぼ間違いなくその魔法陣が原因だな。国を操るほどの大魔法などどれほど魔力のある魔法使いでも難しい、恐らく奴は魔法陣で魔界から魔力を供給することで成立させていたのだろう。その魔法陣を無茶な方法で壊そうとしたから魔界へ飛び込んでしまったのだろうな」
ヴァイロンが結論を出した。
「魔法陣ってのは炎を出すにしてもモンスターを召喚するにしても魔界への扉を開く為のものだ。発動中の魔法陣に飛び込めば魔界に逆走してもおかしくはない」
そう言えば前、シオンたちが似たようなことを言ってたよな。
理屈は分かるけど、魔界は気になるけどシオンとローレンス、それにレイラもクロノスにまだいる筈だ。
「そりゃ困るぜ、仲間がまだクロノスに捕まってるんだ! 何か戻る方法はねぇのかよ?」
このままずっと魔界にいる訳にも行かないよな。
「帰りたいなら簡単ッチェよ、もう一度魔法陣を潜ればいいッチェ! 国をずっと操ってる魔法って言うッチェなら魔法陣も同じ場所にずっと出てるはずッチェ!」
「なんだ簡単じゃん! で、その魔法陣はどこにあるんだチップ?」
案外すんなり道は見えたな。
俺がチップを期待を込めた目で見るとソッポを向いた。
「そ、そんなの知らないッチェ! 金治が魔界に来た時の場所にでもあるんじゃないかっチェか?」
コイツ、だいたい何時も詰めが甘いよなぁ。
俺が呆れて頭を押さえるとラディアが袖を引っ張って来た。
「えっと、それならこの街の時計塔じゃないかな……。き、金治さんは時計塔の前にある湖に落ちて来たんだよ……、確か」
とんとん拍子で道が決まるとはやっぱ俺、ツいてるな!
「サンキュー、ラディア! そうと決まれば急いで戻るぜ。ヴァイロンとチップもありがとな! クロノスに戻って仲間と逃げるぜ!」
俺がドアの方に向かって歩き出すとヴァイロンが慌てて引き留める。
「死にたいのか!? いいですか金治君、もうすぐ夜です。魔界の夜には我々悪魔も恐れている怪物が徘徊する時間なのですよ。今から外に出るのは自殺行為です」
真剣な面持ちで論してくる。
「そ、そうなのか? 確かに怪物なんか出るなら危ないか……、でも早くクロノスに戻らねぇと! 仲間が捕まってるかもしれないんだ」
クロノス・スタッフに居る筈の仲間たち。
レイラは分からないけどシオンとローレンスは捕まったかもしくは既に……。
いや、最悪の事態は考えたくない。
ヴァイロンはため息を付いて続ける。
「仲間の身を案ずる気持ちは分かります、でも私が貴方を止める理由はそれだけじゃありません。悪魔ベラムスは……、ベラムスは私と同じ魔王軍四天王です!」
ベラムスは四天王。
そりゃ強い訳だ、国を支配出来たのも納得がいったぞ。
俺、もう諦めて魔界に住もうかな?




